NTT Comが稼働中の液冷サーバー初公開 高発熱なGPUサーバーのコロケーションも可能に

AI要約

NTTコミュニケーションズは、液冷サーバーを活用した新サービス「Green Nexcenter」を提供開始。GPUサーバー向けに省エネ性や冷却効果を強調。

複数のデータセンターに導入予定で、IOWN APNを組み合わせた接続サービスも提供予定。

将来のトラフィック増加や高発熱サーバーへの対応に注力し、地方データセンターとの連携も視野に入れている。

NTT Comが稼働中の液冷サーバー初公開 高発熱なGPUサーバーのコロケーションも可能に

NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は、神奈川県川崎市の Nexcenter Lab.において、稼働状態にある液冷サーバーを初めて公開した。生成AIブームで需要がうなぎ登りとなっているGPUサーバーを効率的に冷却できる液冷サーバー。同社では、検証の成果をもとに、国内初となる液冷方式サーバーに対応した超省エネ型コロケーションサービス「Green Nexcenter」を提供する。

 NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は、神奈川県川崎市の Nexcenter Lab.において、稼働状態にある液冷サーバーを初めて公開した。生成AIブームで需要がうなぎ登りとなっているGPUサーバーを効率的に冷却できる液冷サーバー。同社では、検証の成果をもとに、国内初となる液冷方式サーバーに対応した超省エネ型コロケーションサービス「Green Nexcenter」を提供する。

 

空冷のデータセンターに比べ、消費電力は約30%削減

 NTT Comが展開すGreen Nexcenterは、液冷方式を採用することで、GPUを活用した生成AIなどの高発熱サーバーに対応。高い冷却効果を実現しながらも、国内最高レベルのPUE1.15を実現しているのが特徴だ。空冷方式のデータセンターに比べて、消費電力は約30%の削減が可能になる。1ラックあたり最大80kWの冷却が可能であり、約10倍の冷却性能を実現。さらに再生可能エネルギーの利用により、CO2排出量ゼロも可能になるという。

 

 NTTコミュニケーションズ プラットフォームサービス本部クラウド&ネットワークサービス部第二サービス部門長の松林修氏は、「生成AIなどの利用によって、サーバーの電力消費量の増加や、高発熱化は大きな課題になっている。進化するGPU搭載サーバーは、既存の冷却方法では限界があることがわかっており、インフラ戦略の見直しが求められているほか、GPUクラウドサービスの利用額が上昇し、自らGPUサーバーを持ちたいというオンプレ回帰の動きもある。また、電気料金の高騰により省エネに対する要望が高まっている。Green Nexcenterによって、生成AIの広がりとともに生まれた新たな問題を解決できる」とする。

 

 さらに、2024年3月から提供を開始したIOWN APNサービスを組み合わせて、企業や研究所、工場などと、大容量、低遅延、低消費電力による接続を実現するほか、NTT Comが持つ国内70拠点以上のデータセンターともAPN専用線で接続でき、サービス品質の向上やビジネスの信頼性向上、環境負荷低減といった価値を提供できるとしている。

 

 想定する主な用途として、最新GPUを業務の高度化に活用したいと考えている企業、遠隔医療や自動運転、映像伝送など低遅延通信を必須とする事業者、効率性に優れた冷却方式の採用や、100%再生可能エネルギーを利用したい企業などを挙げている。

 

「GPUを用いたEDA(Electronic Design Automation)を活用することで、これまでにできなかった高精度の製品設計ができるようになったり、IOWN APNを活用することで低遅延通信を必須とするビジネスのエリアを拡大できたり、RE100に取り組み、インフラの観点からもサステナビリティ経営への貢献を期待している企業を対象にしていく。高発熱サーバーをデータセンターに設置したいというニーズは高く、いまから強い引き合いがある」という。

 

 なかでも、外資系ハイパースケーラーからの関心が高く、米国を中心に液冷サーバーの活用が進展している現状を捉え、日本でも同様の動きが加速すると想定。松林氏は、「IOWN APNによる低遅延ネットワークに対する評価も高く、そこに加えて、高発熱サーバーへの対応といった新たな価値を提供できる。また、国内企業に比べて、PUEに対する関心も高く、その点でもGreen Nexcenterはメリットを提供できる。ハイパースケーラーからの期待が集まっていることを強く感じる」と述べた。

 

3カ所のGreen Nexcenter データセンター間通信はIOWN APNで

 Green Nexcenterは、3カ所での稼働が計画されている。2025年3月から、神奈川県横浜市の横浜第1データセンター、大阪府茨木市の大阪第7データセンターで、2026年3月には、京都府相楽郡の京阪奈データセンターで、それぞれ液冷サーバーを利用したGreen Nexcenterを稼働させる。

 

 神奈川県横浜市の横浜第1データセンターは、既設の設備を1部屋リノベーションし、液冷サーバーを稼働。ステップ1として、2025年3月から0.3MWの規模でサービスを開始し、旺盛な首都圏でのニーズに対応する。同データセンターにおけるGreen Nexcenterの機能は、順次拡張する予定だ。

 

 大阪府茨木市の大阪第7データセンターも、2025年3月から稼働する。液冷サーバーに標準対応した棟を増改築し、1.8MWの規模で稼働させる。「関西エリアには、製造や製薬に関する企業が多く、AI活用のニーズが高まると考えており、順次拡張することになる」という。

 

 京都府相楽郡の京阪奈データセンターは、2026年3月に稼働予定であり、現在、液冷サーバーに標準対応したデータセンターを新たに建設しているところである。新棟での稼働となり、3MWの規模を予定している。

 

 これらのデータセンター間もIOWN APNで接続することになる。

 

 今後のGreen Nexcenter化については、具体的なに計画は公表していないが、冷却設備の耐荷重の問題などがあるため、既存データセンターのすべてを液冷サーバー対応にすることは難しい。そのため、顧客の需要や最適な場所を選定しながら、今後、新たに開設するデータセンターを中心に、液冷サーバーを前提とした設計を行なうことになりそうだ。

 

稼働中の液冷サーバーを公開 デルのサーバーとCool ITの組み合わせ

 今回公開した神奈川県川崎市の Nexcenter Lab.は、実証実験などを行なう施設であり、最先端サーバーやインフラに関する検証を行なったり、関係者の見学も可能。敷地内にはデータセンター機能もある。説明会では、Nexcenter Lab.に設置されている液冷方式のサーバーが稼働している様子が日本で初めて公開された。プロセッサに取り付けた冷却プレート内に、冷媒となる液体を循環させて冷却する仕組みとなっている。

 

 今回は、デル・テクノロジーズの液冷サーバーを中心に説明を行なった。デルでは、液冷サーバーの商品化において、CDU(Cooling Distribution Unit)を提供するカナダのCool ITと戦略的パートナーシップを締結。工場出荷時点でCool ITのCDUやコールドプレートをラックやサーバーに組み込んでおり、このシステムはデルが提供する技術サポートの対象にもなっているという。

 

 また、Nexcenter Lab.においては、ラック扉に冷却水を入れて循環させる「リアドア方式」やサーバー機器を直接冷却液に浸す「液浸方式」のサーバーの検証も行なっている。リアドア方式は、顧客とのPoCを行なっていることから写真撮影は禁止されたが、液浸方式は現時点では稼働しておらず、撮影が許可された。

 

 NTT Comでは、今後の需要のトレンドとして、リアドア方式や液浸方式よりも、実験中の液冷方式が主流になると見込んでいる。

 

IOWN APNを活用し、VRで遠隔オペレーション

 また、IOWN APNを活用した遠隔オペレーションのデモストレーションも行なった。

 

 データセンターの運営においては、ケーブルタグの読み取り作業が頻繁に発生するが、それを遠隔地から確認する作業にVRゴーグルを活用するというものだ。

 

 操作者が装着したVRゴーグルは、頭の動きなどに反応。データセンター内のロボットがそれに同調し、ロボットに搭載しているカメラで目標物を捉えることができる。APNでは画像圧縮を行なわずに伝送するため、インターネットによる通信と比べて、VRゴーグルに表示される画像品質に大きな差があるほか、リアルタイム性でも差がある。

 

生成AIの利用増加により、20年でトラフィックは348倍に

 また、IOWN APNを活用したデータセンターサービスについても説明された。NTT Comでは、今後のデータセンターの方向性として、「IOWN APN×Green Nexcenter」が重要な役割を果たすことを強調する。

 

 NTT Comの松林氏は、「近年は、国内トラフィックが急増しており、データセンター間の通信も拡大している。2040年には、2020年比で348倍のトラフィックが想定され、その要因は生成AIの利用の急激な増加にある。これに耐えうる通信や処理を行なうことができる基盤の整備が必要である」とする。

 

 また、データセンターが抱える課題として、トラフィックの増加とともに注目されているのが、電力への対応だ。松林氏は、「一時はデータセンターの消費電力は減ると見られていたが、生成AIの突然の登場によって、その予測は一気に覆された。生成AIや業務用AI利用の増加により、今後も、CPUやGPUを稼働させるための電力使用量が急速に拡大することになるだろう。企業にとっては、CO2排出量の削減という課題とも向き合う必要があるほか、データセンター内の冷却や電源システムの消費電力を改善しなくてはならない。生成AIの学習に使用されるCPUやGPUでは、TDP(熱設計電力)が、既存の空調冷却の限界とされる300Wを超過することになると予測されている。高発熱サーバーの冷却はこれからの大きな課題になるだろう」と指摘する。

 

 NTT Comのデータセンターでは、こうした課題への対応に加えて、IOWN APNとの連携によって、地方のデータセンターとの接続を推進。地方ならではの土地の確保しやすさや再生可能エネルギーの利用しやすさを生かし、GPUサーバーの地方分散を実現。地方のデータセンター同士を連携させたインフラづくりにも貢献できることを示した。

 

 松林氏は、「IOWNは、強靭で活力がある社会を支える基盤になると位置づけており、2030年以降のインフラのベースになる。IOWNとGreen Nexcenterを掛けあわせることで、より強固な基盤を作り、未来の実現に貢献できる」と述べた。

 

文● 大河原克行 編集●大谷イビサ