宮廷から伝わる「有職畳」技術保持へ若手育成 奈良・吉野の畳職人

AI要約

奈良県吉野町の畳職人、浜田賢司さんが有職畳の技術継承に取り組んでいる。彼は約半世紀にわたる高度な技術を若手職人に惜しみなく伝えており、伝統を守ろうとする強い意志を持つ。

有職畳の一つである「厚畳」の作り方を指導する研修会には全国から約40人の職人が集まる。手作業で行われる異なる構造の有職畳は、ギュッと締めてもふわっとした仕上がりを求められる。

浜田賢司さんは14代目の「浜田畳店」を継ぎ、有職畳の技術継承のために研修会を開催している。京都の畳専門学校を卒業後、京都御所の畳張り替えを手伝った経験がきっかけとなり、独自に技術を磨いてきた。

宮廷から伝わる「有職畳」技術保持へ若手育成 奈良・吉野の畳職人

有職故実(ゆうそくこじつ)に基づいて作られ、寺社などに用いられる「有職畳(ゆうそくだたみ)」の技術継承が危ぶまれる中、奈良県吉野町の畳職人、浜田賢司さん(70)が各地で研修会を開き、若手育成に取り組んでいる。一般的な畳と構造が異なり全て手作業だが、約半世紀にわたり培った高度な技術を惜しげもなく伝えている。背中を押すのは、伝統を絶やすまいとする職人の矜持(きょうじ)だ。

「畳は針で縫ってギュッと締める。それでも仕上がりはふわっとソフトに」。6月2日に吉野町で開かれた研修会。関東から九州まで約40人の職人を前に、浜田さんが有職畳の一つ「厚畳(あつじょう)」の作り方を指導していた。

奈良県宇陀市室生の畳店で働く久保田貴勇さん(38)は「単純作業に見えるが、おろそかにすると仕上がりが悪くなる。きちんとした有職畳を納められるよう腕を磨きたい」と意欲を見せ、全日本畳事業協同組合の石河恒夫理事長(63)は「有職畳という一握りの人しかできない高等な技術を、個人として惜しげもなく若い人に伝える姿に敬服する」と話す。

江戸時代から300年にわたって続く「浜田畳店」の14代目となる浜田さん。有職畳の技術継承のため平成2年に「TTM(畳・テクニカル・マネジメント)クラブ」を立ち上げ、年に数回全国で研修会を開いている。

有職畳との出合いは、京都の畳専門の訓練学校を卒業した後の20代後半、京都御所の畳の張り替えを手伝ったことだ。

普段は入れないような特別な部屋に入れてもらったとたん、畳が醸し出す深みを感じた。「言葉では表現できない、これが伝統かと思った」

京都の職人に学びながら、独自に有職故実関連の文献を読みあさった。現代のようにマニュアル本があるわけではなく、時には寺社を訪ね、畳をじっくり観察するなどして技術を磨いた。

それからは、「町の畳屋さん」として一般住宅の畳を作る傍ら、吉野町の国宝・金峯山寺(きんぷせんじ)蔵王堂や、同町の吉水(よしみず)神社書院(国重要文化財)の「後醍醐(ごだいご)天皇玉座の間」などに有職畳を納めた。

令和2年の明治神宮鎮座百年祭では、明治天皇をまつる御神座(ごしんざ)を手掛けた。御神座は明治天皇のご神体が鎮座し、大正9年の神宮創建時から有職畳が用いられ、国内で最も格式が高いともいわれる。畳縁の模様のわずかなずれも許されないが、「恥ずかしくない仕事ができた」と振り返る。