時代も、国境も、ジェンダーも超越。ウエンツ瑛士が舞台作品や演出を通して実感した“気づき”とは?

AI要約

ウエンツ瑛士が、ヴァージニア・ウルフの代表作『オーランド』に挑む心境とは。

脚本に感銘を受けたウエンツが、『オーランド』の主題に思いを巡らせる。

舞台作品に挑むことの意味や将来の夢について語るウエンツ瑛士。

時代も、国境も、ジェンダーも超越。ウエンツ瑛士が舞台作品や演出を通して実感した“気づき”とは?

時代も、国境も、ジェンダーも超越した人物を描いたヴァージニア・ウルフの代表作『オーランド』に出演するウエンツ瑛士。青年貴族から女性へと変貌し、16世紀から20世紀まで生き続ける主人公のオーランドが、その各時代に出会う複数の人物をウエンツは演じる。彼がこの名作に臨む、その心境を尋ねた。

■360年生きた人物に共感できること

 バラエティ番組では軽妙なトークとチャーミングな魅力のあるウエンツ瑛士だが、昨年だけでも『太平洋序曲』と『アンドレ・デジール 最後の作品』という2本のミュージカル作品に出演。多くの舞台作品でも活躍している。そして、2018年から1年半のロンドン留学も経験している彼がイングランドを舞台にした人気作『オーランド』に挑む。オーランド役の宮沢りえとは初共演。まずは、主人公と宮沢の印象について語った。

ウエンツ瑛士(以下ウエンツ) オーランドは青年が女性に変貌して360年もの年月を生きた人物ですが、当時の時代背景の中で、思っていることをその場で発言できなかったり、性別や身分の線引きに疑問を持ったり、実際にオーランドと同じような思いを抱えている人もいただろうなと僕は感じました。当時の人々やその思いを現代ではあまり物語で描かれることがないと思いますし、描かれたとしても理解するのが難しい人がたくさんいるでしょう。でも僕自身はオーランドが考え、感じたことは珍しいことだとは捉えていません。

 オーランドを演じる宮沢りえさんとはバラエティ番組では共演させていただいたことはありますが、舞台は今回が初めてです。ずっと舞台に立ち続けた人を間近で見られることに喜びがありますし、いろいろな会話ができることも嬉しいので、こんなチャンスが与えられたことだけでも、本当に幸せです。

 この作品との出会いでは、彼は何を感じたのだろうか。

ウエンツ 脚本は、最後まで一気に読むのではなく、いったん休憩を挟みました。腑に落ちていないところがあるのに、このまま進んでいいのかなという気持ちになったからです。自分が腑に落ちた状態で最後までしっかりと読み進めたいと思わされたのが、この作品とヴァージニア・ウルフの力だと思います。後半には、気づきもあり、面白い話だなと思いながら読んでいました。

 そして、これは僕がイギリスの留学から戻った時に感じたことなのですが、かつては苦手だと思っていても苦手だと言えなかったことが、今ははっきり苦手といえる世の中に様変わりしていて、僕自身は変わっていないので、どういうふうに人と接すればいいのかということを考えされられることがありました。自分が常識だと思っていることは、実は世間によって常識だと勝手に決められているのではないかと思ったんです。『オーランド』の世界にも、世の中が変わったことで、自分は変わっていないのに、自分も動かされたような気持ちになるところがありました。それが『オーランド』という作品の本質的なところかどうかはわかりませんが、演出をされる栗山(民也)さんともお話したいです。 “自分って何なんだろう?”という俯瞰するところにたどり着く瞬間があって、それは、この作品と出会わなければ考えもしなかったことだと思いました。

■演出家の視点で考えた経験

 『オーランド』には、時代を超越し、“今を生きる”自身の考えにも通じるところがあると語る。今回、演出を手がける栗山民也とは初めて作品づくりを共にすることになるが、ウエンツは、栗山が演出した作品にはこれまでも観劇を通して触れてきた。

ウエンツ 『デスノート THE MUSICAL』や『木の上の軍隊』など、栗山さんが手がけた作品は拝見していますが、出演者の皆さんがすごく納得して取り組み、楽しんでいるのが伝わってきました。役者はもちろん、スタッフの皆さんも含めた全員が気持ちよく仕事ができる場を作るのも演出力の一つですし、栗山さんは人間力も含めすごい方だと常に思います。

 中でも『デスノート THE MUSICAL』のような漫画が原作の作品は、演じる役者さんたちにとって比較される原作があるという点で、不安な部分もあると思うのですが、皆さんがそうではないことを知りました。稽古を積まれているから当然なのでしょうが、僕は不安なく演じることが容易なことではないと思っているので、そんな役者の不安を払拭できるほどの作品を創り上げる栗山さんの演出の力に驚きました。今では栗山さんが初演で携わったこの作品は海外でも上演されるようになりましたが、漫画を舞台化したミュージカルが受け入れられるようになったのは、そこから始まったと思います。

 それでは、栗山との仕事にはどのような思いで挑むのだろうか?

ウエンツ 実は先週、稽古が始まるからと思って北海道を旅行しました。稽古はやっぱり大変な作業なので、先を見据えながらトレードオフするのが、僕は結構好きなのだと思います。“この旅は最後の喜びなんだよ”というくらいの感じです(笑)。実際に稽古に入ってしまえば楽しめることもいっぱいあるのですが、今は栗山さんがどんな風に演出され、どんな風に稽古が行われるかもわかりません。まだお話したこともないので、いろいろと考えてしまいます。

 これまでの演出家との物づくりで印象に残っている出来事について聞いてみた

ウエンツ 先日、サントリーホールで行われた新日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会で、メンデルスゾーンの劇音楽『夏の夜の夢』で物語の進行役を務める妖精パックとして出演させていただいた時のことです。これは、オーケストラの生演奏に合わせて一人芝居をするというような感じで、ある程度、ベースとなる台本があったのですが、自分でもそこに加筆して、自分で自分を演出するという試みでもありました。こういうふうに動いて、こういうふうに台詞をいう。当然ながら自信がなかったので、いろいろな方にアドバイスを求めましたが、決定権は自分にあることに気づきました。自分で責任を持って決断するためにアドバイスをいただくということは必要ですが、そのアドバイスをいだだくということ自体にも責任が生じるのだと思いました。この経験をしたことで、演出家に質問することにも、責任を持たなければならないという考えに至りました。

■舞台作品に挑むという生き方

 いろいろなジャンルで活躍する彼にとって、舞台作品に出演することには、どんな意味があるのだろうか?

ウエンツ 今まで考えたことはありませんでしたが、“濃厚な出会い”があるということでしょうか。共演者の方もですし、スタッフさんも、そして作品との出会いでもあります。さらにいえば、お客様との出会いでもあって、同じ空間で毎回多くの方が直に観てくださるので濃厚に接している感じがしますね。

 舞台に臨むときの準備としては、声に関しては単に滑舌を良くするだけではなく、響きも大事にしています。ボイストレーニングも受けますが、いろいろな人の声や歌声を聞くようにもしています。僕自身もそうですが人の声には性格が結構出るので、出し方次第で性格をストレートに表現できる声というものがあるだろうと思います。当然、簡単にはできないことですが、マイクを通さない声で表現するのが舞台でもあるので、そういうことも含めて演じることができたら面白いと思います。特に今回の作品のようにいくつか役柄を演じるときは、役によって声の当てる場所を工夫するという技術だけではなく、心から役につながっていくようにしたいと思います。

 舞台だからこそ、目指せることを見出したウエンツ。今後、海外での舞台作品への出演は意識しているのだろうか。

ウエンツ ロンドンで留学していたときに、とある舞台を経験させていただく機会がありました。それ以来、ロンドンの舞台に立ってもっとその世界を見てみたいというのが、人生の目標です。今後挑戦するなら、ミュージカルを演ってみたいですね。英語が第一言語ではないので、音楽に乗せて演じたほうが、ハンディキャップが少ないと思うからです。留学から戻って3年が経ちましたが、今のところ、これをやったからこれに繋がるという、直結することがあまりないので、今はひとつひとつの仕事と向き合っているという感じです。今のこの状況を楽しめているということが自分にとっていいことだと思っています。

 『オーランド』で演じることが、彼にとってまだ見ぬ夢の舞台へのステップの一つであることは間違いない。

ウエンツ瑛士(WENTZ EIJI)

1985年、東京都生まれ。4歳から子役、モデルとして活動する。2002年に小池徹平とともに結成した音楽デュオ・WaTでは作詞作曲を手がけ、シンガー・ソングライターとしても活躍。俳優として出演した直近の作品には、映画『湯道』(2023年)、ミュージカル『太平洋序曲』(2023年)、『アンドレ・デジール 最後の作品』(2023年)などがある。

HAIR & MAKE UP BY TOYOFUKU KOICHI(GOOD), STYLING BY NAOKI SAKUYAMA