アドラー心理学に詳しい岸見一郎が「燃え尽き症候群」で気力を失っているあなたへアドバイス

AI要約

仕事に疲れて気力が出ないと感じる場合、何もせずに立ち止まることが大切である。

休むことに抵抗がある場合でも、他人に仕事を任せることで自分が休む機会を作ることが可能である。

家族や職場がサポートすることで、自分の居場所や貢献意識が感じられ、仕事へのモチベーションが向上する。

アドラー心理学に詳しい岸見一郎が「燃え尽き症候群」で気力を失っているあなたへアドバイス

【今回のお悩み】

「人生に疲れてしまって気力が出ません」

これまで仕事に熱心に取り組んできたのに、突然やる気を失ってしまった。モチベーションを保てなくなってしまったとき、どうしたらいいのでしょうか。哲学者の岸見一郎先生に聞いてみました。

仕事がたくさんあって忙しい毎日を送っていると疲れないわけはなく、もう何もしたくなくなることがあります。それでも、「人生」に疲れるのではありません。「仕事」に疲れるのです。

仕事を辞めれば、疲れは取れるでしょう。しかし、仕事を辞めたら生活していけなくなるので、それは現実的な選択肢にはなりませんが、ひとまず立ち止まるしかありません。気力のスイッチは、切らないと入れることはできません。

「疲れて気力が出ない、どうしたらいいか」と相談したら、誰もが仕事を休んだらいいと助言するでしょう。そんなことはいわれるまでもなく、わかっていると感じるかもしれません。何のためらいもなく休めるのであれば、気力が出ないほど疲れることはなかったでしょう。休むべきだとわかっていても休めないことが問題なのです。

人生に疲れたと思うのは、仕事に時間とエネルギーの大半を向けているからです。仕事をしなければ生活できないのは本当ですが、仕事をするために生きているのではないはずです。

責任感のある真面目な人であれば、仕事を休むことそれ自体に抵抗があるので、多少辛くても仕事を休もうとは思わないでしょう。迷惑がかかるとか、ほかの人に自分の仕事を代わってもらうわけにはいかないと考えるからです。

しかし、どんな仕事もほかの人ができないわけではありません。もちろん、同じ仕事をしていても、人によって仕事の仕方は違いますし、人とは違った方法で仕事に取り組むことで頭角を現すことができます。その意味で、どんな仕事も自分しかできないことはあります。

でも、だからといって他人に自分の仕事を任せられないということにはなりません。仕事が辛くなって休まないといけなくなることは、誰にでもありえます。いまは自分が休むけれども、自分が仕事に復帰して誰かが休むときには、その人の仕事をしようと思えばいいのです。

いよいよ限界になって休むことになった場合でも、職場のことが気になるという人がいます。そのような人は、仕事のことだけではなく、休んだら人からどう思われるかが気になるのです。とやかくいう人がいるかもしれませんが、休まなければ身がもたないのですから、他人から何をいわれどう思われるかは気にしないようにしなければなりません。

長い期間休職することになった場合、そのあいだは仕事のことも職場のことも、またこれからの人生のことも考えないようにする必要があります。多くの人は抵抗を感じるかもしれませんが、職場の人たちは、上司も含めて、休んでいる人のことをそんなに気にはしていないのです。

以前、休んでいるあいだに、職場から連絡がくるかもしれないという人がいました。その頃はまだ携帯電話が普及していなかったので、電話は自宅にかかってくることが当たり前の時代でした。職場からの電話に出られなかったら、遊んでいると思われるという人がいて驚きました。

私はよくこんな話をしました。休んでいるのであれば何をしていてもいいはずではないか、遊べるようになれば回復してきたということなのだから喜ばしいことである。いまはそこまでは回復していないとしても、ずっと家にいないで外を散歩するくらい何も問題ないではないか、と。

また、こんな話もしました。本当は休んでいないで仕事をしたいし、仕事をするべきだと思っているかもしれない。でも、いまできることは休むことなのだから、気力を取り戻すために休むことだけを考えよう、と。

とはいえ、家族がいる場合、自分の一存で仕事を辞めたり休んだりすることを決めるのは容易ではありません。仕事を休むとそのことをよく思わない人がいるかもしれません。しかし、家族であれば仕事に疲れているのに何があっても働けというようなことはいわないでしょう。

心筋梗塞で倒れ、入院していたときのことを思い出しました。私は非常勤講師の仕事をしていたので、入院していることを学校に連絡するとすぐに解雇になった学校もありましたが、ある学校に電話をしたら、「どんな条件でも必ず復帰してほしい。待っている」といわれました。そのときはまだいつ復帰できるかわかりませんでしたが、このようにいわれると、嬉しかったです。戻れるところがあると思えたからです。

自分の居場所があると感じられるのは、ほかの人に取り換え可能な人材ではなく、個人として受け入れられていると思えるからです。ここにいることで貢献していると感じられたら、仕事に尽力しようと思えるようになります。

仕事なので結果を出さなければなりませんが、競争して成功することばかり考えていると消耗するだけです。疲れてしまったのは、あまりに力を入れすぎ、急ぎすぎたのかもしれません。