KPI、熱量、自走化の課題 コミュニティ運営のベテランたちが語り尽くす

AI要約

6月の「CMC_Central」で行われたコミュニティマーケティングのパネルディスカッションをレポート。

パネリストたちはKPIを中心にコミュニティ運営について論じ、熱量や自走化の重要性について議論した。

参加者数や事例数だけでなく、インサイトやスピーカー数なども重要なKPIとして挙げられた。

KPI、熱量、自走化の課題 コミュニティ運営のベテランたちが語り尽くす

コミュニティマーケティングの知見を集めた6月の「CMC_Central 2024」。コミュニティマネージャー3人によるパネルディスカッションは、運営企業側から求められるKPIを中心に、継続するための熱量や自走化をテーマに据えた。コミュニティマネージャー必見のトピック満載だったセッションの模様をレポートする。

 コミュニティマーケティングの知見を集めた6月の「CMC_Central」。コミュニティマネージャー3人によるパネルディスカッションは、運営企業側から求められるKPIを中心に、継続するための熱量や自走化をテーマに据えた。コミュニティマネージャー必見のトピック満載だったセッションの模様をレポートする。

 

好きすぎて中の人へ 参加者の気持ちもわかる3人の登壇者

 冒頭、モデレーターの長橋さんは、会場の参加者について挙手にて調査。コミュニティの運営に関わる参加者は7割、そのうちSaaS・サブスクビジネスに関わるユーザーはそのうち半分。「ほぼほぼテーマ設定通りの方に来てもらった」と満足そうな長橋さんは、さっそくパネルをスタートさせる。

 

 パネラーの一人目はIoTプラットフォームを手がけるソラコムのテクノロジーエバンジェリストである松下享平さん。自己紹介のスライドで強調したいのは、MAXというニックネームだという。コミュニティの関わりとしては、AWSのユーザーグループであるJAWS-UGの参加者・運営者としての立場、そして自身が所属するソラコムのユーザーグループであるSORACOM UGのコミュニティとの窓口という立場という2つがある。「もともと外の人の時にSORACOM UGを立ち上げ、好きすぎて、ソラコムに入社したという経緯があります」と説明した。

 

 パネラーの二人目はオンライン決済を手がけるStripeのデベロッパーアドボケイトである岡本秀高さん。JAWS-UGやWordPressのコミュニティの参加者・運営者を経験しており、2回の転職もコミュニティ経由だ。前職でStripeのコミュニティを立ち上げた結果、「好きすぎて、Stripeに入ってしまった(笑)」という経緯まで松下さんと同じだ。「オンライン決済のプラットフォームなので、コミュニティでも開発やマネタイズの話をしている」とのこと。

 

 そしてモデレーターの長橋明子さんは、LINE WORKS、Automation Anywhereなどでユーザーコミュニティの立ち上げに関わり、今はAsana Japanでマーケティングをリードする。個人としてはB2Bマーケティングの博士課程を目指す研究者としての側面も持ち、コミュニティマーケティング推進協会のフェローにもなっている。

 

コミュニティマーケティング運営で一番知りたいKPIの課題

 コミュニティの裏も表も知り尽くした3人が語る最初のテーマは、まさに参加者が知りたいテーマと言える「コミュニティを運営するにあたってのKPI(評価指標)」だ。「コミュニティを立ち上げたい人からしたら、最初に聞かれるど真ん中のテーマじゃないですか?」と長橋さんはコメントする。

 

 これに対して、岡本さんは「社内にレポートする数字としては、開催頻度、参加者数、事例の数。それらの定数的な指標とは別の定性的なトピックとして、Stripeについてどんな話していたか。いいところ、改善点、そしてユースケースなどを社内に共有している」とのこと。営業や製品開発に情報を共有することで、ユーザーに対する「インサイト(洞察)」を得られるという。

 

 「インサイトってどういうことですか?」と長橋さんは、参加者を代弁する形で質問すると、岡本さんが「プロダクトチームやデベロッパーリレーションチームが想定したのと違ったこと」と説明。要はベンダー側とユーザー側のギャップだ。たとえば、Webhookにハードルを感じているという話」と語ると、松下さんは「そういう使い方があったのか系の話と 簡単だと思っていたのに、みんな苦労しているんだな系の話ですかね」と応じる。追加で岡本さんは「もっと説明すべき前提知識」「社内の人が気づかない強み」などを挙げる。

 

 こうしたインサイトを岡本さんはどのように社内にフィードバックしているのか? YouTubeにアップしているので、それを共有したり、キーとなるユーザーは社員に引き合わせたりしている。それはKPIになるのか?という長橋さんの質問に対して岡本さんは、「数字としては残らないが、ほかの社員からの評価で、岡本が持ってきたインサイトがこんな役に立ったというフィードバックとして戻ってくる」とコメント。定数的な評価ではないが、定性的なコメントがインサイトとしてコミュニティの価値を向上させているわけだ。

 

 参加者数は目標というより、むしろ現状を把握するためのヘルスチェック。数字よりも、「どれだけ事例やインサイトが集まったか?」といった定性的なフィードバックの方が社内からは期待されているという。

 

KPIは参加者数だけじゃない 初参加数、事例数、インサイト、スピーカー数も

 一方、ソラコムは、ネットワークやクラウド、デバイスなどさまざまなテクノロジーの総合格闘技となるIoTの特徴性を踏まえ、細かく参加者の属性を計測していないという。参加者と初参加率に関しては、「多いか、少ないかは計測しているが、KPIとしては重視していない」ということで、前述したヘルスチェックとして利用しているという。明確なKPIはイベントの開催回数。「これだけはSORACOM UGのメンバーとも共有している」と松下さんは語る。

 

 特に初参加率の捉え方は、単に高ければいいわけではないという点で面白い。松下さんは、「初参加率が低すぎると常連ばかりでコミュニティが拡がってないのではないかと思われる。逆に新しすぎると、いいコンテンツを提供できていないから、定着していないのかもしれないという仮説につながる」と語る。CMC_Meetupをリードする小島英揮氏も、30%程度の初参加率が適正という話をしているが、SORACOM UGもそれをベースに試行錯誤で数値をカスタマイズしているという。

 

 その点ではStripeは発表された事例の数もKPIになるという。「同じ人が何度も話すのではなく、ユニークな人数を計測している」と岡本さんが語ると、長橋さんは「事例を話せる人を増やせるということですね。それは面白いですね。単純な統計数ではなく、スター顧客を何人揃えられるか」と説明。松下さんは「うちも使わせてもらおうかな」と応じる。

 

 続いて長橋さんは「初めてコミュニティを立ち上げる人は、なにを目指すべきか」について聞いた。こちらもコミュニティリーダーからすると気になるトピックだ。

 

 これに対して、松下さんは「回数もそうだけど、前回からのインターバルを見るといいかもしれない。でかいやつをのをいくつもやろうとすると、息切れしてしまうので」と語る。たとえば動員人数が100名だった場合、1回に100名を集めるよりも、20名前提を5回やった方がどこかしらに参加しやすくなるので、人数が伸びるのではという仮説だ。「参加者目線だと、この日は行けないけど、あの日は行けるというパターンを増やせる。人数を追うより、参加をばらけさせた方がよいのでは」と松下さんは語る。

 

 岡本さんは、「それで言うと、スピーカーをどれだけ発掘できるかが、けっこう大変になってくる」と指摘。「MAXさんも、コミュニティ運営しているときに、自分だけが何回も登壇しているときあったはず(笑)」と語ると、松下さんは「ありましたねえ」と遠い目。岡本さんは「『とりあえずやってみたのLTだけでも』と言って、登壇者にどれだけお願いするかが重要」と語る。

 

 自らが連続登壇するという状況を松下さんはどう脱したのか? 長橋さんの質問に対して、「僕ですね、ライトニングトークのやり方というスライドを持っているんですよ(笑)」と松下さんはコメント。登壇者やスターを発掘するために、可能な限り敷居を低くするための工夫と言えるだろう。

 

コミュニティマネージャーは小料理屋のママか?

 次の質問は「コミュニティの規模(参加者)と熱量のどちらを優先するか?」というもの。「これもかなりファンダメンタルな問い。人数を増やすと、どうしても熱量とのトレードオフになる。ここはどうでしょうか?」(長崎さん)

 

 松下さんは、「規模と熱量って、実は片方しか数値計測できない。熱量は計測のしようがないというジレンマがある」と指摘。ソラコムとしては、基本的に熱量を重視しているが、計測できないため、開催回数をKPIにしているという。「開催回数が多ければ、基本熱量は高いだろうという仮説に基づいている。基本的には熱量を優先。熱量がないと継続できない」と語る。

 

 熱量を維持するにはどうしたらよいか? 「熱量を維持するための『燃料投下』にあたる部分だと、たとえば新しいサービスの話や僕が見聞きしたネタの紹介、あるいはライトニングトークをしてくれる人を引っ張ってきて、新しいスターを作り上げるなど。こうしたことは(コミュニティを運営する)企業側がやった方がいいことだと思う」と松下さんはコメントする。

 

 岡本さんも基本的には同じだが、アプローチが異なっている。「熱量を計測するのは難しいが、熱意を持って参加している人の数はバイネームでリストにはできる。コミュニティマネージャーの人がバイネームのリストを持っているだけだと単に仲がいいだけの可能性があるので、社内の人が名前を覚えているという点を重視している」とコメント。営業なり、サポートなり、なんかしらのインサイトをもたらしてくれた人として社内に認知してくれていることを重視しているという。

 

 「現時点では熱量重視」というコメントから、現在のStripeコミュニティのフェーズについて聞かれた岡本さんは、「現在は各地のファーストピンを発掘していくフェーズ」と語る。「Stripeに興味を持ちました」という人に対して、イベント後にZoomミーティングを設定し、実際にハンズオンをやることもあるという。

 

 「1on1じゃないですか!」という松下さんに対して、岡本さんは「SaaSって今すごい数あるんですよ。だから、『あとで触っておきます』と言っても、『あと』が永遠に来ないんです」と金言を放つ。せっかくイベントで興味を持っているのに、使ってもらえないのはもったいない。そのため、イベントの後に一手間かけるのが岡本流。「(イベント終了後は)なんだったら夜なんで、お酒持ってきてくださいみたいなノリで、興味を持ちそうなところをダッシュボードで見せる」とのことだ。

 

 関心のあるユーザーと話すことで、インサイトを得ることもできるので、次のプレゼンのネタにも使えるという。松下さんは、「酒の肴にStripeですね。小料理屋のママじゃないですか(笑)」と感慨深そう。「真面目な場所でやるより、それくらいカジュアルにやる方がいいんですね」と長崎さんもコメントする。

 

コミュニティの自走はあくまで現象 目指すべきモノではない

 最後は「コミュニティの理想」とはなにか? ここで避けて通れないのが、「コミュニティの自走問題」。「正確に言うと、『自走しなければいけないという呪縛の問題』なのかもしれない」と長崎さんは語る。岡本さんが「コミュニティから中の人になった立場からすると、自走させなければというのはあるかもしれない」と語ると、松下さんは「呪縛でもあり、願いでもあるかもしれない」と語る。

 

 こうした呪縛は果たしてあるのか? 岡本さんは「自走って結局、現象なので、それを目指すモノではないとは思っています」と語る。重視すべきは、あくまで参加者がコミュニティに参加して実現したいことを達成すること。結果としては自走がよいかもしれないが、目指すべきモノではないのでは?というのが岡本さんの意見だ。

 

 たとえば、今も全国で数多くの勉強会が開催されているAWSのユーザーグループのJAWS-UG。「あの規模となると、いくらSAさんがいても回せない。自走しないと、あの開催回数は実現できない」と岡本さん。JAWS-UGの参加者でもある松下さんは「企業側がサポートしなくても勝手に回ってくれればいいなとは思っている。でも、企業側がサポートすることによって、より面白いコンテンツができるといいなとも運営側としては思っている」とコメントする。

 

 企業側がネタを提供し続けている状況はけっこう苦しいと松下さんは語る。「僕も持っているカードは多くないので。でも、コミュニティ側がこんなことやりたいと言ってくれるととてもうれしい。だから、両方でネタを出し合って両方楽しめるのが、僕にとってのコミュニティの理想」(松下さん)。企業側とコミュニティ側でお互いに課題に向き合い、切磋琢磨できるのが一番よいという持論だ。

 

理想は企業とコミュニティが同じ船に乗った仲間

 「51対49でたまたま企業側にいるくらいの割合で、いっしょに仲間としてやっているのがいい」という松下さんのコメントに、岡本さんも「めっちゃわかります」と納得。長橋さんも「コミュニティマネージャーもコミュニティメンバーであるということですよね。明確な線引きと言うより、グラデーションの中のある一部分を切り取っただけという話ですね」とまとめる。

 

 結局、企業側もSaaSやサブスクでビジネスを伸ばしたいし、コミュニティメンバーもSaaSをうまく活用したり、新しい出会いを得て、ビジネスを伸ばしたい。「同じ目的をもった共犯者?(笑)」と岡本さんが語ると、長橋さんは「同じ船に乗る仲間ですかね」とナイスなリフレーズを提供する。

 

 今後について聞かれた岡本さんは、「個人的にコミュニティを通じて2回転職しているので、コミュニティがキャリアアップという観点でも、仕事がうまくいくのかという観点でも、とにかく夢のある場所になるといいなと思っている」とコメント。松下さんも「言われちゃったけど、とにかくコミュニティのメンバーを仲間としていっしょにやっていきたいという気持ちはずっと持っている。だから、ユーザーグループの面々から嫌われないようにしないと(笑)」とコメントする。企業側もユーザーと同じ目線でサービスを語り、楽しみ、学び、成長する場所が、コミュニティとあるべき姿のようだ。

 

文● 大谷イビサ 編集●ASCII