絶対にオススメとは言えないApple Vision Pro。でも最強の空間コンピューティング体験は超必見

AI要約

Appleは日本国内向けに6月28日に発売した空間コンピューティングヘッドセット「Apple Vision Pro」について、スペック、ハードウェア、ベンチマーク、カメラ画質、使い勝手などを総括したレビューを紹介。

基本スペックやデュアルプロセッサ構成、ディスプレイ、音質、センサー、バッテリー駆動時間、装着感など、様々な側面での評価を紹介。

記事ではVision Proの実用性や魅力、比較的高価ながらも実現した空間コンピューティングの利便性について紹介されている。

絶対にオススメとは言えないApple Vision Pro。でも最強の空間コンピューティング体験は超必見

 Appleは空間コンピューティングを謳うヘッドセット「Apple Vision Pro」を日本国内向けに6月28日に発売した。米国では2024年2月2日に発売されていたので、4ヵ月と26日遅れで日本市場にも投入されたことになる。

 米国発売時点からすでにVision Proの記事は多数掲載されているが、今回はスペック、ハードウェア、ベンチマーク、カメラ画質、使い勝手などについてまとめた総括的なレビューをお届けする。今からVision Proの全体像をまとめて把握したい方の参考となれば幸いだ。

■ 遅延をなき体験のためデュアルプロセッサ構成を採用

 まずは基本スペックについてお伝えしよう。Vision ProはOSに「visionOS」、プロセッサに「Apple M2」(高性能コア×4+高効率コア×4を搭載した8コアCPU、10コアGPU、16コアNeural Engine)、「Apple R1」(12ミリ秒の光子間レイテンシー、256GB/sのメモリ帯域幅)を採用している。

 Apple M2はご存じの通り、MacやiPadなどにも搭載されているメインプロセッサ。Apple R1はカメラ、センサー、マイクからの入力を処理することに特化したプロセッサだ。この2つのプロセッサにより、遅延をほぼなくした空間コンピューティング体験を実現している。

 メモリは16GB(ユニファイドメモリ)で、ストレージは256GB(59万9,800円)、512GB(63万4,800円)、1TB(66万9,800円)の3種類を用意。スペック的にはこの3通りだが、「ライトシーリング」(3万4,800円)は28種類、「ソロユニットバンド」(1万6,800円)とデュアルループバンド(1万6,800円)はそれぞれ3種類が存在する。

 自分の顔に限りなくフィットしたVision Proを購入したいのであれば、Apple Store(Web版とアプリ版)で事前に測定した上で、受け取りをリアル店舗にしたほうがいい。

 ディスプレイは3Dディスプレイシステム(2,300万ピクセル、3,800×3,000ドット×2、リフレッシュレート : 90Hz/96Hz/100Hz)を装備。ちなみに「Meta Quest 3」は2,064×2,208ドット×2で視野が水平110度/垂直96度と広いので、PPD(Pixel Per Degree)はVision Proのほうが高い。

 サウンド機能は空間オーディオに対応したデュアルドライバー搭載の「オーディオポッド」と、指向性ビームフォーミングを実現する6アレイマイクを装備。「オーディオストラップ」に内蔵された「オーディオポッド」はある程度音洩れするが、ほかのApple製デバイスと同様に「AirPods」も利用可能だ。

 カメラは「ステレオスコピック3Dメインカメラシステム」(6.5ステレオメガピクセル、18mm、F2.0、空間写真と空間ビデオの撮影対応)を搭載。パススルー映像の撮影に利用されるほか、Vision Pro単体で3D写真、動画を撮影可能だ。

 センサーは、2つの高解像度メインカメラ、6つのワールドフェイシングトラッキングカメラ、4つのアイトラッキングカメラ、TrueDepthカメラ、LiDARスキャナ、4つの慣性計測装置(IMU)、フリッカーセンサー、環境光センサーを装備。コントローラは用意されておらず、入力は手、視線、音声で行なう。また、外部キーボード、トラックパッド、ゲームコントローラなどに標準で対応する。

 本体サイズは実測165×100×220mm、重量は本体が600~650g、バッテリが353g。バッテリ駆動時間は一般的な使用で最大2時間、ビデオ再生で最大2.5時間と謳われている。一般的な使用ではセンサーがフル稼働し、Apple R1も多くのデータを処理するので、ビデオ再生時よりもバッテリ駆動時間が短くなるわけだ。

■ 同じApple M2を搭載するiPad AirよりVision Proはベンチマークが低い

 スペックのおさらいの後は、早速パフォーマンスをチェックしてみよう。ただし前述の通り、Vision ProはApple M2とApple R1を搭載したデュアルプロセッサ構成のデバイスである。今回のベンチマークではApple M2しか使用されていないので、Vision Proの総合性能を計測しているわけではない点には留意してほしい。

 今回のベンチマークでは、同じくApple M2を搭載する「13インチiPad Air (M2)」を比較対象機種として使用している。ただしGPUのコア数は、Vision Proは10コア、iPad Airは9コアと異なっている。

 さて、Vision ProはiPad Airに対して、下記のようなスコアを記録した。

 おおむねiPad AirよりVision Proのほうがスコアは低く出ているのは、カメラ、センサー、マイクからの入力処理以外にも空間コンピューティングにはなんらかの処理が発生しているのだろう。

 特にGeekbench MLでは、Vision ProはiPad Airの48%相当のスコアとなっていることから、Apple R1だけでなくApple M2のNPUも常時使われている可能性が高い。なお、GPUコア数の多いVision ProのほうがiPad Airよりグラフィック関連のスコアが低いのは、アイドル時であってもGPUの使用率が高いのだと思われる。

 ヘッドセットの表面温度については、前面の最大温度は実測38.2℃、上面の最大温度は実測40.2℃となった(室温27.2℃で測定)。Vision Proはライトシーリングにより顔から離れているので熱を感じることはない。

 しかし、冷房をつけていない部屋ではヘッドセット内部のレンズが少し曇ることがあった。夏場にVision Proを使用する際には、冷房は必須だ。

■ カメラの発色は良好だが、iPhoneに比べるとやや解像感に欠ける

 Vision Proには、6.5ステレオメガピクセル、18mm、F2.0というスペックのステレオスコピック3Dメインカメラシステムが搭載されている。下にはVision Proで撮影した写真を掲載しているが、基本的な発色は良好なものの、やや解像感に欠けるというのが率直な感想だ。特に周辺部については少しボケており、また歪曲も気になる。手軽に3D写真、動画を撮れること自体は楽しいが、画質を追求するのなら専用機を利用したほうがよさそうだ。

■ 実際にVision Proを使ってみた率直な感想

 今度は実際に長期間使用した上での感想をお伝えする。まず、画質についてはかなりいいと思う。筆者が直近で試用したヘッドセットは「Meta Quest 3」と「PlayStation VR2」なのでその比較となるが、Meta Quest 3が2,064×2,208ドット×2(水平110度/垂直96度)、PlayStation VR2が2,000×2,040ドット×2(視野角約110度)ということもあり、3,800×3,000ドット×2で視野角が狭いVision Proのグラフィックは明らかに高精細だ。

 ただVision Proの画質が非常によく感じられるのは、パススルー映像が高精細で、かつ自然な発色なのが大きな要因だと思う。Vision Proのパススルー映像が高品質なのは間違いないが、現時点ではまだ実際の景色と置き換えられるほどではない。特にPCやスマホの画面を見ると、文字はしっかりと読めるが、色によっては白飛びして見にくい場合がある点には留意してほしい。

 音質についてはAppleクオリティ。つまり、音のレベルはかなり高いと感じた。耳に密着しているわけではないが、低音もしっかりと聞こえてきて、バランスのいいサウンドが楽しめる。

 ただし、結構音洩れするので公共交通機関ではそれほどボリュームを上げられないし、空間オーディオの立体感は「AirPods Pro(第2世代)」のほうがよく出ていると思う。家にいるときにわざわざAirPods Proを装着するほどではないが、立体感に明確な違いがあるのは確かだ。

 装着感については個人差あると思うが、筆者の頭にはフィットしているようだ。実際、頭の上とうしろのストラップでホールドする「デュアルループバンド」は、数回試した後は、パッケージに仕舞ってしまった。ソロニットバンドは幅が広いので、適切な強さで締め付ければ、長時間かぶっていても頭が痛くなるようなことはないと思う

 操作性は申しぶんない……というか、これまでかぶったヘッドセットの中でもっともストレスなく使えると感じている。これにはいろんな理由が考えられるが、両手が重なっていたとしても、Vision Pro内のディスプレイではほぼ正確にすべての指が切り抜けている。だからこそ正確にジェスチャーを認識し、実行できているわけだ。

 ただ個人的な要望としては、せっかく正確にアイトラッキングできるので、人差し指と親指のタップ以外でタップ操作を実行したい。ウインク、歯を鳴らす、口笛などでタップ操作が可能になれば、より自堕落な使い方ができて個人的には最高だ。

 一方、現時点での不満点はアプリの充実度。現状、動画配信サービスはブラウザ上でも利用できるし、多くのiPad用アプリも動作するので実用的な部分では不足はない。しかし、空間コンピューティングならではのVision Pro用アプリが少なく感じている。

 Vision Pro対応と言っても、パススルーで回りの景色が見えるだけというのがほとんど。テーブルや壁、人物などを認識し、その上や表面にグラフィックを表示するようなエンターテイメント系アプリは今回見つけられなかった。そのようなアプリが便利なのか、楽しいのかという点について、個人的にも体験して、確かめたいと思っている。空間コンピューティングならではのアプリがもっとリリースされることを期待したい。

 個人的にかなり使用頻度が多いのがMac用外部ディスプレイとしての用途。どんな狭い場所であっても、Vision Proをかぶれば最大180インチ相当/4K解像度の大画面ディスプレイが現れる。Vision Proをどのぐらい長い時間かぶれるかという相性にもよるが、携帯性や画面サイズという点ではモバイルディスプレイと置き換えられるだけの利便性を備えていることは間違いない。

■ 空間コンピューティングは驚くほど実用的、使うほどにほしくなる

 Vision Proが買いかどうかについての評価は難しい。たとえばMeta Quest 3などと比較しているのであれば、絶対的にMeta Quest 3をオススメする。もちろん比べるまでもない価格差があるが、なによりアプリケーションの数が段違いだ。

 VR、MRコンテンツを楽しみたいのであれば、Meta Quest 3を購入して、Vision Proとの差額でゲームやアプリを購入したほうが間違いなく楽しめる。というか差額を使い切るのも大変だろう。

 一方、空間コンピューティングの実用的な利便性を享受したいのであれば、現時点でVision Pro以外に選択肢はないと思う。

 Vision Proをかぶっただけで現実空間に配置済みのブラウザ、電子書籍リーダ、NetflixやYouTubeの画面が目の前に現れる。天井に読みかけのマンガを見開き表示しておけば、いつでも仰向けになって、リラックスした姿勢で読み始められる。

 この周囲にたくさんの大画面を配置できるという経験を味わってしまうと、スマホやタブレットが正直狭苦しく感じる。結局筆者は、AppleにVision Proを返却すると同時に、Vision Proを購入してしまった。

 Vision Proが高価なのは間違いない。万人にオススメだとは口が裂けても言えない。Meta Quest 3とVision Proのどちらを買うか悩んでいるなら、間違いなく前者だ。

 しかし細かな使い勝手に改善の余地はあるが、Vision Proが実現した空間コンピューティングは驚くほど実用的だ。使えば使うほどほしくなる……というか必要になるデバイスである。それは筆者自身が思い知らされている。Apple Storeでの30分の無料デモも空いてきたようなので、未体験の方はぜひお試しいただきたい。