青山学院大・原晋監督が教える人生の未来年表 妄想力を発揮して

AI要約

原晋監督は青山学院大学の地球社会共生学部教授であり、学生たちにリーダーシップやキャリアデザインを教える。

授業では、自身のリーダーシップや将来のビジョンを考えさせる課題を出し、自己探求を促すアプローチを取っている。

学生には自分のやりたいことを探求し、好きな分野を突き詰めることを勧めている。

青山学院大・原晋監督が教える人生の未来年表 妄想力を発揮して

独自の理念で青山学院大学を箱根駅伝の常勝校に導いた原晋監督は、同大学の地球社会共生学部教授でもあります。地球規模の課題に向き合い、未来を創造することを目指した学部で、原監督が学生たちに伝えたいことは何でしょうか。

――原監督は、授業ではどんなことを教えているのですか。

担当しているのは「リーダーシップ論演習」「キャリアデザイン・セミナー」「フレッシャーズ・セミナー」などですが、受講希望者は定員の3倍に達して、抽選になっています。私の授業はそんなに楽ではないんですけどね(笑)。

――「リーダーシップ論演習」とは、スポーツを通して、周りの人を引っ張っていける人材を育てることがテーマでしょうか。

スポーツに限らず、どんな組織にもリーダーの資質は必要ですし、求められるものは万国共通です。リーダーシップを「生まれ持った資質」と考える人もいますが、そうではなく、さまざまな個性を持つ人が、その人なりのリーダーシップを発揮することが望ましいと思っています。「リーダーとは何か」という総論も伝えつつ、「自分がリーダーだったらどんな形でリーダーシップを発揮するか」を学生自身が考えるようなアプローチにしています。

――「自分がリーダーだったら」と授業で考えるのは、面白そうです。具体的に、どんな授業をするのですか。

たとえば、「地震で電車が止まり、タクシー乗り場には長蛇の列ができている。お年寄りも子どもも並んでいる。そこであなたは、どんな振る舞いをしますか」「あなたが新製品のスポーツドリンクをテレビショッピングで売る場合、どんな表現をしますか」といったテーマを与え、自分なりの方法を考えたうえでディスカッションしてもらいます。その結果をパワーポイントにまとめて発表します。質疑応答の時間もあり、さまざまな意見を共有していきます。

――「キャリアデザイン・セミナー」という授業は、大学卒業後の生き方を考えるのですか?

これは1年生向けに、どのようなビジョンで人生を歩んでいきたいかを考える授業です。新入生たちに最初に「自分がやりたいこと」を100個書いてもらっています。できる、できないは関係なく、純粋にやりたいこと100個を自由な発想で書き出します。その夢を15年計画に落とし込み、未来年表を作ります。現実と目標のギャップを埋めるための人生プログラムを作ることで、人生が豊かになる確率があがるのです。

――やりたいことを100個出すのは案外難しいかもしれません。

だいたいの学生は20個くらい書いたところで手が止まります。何を書いてもいいのに書けないのは、気持ちにブレーキがかかるからでしょう。100個書くためには「妄想力」を発揮しなくちゃいけないのですが(笑)、突拍子もないことを書いて否定されたくないとか、変な目で見られるのが怖いとかいう気持ちが強いのかもしれませんね。

青学の学生は真面目で勤勉です。そのせいか、この授業に限らず「先行事例はありますか」「過去に作られたものを見たいのですが」と聞かれることがよくあります。でも、あっても見せません。モデルを見せると、まねをするからです。まねごとは、しょせんまねごとであって、その人のものではありません。

――最近の学生はまずネットで検索して、「いいね」をもらえるようにまとめることに慣れているのかもしれません。

それでは新しい発想は生まれませんよ。私の専門は、答えのない学問領域なので、自分で自分の道を切り開いて、答えのないものを探り当ててほしいと思っています。チャットGPTばかりやってたら、バカになるよって言ってます。みんなから悪く思われたくないから正解を探そうとすると、自由な発想が生まれません。

――今の学生は、なぜすぐに「正解」を求めたがるのでしょうか。

親も教師も指導者もすぐに、「これじゃダメ」「あれじゃ無理」と言うからじゃないでしょうか。大人の責任です。みんなが「いいね」というアイデアなんて、すでに似たものが世の中に出ているんですよ。それは二番手、三番手の企画です。逆にみんなが「こんなのダメだよ」というものを選ぶような、そういう新しい文化を私はつくりたいんです。

――大学進学を目指す高校生の中にも、「自分のやりたいことが見つからない」「明確な夢も目標もない」という人が少なくないようです。

そんなの当たり前です。夢や目標が明確な大学1年生なんて、1割もいないでしょう。だから4年間があるのです。学生たちには「4年かけていろんなことを学びなさい。その中できっと興味のあることが見つかるから」と伝えています。

私の所属する地球社会共生学部は、さまざまな分野を横断的に学べる学部です。理系の人も文系の人もいるし、語学をやりたい人もいれば環境問題や社会問題を学びたい人もいます。こういう環境で交流していくうちに、「自分はもっとこういう世界を知りたいんだ」ということにきっと気づきます。

やりたいことが見つかったら、オタクになれって言っています。好きなことを突き詰めてみてほしい。自由な発想で挑戦していけばいいんです。何でもやってみてください。ムダなことはありません。そうしているうちに、オンリーワンになれます。