飲食業界は人件費削減に必死…時短と休みが多く思ったほど稼げない【65歳アルバイトの現実】

AI要約

元不動産業の最上氏(仮名=66)は、高級割烹でのアルバイトを始めたが、時給や休みの多さから思ったほど稼げずに悩んでいる。

元木氏(仮名=63)は広告デザインの経験を活かし、ハローワークではNGだったが、偶然にもA社のB役員と知り合いだったことで、月給25万円での新しい仕事が決まった。

飲食業界や求人、採用の現実を通じて、アルバイトや転職活動の厳しさが浮き彫りになる。

飲食業界は人件費削減に必死…時短と休みが多く思ったほど稼げない【65歳アルバイトの現実】

【65歳アルバイトの現実】#25

 高級割烹編

  ◇  ◇  ◇

 私がこのコラムを書いていると知って、友人たちがバイト勤務の情報を提供してくれるようになった。彼らの話は喜ぶ人、悲しむ人、それぞれだ。

「がっつり稼ごうと思ったら当てが外れた」というのは元不動産業の最上氏(仮名=66)。

 65歳までの雇用延長が終わり、バイトで年に200万円稼ぐのを目標に就活を開始。都内の割烹店の調理場で働き始めた。仕事は簡単な調理助手。材料を運び、野菜などをカットする。

 仕事は重労働ではないが問題がある。思ったほど稼げないのだ。

「時給は1350円。月に22日勤務で18万円になる計算でした。ところが、時短と休みが多いのです」

 募集広告には「午後5時~11時勤務」と書かれていたが、実際は客が帰って仕事がなくなると午後10時に終わってしまう。1時間の時短だから、1日に5時間分しか稼げない。9時半に終了することもあり、その場合は90分の早上がり。報酬が2025円減ることになる。

 以前、本欄で道路工事の警備員は30分で仕事が終わっても1日分の日当が支払われることをリポートしたが、そのルールは飲食業界には通用しない。飲食店の多くは新型コロナ前の売り上げを回復できていない。そのため、どの店も人件費の削減に必死なのだ。

「それに加えて予定外の休みもあるんです」と最上氏は苦笑する。

 有名店のため客のほとんどが予約客。ときには予約ゼロの日もあり、その場合、店は休業する。当然ながら給料は支払われない。客が極端に少ない日に人件費削減のため「休んでください」と頼まれることもある。結果、少ない月は報酬が15万円以下となる。

「面接で『暇な日は早めに帰れますよ』と言われましたが、僕は気に留めていなかった。あのときちゃんと話を聞いておくべきでした」

■ハローワークがダメでも…

 一方、ハローワークの紹介ではダメだったのに、偶然、採用にこぎつけた人物がいる。

 元木氏(仮名=63)は都内のデザイン会社で広告デザインを手がけてきた。今年3月に退社し、東北の実家にUターン。すぐにハローワークで職探しを始めた。A社という大手印刷会社があり、デザイナーと広告営業マンを募集中。ハローワークの担当者は元木氏の目の前でA社に電話してくれた。

「結果はNGでした」と元木氏。A社の採用条件は「60歳以下」。ハローワークの担当者は「年齢が合わないので採用できないそうです」と気の毒そうに言った。

 ところが事態が変わった。元木氏が高校時代の同級生にいきさつを話したところ、偶然にもA社のB役員と知り合いだった。同級生がB役員に元木氏を売り込み、「面談したい」との返答が得られた。

「フリーランサーとして仕事をもらえればと思ったんです」

 元木氏は東京帰りのデザイナーらしいオシャレないでたちでA社を訪問。50代のB役員にこれまで手がけたポスターやパンフレットなどを披露した。いずれもテレビでCMが流れている大手企業のものだ。

 B役員はそれらの作品をしげしげと見たあと、「元木さん。フリーではなく、当社に常駐してもらえませんか」と要請してきた。ハローワーク経由では門前払いだったのが一転して、月給25万円で働いて欲しいというのだ。

「先方は『東京で経験を積んだあなたみたいな人が欲しかった』というのです。ビックリしました」

 現在、元木氏は「事業部長」の肩書を与えられ、若手の指導をしている。

(林山翔平)