体内で進行する無数の「沈黙の対話」と炎症の壮絶な真実…知られざるサイレントバトルの全貌

AI要約

20世紀のおわりから21世紀の今日にかけて、免疫の“常識”は大きく変わった。自然免疫が獲得免疫を始動させることがわかり、自然炎症という新たな概念も加わり、制御性T細胞の存在は確かなものとなり、mRNAワクチンは現実のものとなった。

わたしたちのからだの表面は、皮膚や粘膜でおおわれ、病原体の侵入をはばむ強固なバリアとなっている。涙や汗はバリアの一部だ。

ころんですりむいたひざ小僧から病原体が侵入したとしよう。バリアを突破してからだの末梢組織に侵入した病原体の前に最初に立ちはだかるのは食細胞である。

体内で進行する無数の「沈黙の対話」と炎症の壮絶な真実…知られざるサイレントバトルの全貌

20世紀のおわりから21世紀の今日にかけて、免疫の“常識”は大きく変わった。自然免疫が獲得免疫を始動させることがわかり、自然炎症という新たな概念も加わり、制御性T細胞の存在は確かなものとなり、mRNAワクチンは現実のものとなった。

免疫を学ぶとき最初に読むべき一冊として高く評価された入門書が最新の知見をふまえ、10年ぶりに改訂。

免疫という極めて複雑で動的なシステムの中で無数の細胞がどう協力して病原体を撃退するのか?わたしたちのからだを病原体の攻撃から守る免疫の基本的なしくみはどうなっているのか?本連載では、世界屈指の研究者達が解き明かした「免疫の最前線」を少しだけご紹介しよう。

*本記事は、自然免疫研究の世界的権威審良 静男、B細胞研究の第一人者黒崎 知博、T細胞研究の第一人者村上 正晃3名の共著『新しい免疫入門 第2版 免疫の基本的なしくみ』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。

わたしたちのからだの表面は、皮膚や粘膜でおおわれ、病原体の侵入をはばむ強固なバリアとなっている。涙や汗はバリアの一部だ。

口から肛門にいたる消化管は、食べものといっしょに入ってくる病原体にさらされるので、唾液や胃酸、消化液などもバリアを構成している。腸管にすみつく共生細菌も、侵入してくる細菌に対するバリアとなっている。

バリアが完全に機能していれば、病原体もそうやすやすとは、わたしたちのからだに侵入できない。侵入を許すのは、バリアの一部にほころびが生じたときである。

ころんでひざ小僧をすりむいたり、歯みがきをして歯茎が傷ついたり、空気が乾燥して鼻やのどの粘液が失われたりすると、そこから病原体が侵入する。

侵入した病原体がからだのなかで増殖したら大変だ。毒素をまきちらし、細胞を破壊し、わたしたちを死にいたらしめる危険さえある。

そうした病原体を排除するためにそなわる生体防御のしくみが免疫である。これから、その複雑で巧妙なしくみを、順を追って見ていくことにする。

ころんですりむいたひざ小僧から病原体が侵入したとしよう。バリアを突破してからだの末梢組織に侵入した病原体の前に最初に立ちはだかるのは食細胞である。

代表的な食細胞であるマクロファージを図1‐1に示した。マクロファージは大食細胞ともいい、白血球の一種である。なお、本書に登場する免疫細胞は、すべて白血球である。役者が出そろう7章末のコラムに一覧にしてまとめてある。

昔の教科書では、食細胞を「相手かまわずなんでも食べるだけの原始的な細胞」と説明していた。「相手かまわずなんでも食べる」のはそのとおりだが、「食べるだけの原始的な細胞」は少々いいすぎであることが、まもなく二一世紀という時期の研究でわかってきた。筆者(審良)も研究の一端にかかわった一人である。

食細胞は「原始的な細胞」どころか、仲間の一部は、免疫の「司令塔」の役割までになっているほどだ。その「司令塔」ぶりはおいおい説明するとして、まずはバリアを突破して侵入した病原体に、食細胞がどう対応するかを見ていこう。