初夏を彩るホタルの光跡 見守る飛翔 心待ちにした「500度」 彩時記・6月

AI要約

初夏の夜にホタルが光を放ち、七十二候の「腐草為螢」が訪れる

ホテル椿山荘東京ではホタル観賞の名所として知られ、幻想的な風景を楽しめる

人工飼育によりホタルを絶やさず、毎年開催される「ほたるの夕べ」が70周年を迎える

初夏を彩るホタルの光跡 見守る飛翔 心待ちにした「500度」 彩時記・6月

ホタルがほのかな光を放ち、飛び始める初夏の夜。10~15日頃は七十二候の「腐草為螢」(くされたるくさ ほたるとなる)。ホタルの幼虫は水から上がると土に潜ってさなぎとなり、羽化すると草の下から這(は)い出てくる。古くは、蒸されて腐りかけた草がホタルに生まれ変わると信じられていた。今もなお生態は謎に包まれ、人の心を引きつける。

東京都心の気温計が30度に迫った5月下旬。夜のとばりが下りるのを待って、ホタル観賞の名所、ホテル椿山荘東京(文京区)へ足を運んだ。

日本庭園にかかる橋に立つと、下を流れる沢の幻想的な風景に息をのんだ。思わず「これ本物?」と聞く人も。数多の淡い光が浮遊し、浮かんでは消える。ささやくように、呼吸するように。そのゆらぎを心地よく感じながら時間を忘れた。

「5月の終わりから6月初めがちょうどピークで、一晩に庭園全体で500~600匹くらい出現します。今日のような風のない夜は飛びやすいですね」

同ホテルの庭園運営企画支配人、飛山達也さん(52)の声は、安堵(あんど)感を帯びていた。

■70周年の歴史、人工飼育で絶やさず

「東京の子供にもホタルを見せたい」と、開業の2年後から始まった「ほたるの夕べ」は今年で70周年を迎えた。専門家の指導のもとで人工飼育にも取り組み、毎年冬にゲンジボタルの幼虫をこの沢に放流している。

いつ飛び始めるか。飼育に携わるスタッフはヤキモキしながら待ち望んでいる。水生の幼虫が陸に上がり、土に潜ってさなぎとなり、羽化して飛翔(ひしょう)するまでの日数は、日々の気温が関係している-。そんな仮説をもとに、平成22年から観測を続ける。「幼虫が光りながら初上陸するのは4月、ソメイヨシノが散ってから2度目の雨が降った夜に多い、といわれています」と飛山さん。仮説は、その翌日から1日の平均気温を積算して500度に達したときに初飛翔する、というものだ。

今春は、桜の開花が遅れて心配されたが、4月10日に上陸を観測。初飛翔した5月11日までの積算温度は524度で「おおむね実証成功といえるのでは」。