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長生きしたけりゃ最後は噛む力(3)「がんセンター」も始めた口腔ケア
新型コロナパンデミックが収束し、4年ぶりに流行したインフルエンザと口腔ケアの重要性について述べられています。
口腔ケアは感染症予防や高齢者の誤嚥性肺炎のリスク軽減に効果があり、専門的なケアの実施が研究で支持されています。
入院期間の短縮や治療成績への影響、がん治療における口腔ケアの重要性についても言及されています。
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3年にわたる新型コロナパンデミックが収束し、昨年からインフルエンザが4年ぶりに流行しました。
これらの感染症を予防するためには、ワクチンや手洗い、マスクなどの他に、口腔ケアも有効な予防法のひとつです。
「歯科衛生士による専門的口腔ケアは、インフルエンザなどの感染症を予防し、高齢者に多い誤嚥性肺炎を減らすことが実証されています」
高齢者歯科に詳しい金沢紘史・日本顎咬合学会次期理事長はこう言います。
誤嚥性肺炎は食べ物や唾液などが気管から肺に入り発症します。睡眠中に唾液の誤嚥(誤ってのみ込み気管支に入り込むこと)で起こることが多く、口の中が汚れていると、肺炎を何度も繰り返すことになります。
それが専門的口腔ケアを行うと、発症が40%余り減るという研究が、25年前に権威ある英国の医学雑誌「ランセット」に発表されています(米山武義歯科医師らの研究、1999年)。
他にも国内で同様の臨床研究があり、たとえば、正しいブラッシングや舌磨きで、インフルエンザ発症率が10分の1に減った例、歯科衛生士が週1回、口腔ケアや歯のクリーニングを実施すると、インフルエンザの発症率が87%も減少し、風邪の発症率も24%減少した例などが報告されています。
口腔ケアは入院期間の短縮にも効果を発揮しています。最近、多くの病院で、入院や手術前に歯科治療や口腔ケアを行うところが増えているのもそのためです。
千葉大学医学部付属病院の調査(2004~13年)では、歯科衛生士による専門的口腔ケアや歯科医による歯周病などの治療を行うと、入院期間が短縮できたと報告されています。たとえば、消化器外科では13日、心臓血管外科では9.6日、悪性リンパ腫では65.4日も短くなっています。
早くからがん患者の口腔ケアに取り組んできた静岡がんセンターには口腔ケアチームがあり、がん患者に対する口腔ケアや歯科治療を積極的に行って成果を上げています。
「抗がん剤や放射線治療を行うと口内炎やドライマウス(口腔乾燥症)が起こりやすくなりますが、事前に歯周病やむし歯を治療して専門的口腔ケアを行うと、口の中のトラブルが起きにくくなります。最近は近くの病院から入院前の患者さんの口内のチェックや治療を依頼されることが多くなりました」
40年近く地域の歯科診療に携わってきた俵木勉・日本顎咬合学会監事はこう話します。
口が健康だと食事をきちんと取ることができ、誤嚥性肺炎などの感染症予防になる、それが入院期間の短縮や治療成績に影響するそうです。
咀嚼(噛む)能力の回復が脳卒中後のリハビリの効率を高めるという研究もあり、口の健康は病気の回復にも影響を与えているのです。 =つづく
(医療ジャーナリスト・油井香代子)