閲覧注意…芥川龍之介の不穏な遺作『人を殺したかしら?』にまつわる「驚きのミステリー」

AI要約

芥川龍之介の遺作ではないとされる『人を殺したかしら?』という短編小説には、自分の分身を見た者が死に至るという怪奇現象にまつわる逸話が描かれている。

作中で芥川は、自分の分身による死の前兆についての怪談をノートに書き写している。また、知人が芥川に似た人物を目撃し、その後死亡するという事件も起こる。

このような不気味な話に触れた芥川も、ある時自身が何か異変を感じ、自分の分身についての逸話を思い出す。このエピソードは芥川にとって印象深いものだった。

閲覧注意…芥川龍之介の不穏な遺作『人を殺したかしら?』にまつわる「驚きのミステリー」

文豪・芥川龍之介の遺作ではないかと言われている短編小説、『人を殺したかしら?』。実はこの作品には、想像するだけで身の毛がよだつ、ある逸話が存在する……。怪談・オカルト研究家で、著書に『教養としての最恐怪談』がある吉田悠軌氏が、そのミステリーに迫る。

小説家の芥川龍之介は、ずっと“もう一人の自分”を気にしていた。

どこかに自分そっくりの自分がいて、それに出会ってしまうことは死の前兆なのだという。東洋では離魂病とも呼ばれ、西洋ではドッペルゲンガーとも呼ばれる現象だ。

例えば芥川は学生の頃、江戸時代のこんな怪談をノートに書き写している。

……北勇治という人が帰宅したところ、自分の居間の机に誰かが座っているのを見つけた。背中を向けているので顔は見えないが、髪型や服装が自分と瓜二つだ。

「自分の後ろ姿を見たことはないが、おそらくこれとそっくりなのだろうな」

そう思った勇治は、顔を見ようと足早に近寄る。すると男は振り向きもせず、障子の細い隙間から庭に抜け出てしまった。慌てて障子を開けてみたが、外には誰の姿もない。

家族にこの話をすると、母親は無言で眉をひそめた。勇治はまもなく病気になり、その年のうちに亡くなった。実は彼の祖父も父も、同じように自分の姿を見た直後に病死していたのである。母親はこの「影の病」を知りながら、ずっと秘密にしていたのだ……。

芥川自身は“もうひとりの自分”を目の当たりにした経験はない。ただ、知り合いが彼によく似た人物を目撃したという話なら耳にしている。

その知人とは女優の山川浦路。アメリカ映画界で活躍した俳優・上山草人の妻で、芥川の記述では「K君の婦人」と紹介されている。芥川は彼女から突然「先達はつい御挨拶もしませんで」と謝られ、困惑してしまった。帝国劇場の廊下ですれ違ったのだという浦路の説明に、なんら心当たりがなかったからだ。

それから十年経った、とある春の日。ぼんやりと死の不安に襲われた芥川は、鏡に映る自分を見つめるうち、突如このエピソードを思い出した。その一か月後に招かれた新潟の座談会でも同じ話を披露しているから、この時期の芥川には印象深い記憶だったのだろう。