文明の転換期には、人類も変貌している。古代地中海の4000年史、まもなく第3巻刊行!

AI要約

メソポタミア文明からペルシア帝国、古代ギリシア・ローマまで、「地中海文明」の全貌を描くシリーズ「地中海世界の歴史」。好評を受けてまもなく第3巻が刊行される。完結に1年半を要する全8巻の大著だが、その内容は、単に4000年間の史実の羅列ではなく、新たな歴史の見方や大胆な仮説に満ちている。

一人で全巻を執筆する本村凌二氏に、各巻の読みどころを聞いた。

ギリシア文明が中心で、人間主義の黎明期。神々の声が聞こえなくなり、人間が歴史の主役になる時代。アッシリアやペルシアからの転換期を描く。

文明の転換期には、人類も変貌している。古代地中海の4000年史、まもなく第3巻刊行!

メソポタミア文明からペルシア帝国、古代ギリシア・ローマまで、「地中海文明」の全貌を描くシリーズ「地中海世界の歴史」。好評を受けてまもなく第3巻が刊行される。完結に1年半を要する全8巻の大著だが、その内容は、単に4000年間の史実の羅列ではなく、新たな歴史の見方や大胆な仮説に満ちている。一人で全巻を執筆する本村凌二氏に、各巻の読みどころを聞いた。

――第1巻『神々のささやく世界』と、第2巻『沈黙する神々の帝国』は、同時発売ですね。

本村この2冊は、ぜひ同時に刊行したかったのです。というのは、第1巻はメソポタミア文明や、エジプト文明などを取り上げ、第2巻はその後のオリエントに栄えた大帝国、アッシリアとペルシアを扱うわけですが、この2冊の間に、非常に大きな文明の転換が起こっている。その変貌をぜひ読み取っていただきたいのです。

その「文明の転換」とは、「神々の声が聞こえなくなった」ということに大きく関係があるのではないかと思います。メソポタミア文明を興したシュメール人の神話や史料――たとえば『ギルガメシュ叙事詩』などを読んでいくと、かつての人間には神々の声が実際に聞こえていたんじゃないかと思えるんですね。「気のせい」や幻聴ではなく、当時の人間の現実として。

それが、アルファベットなどの文字が開発されて以降、紀元前1千年紀に入ると、神々の声が聞こえなくなってくる。「文字の発明」と「神々の沈黙」にどんな関係があるのか、史料的に証明することは到底できませんが、言葉というものが「話し、聞く」ものから「書き、見る」ものに変わったということは、神々を感じる人間の心性にも、重大な変化をもたらしたのではないでしょうか。

本村そしてこの頃から、神の声を聞く能力を持った「預言者」が次々と現れ、また、多くの人間集団を従える強大な権力も誕生してくる。オリエントの神々は、ギリシア・ローマで共有されている部分も多いですし、最初の「世界帝国」と言われるアッシリアやペルシアでの人類の経験は、のちのローマ帝国にも息づいていくことになるでしょう。

――第3巻『白熱する人間たちの都市』は、ギリシア文明が中心ですね。

本村神々の世界から、人間が歴史の主役になってくる、人間主義の黎明期です。

ギリシアの英雄叙事詩『オデュッセイア』には、神々を恐れず自分の意志で行動する人間が描かれます。もちろん、ギリシア人がみなそうだったというわけではなく、そういうオデュッセウスのような人物が、ギリシア世界の先頭を切っていたということでしょうか。

ギリシアが生んだ哲学や科学などの「知性」についていえば、言語的な事情も大きい。ギリシア語というのは定冠詞がしっかりしているんです。ラテン語は冠詞があまりしっかりしてないんですね。言葉を厳密に定義するときに、英語のTHEにあたる定冠詞をつけるかどうかは大きいのですが、ギリシア語は最初からそれが備わっていて、ロジックを扱いやすい言語なのです。

そうした理知的な文明の中で、現代につづく自然科学や、民主政、自治といった政治体制と思想も誕生します。しかし、当時の人々が、現代人と同じように都市の自由や民主政を享受していたかといえば、そうではない。

とくに考えさせられるのが、奴隷の存在です。プラトンやアリストテレスでさえ、「自然による奴隷」すなわち奴隷を生まれながらの存在として容認しているのです。そんなところに、古代社会の深淵を覗き見るような思いがしますね。