声優人生50年・井上和彦インタビュー。自叙伝『風まかせ』で綴った原点と、記念公演『エニグマ変奏曲』での新たな挑戦に迫る

AI要約

井上和彦氏が声優デビュー50周年を迎え、自叙伝『風まかせ』を上梓した。声優としての原点や人生哲学が込められたタイトルは、ウィンドサーフィンと共通する考え方が反映されている。

自伝では井上氏が幼少期に育った横浜の下町での経験や、テレビを通じて接したプロレスやアニメなどの影響について触れられている。

井上氏はアニメ作品『鉄腕アトム』や『W3』などを通じて声優になる契機を得ており、声優業に対する思いや原点が幼少期に遡ることがうかがえる。

声優人生50年・井上和彦インタビュー。自叙伝『風まかせ』で綴った原点と、記念公演『エニグマ変奏曲』での新たな挑戦に迫る

 声優デビューから50年。『サイボーグ009』の009(島村ジョー)、『美味しんぼ』の山岡士郎、『NARUTO -ナルト-』のはたけカカシ、『夏目友人帳』のニャンコ先生/斑など、二枚目、クールな役柄からコミカルなキャラクターまで幅広く演じ分け、日本の声優界を牽引してきた井上和彦氏。

 そんな井上氏は2024年3月に、自叙伝『風まかせ』(宝島社)を上梓した。風を読み、環境に応じて立ち回る――「長年の趣味・ウィンドサーフィンと声優のお仕事は、通ずるところも多いんです」と語る、井上氏独自の人生哲学が込められたタイトルも印象的だ。

 今回は、節目の年を迎えた井上氏に、自叙伝に込めた思いや声優としての原点を、そして8月23日~25日に控える50周年記念公演『エニグマ変奏曲』への意気込みを語っていただいた。

――2024年に声優人生・50周年を迎えましたが、率直にどんなお気持ちですか。

井上和彦(以下、井上):気づいたら50年経っていた、という感覚ですよね。20~30代の頃は「40代ぐらいまでできれば良いかな」と思っていたんです。僕が声優を始めた頃は悲しいことに50代で亡くなる先輩方が多く、60歳を超える方ってあまり多くなかったんですよ。だから10年前は「60歳を超えた」としみじみして……。でも70歳まではすぐでしたね。その10年よりも、もっとあっという間に80歳まで行っちゃうんだろうな(笑)。

――2024年3月に発売された自叙伝『風まかせ』の出版も、声優50周年の節目としてオファーがあったのでしょうか。

井上:そうですね。声優人生が50周年、僕自身はちょうど70歳になるので、何かできると良いねと話していたときに「本を出したらどうですか」と。当初の方向性のひとつに「声優になる方法」を示すようなアイディアもあったのですが、多分ファンのみなさんは、どういう育ち方をして井上和彦が声優になったのか、そしてこの仕事を50年も続けちゃったのはなぜなのか、みたいな(笑)。そこが知りたいんだろうなと考えていました。

 その中で、仕事を楽しく続けるヒントや、僕の生き方が皆さんの人生にとって少しでもプラスになる気付きがあれば嬉しいなと思い、本を出すことにしました。

――幼少期の話も、新鮮な気持ちで拝読しました。

井上:お芝居とは直接関係ないかもしれないですが、僕が育った横浜の下町はすごく恵まれた環境だったように思います。近所の人たちが親戚のようで、裕福ではないけども、みんなで力を合わせて生きていた時代だったんですね。

 あの頃を振り返ると、テレビを買ったというのはすごくポイントが高かった。それによって多くのお客さんが、両親が営む中華食堂へラーメンを食べに来てくれたんです。僕はそこでプロレスを見たり、父親が好きな洋画の吹き替えを見たり。声優になろうと思って見ていたわけじゃないけど、思い返すとずっとそういう映像を見ていました。

――当時のアニメはどんなものを見られていたのでしょうか?

井上:やっぱり『鉄腕アトム』とか、絵が動くのが不思議でしたね。あとは『W3(ワンダースリー』『少年ジェット』『月光仮面』とか、何でも見ていました。