『WWDC24報告会&テクノエッジ パーティー』イベントリポート。鹿島OPSODIS 1スピーカーの開発秘話も

AI要約

AppleはWWDC24を開催し、Apple Intelligenceなどの新機能を発表。

鹿島建設がOPSODIS 1という立体音響スピーカーを開発。

OPSODIS技術の特徴やクラウドファンディングについても紹介。

『WWDC24報告会&テクノエッジ パーティー』イベントリポート。鹿島OPSODIS 1スピーカーの開発秘話も

Appleは6月11日に、年次開発者会議「WWDC24(Worldwide Developers Conference 2024)」を開催しました。

これを受け、テクノエッジでは、現地で直接取材をしてきたITジャーナリストの本田雅一さんと石川温さん、そして弓月ひろみさんを迎えてWWDCを振り返る「WWDC24報告会&テクノエッジ パーティー」を6月20日に開催しました。

この記事では、イベントの内容を簡単にまとめてお伝えします。

WWDC24振り返り

イベントの前半では、弓月さんを司会に、現地取材をされた本田さんと石川さんのイベント報告が行われました。冒頭には、外部からは分かりづらい現地取材ジャーナリストの仕事についての解説も。

昔と違い、最近のWWDC基調講演は事前に収録した動画を流しています。これは現地でも同じで、Apple本社の中で大きなスクリーンをみんなで見ているのだとか。

であれば、現地取材の意味はなさそうですが、基調講演での疑問点や触れなかった点などを開発者に直接質問したり、インタビューを行ったりなどの取材もしっかり行われています。

しかし場合によっては、担当者から直接聞いたり実際に試して確認した内容であっても、どのように得た情報なのか記事に詳しく書けない場合もあるとのこと。

ここからは表に出せないオフレコのトークが続きましたが、こうした話を聞けるのも、リアルイベントの醍醐味です。

そんなWWDCですが、今年注目を集めたのは何といってもAppleの独自AIシステム Apple Intelligenceでしょう。

これに関して本田さんは、Appleの本業はデバイスを販売すること、デバイスの付加価値を高めることなので、AppleがLLM(大規模言語モデル)をやる意味はないと思っていたとのこと。また、AIをやるにしても、プライバシーについて厳しいAppleだけに、Googleと同じようなアプローチは取れないのでどうするのか。今回の発表で、プライバシーを維持しつつローカル・クラウドでAI処理するApple Intelligenceの仕組みを聞いて、なるほどと思ったとのことでした。

また石川さんは、AppleがAIを手掛けること、そして最近のトレンドであるオンデバイスAIに関して、Appleはとっくの昔からオンデバイスAIを活用していたと指摘。iPhoneやiPadなどで、オンデバイスで画質を上げるような処理を導入しており、ようやく世間がAppleに追い付いてきたという見方ができるとのこと。

また生成AIが盛り上がる一方で、一般の人が主体的に使うのはまだ意外と難しいところ、Apple Intelligenceは例えばテキストプロンプトを分かりやすいグラフィカルな選択肢として提示するなど、多くのユーザーに分かりやすい形でAIを活用しており、これはAppleらしいアプローチだとしていました。

会場からの「Apple Intelligenceは将来有料化されると思うか」という質問に対しては、お二人で意見が分かれました。石川さんは、サービスとして継続させていく以上、いずれ有料化したいと思っているだろうとの考えです。初めは無料で提供し、便利になり離れられなくなってきたら有料化するかもしれないとのこと。

対して本田さんは、有料化はしないだろうとの考えです。Apple Intelligenceは、世に出回っている汎用的なLLMとは違い、いろいろなことになんでも答えるというものではなく、基本的にはデバイスの中にある情報しか利用しません。

そこからこぼれたものはサーバーに投げてChatGPTなどを利用する仕組みですが、こうした利用範囲であれば、無料で提供されるのではないかと予想。

ただ、現在ChatGPTを呼び出しているような部分をApple自身が手掛ける可能性もあり、その場合は有料化もあり得るともしていました。

答え合わせは数年後となるかもしれませんが、Apple IntelligenceやiOS、iPadの新機能なども含め、今後もテクノエッジで追ってゆく予定です。

鹿島建設が開発した立体音響スピーカー「OPSODIS 1」

イベントの後半では、スポンサーセッションとして、鹿島建設が初めて自社開発したスピーカー「OPSODIS1(オプソーディス ワン)」についてのプレゼンも行われました。

GREEN FNDINGで6月20日にクラウドファンディングを開始したOPPSODIS 1ですが、GREEN FUNDING史上最速で1000万円の支援を突破しました(執筆時点では1億3000万円を超えています)。

ところでこのOPSODIS 1、イベント前半のテーマ WWDCとは直接関係がない商品ではあるものの、プロジェクトの責任者で今回のプレゼンも担当した鹿島の村松さんは、実は Appleとも関りが深い人でした。

Appleが米国以外で初めて直営店を出したのが、日本の銀座店。その銀座のAppleを担当したのが鹿島建設で、村松さんも設計者として間近で、スティーブ・ジョブズ本人のアイデアや意向に対応していたとのこと。

ジョブズはApple Store銀座をいたく気に入り、ジョブズ時代の国内店舗は以降も鹿島に担当させたことや、各地のストアで導入されたアイコニックな設計には、ジョブズ本人のアイデアをなんとか現実にすべく担当者が奔走して実現したものもあるなど、非常に貴重なエピソードが披露されました。

そんな建設会社である鹿島がなぜスピーカーなのか。鹿島建設は各地のコンサートホールなど、音にこだわる建物を数多く施工してきています。そのため、どうすればいい音がする建物になるのかという音響設計を担当する研究所があるとのこと。戦後すぐの設立であり、鹿島が音響を専門組織で研究するようになってすでに74年経っています。その研究から生まれたのが、OPSODISという技術です。

ちなみにOPSODISは特許技術ですが、すでに20年以上経っているので特許は切れています。ただ、特許以上の公開していない重要な情報も多く、心配はしてないそうです。

先ほども触れた鹿島が手掛けるコンサートホールなどの建物。建てた後に音がよくないと言われては大変なので、建てる前にコンピューターシミュレーションで解析します。ただ、解析結果を数字で示したり、色で表現しても、実際のところそれがどんな音なのかは伝わりません。

そこで開発されたのがOPSODIS技術。スピーカーでありながら左右の耳それぞれに独立した音を届けることができ、立体音響を再現できるOPSODISスピーカーに解析結果を入力すると、「このホールのこの席ではバイオリンがこういう風に聴こえます」といったことを実際にクライアントに体験してもらうことができます。

これを利用すると、設計検討の段階で「反射板をここにこう立てると、音がこう変わります」「反射板の材質を変えるとこう変わります」「その二つなら2番目の音が好みかな」といった会話が成り立ち、非常に喜ばれたとのことです。

このように、OPSODISのスピーカーはもともと設計ツールとして利用されていました。それだけではもったいないと思えますが、建設会社である鹿島には自社でスピーカーを作る発想はなかったとのこと。

そこで、技術だけを他のオーディオブランドにライセンスしていました。最初にOPSODISが搭載された市販スピーカーは、2005年に日本マランツから発売されています。

OPSODIS技術は、鹿島の技術研究所の研究員が英サウサンプトン大学音響振動研究所に留学中の1996年に発明した技術。その後、大学教授との連名で特許を出願しています。なお、現在は英国にOPSODISの特許を扱う会社を作り、ライセンスビジネスを行っています。

OPSODISは世界初のバイノーラルスピーカーをうたいます。一般的なステレオ方式は、左右2本マイクで録音し、左右のスピーカーから再生するというシンプルなもの。

対してバイノーラル方式では、人の頭を模したダミーヘッドの鼓膜部分にマイクを仕込むことで、左右の耳の形状や、頭部による減衰なども反映した、実際にその場で人間が聴いた状態で収録します。

再生時はイヤホンやヘッドホンを使うことで、右側で録音した音は右耳のみ、左側で録音した音は左耳のみに聞こえ、収録時の音響空間が感じられる、立体に聴こえる原理です。

バイノーラル自体は1960年代からある技術ですが、スピーカーで再生すると右スピーカーから出た音も左耳で聞こえてしまう、その逆も然りで、長らくスピーカーでは使えない技術と考えられてきました。

しかしOPSODIS技術により、右の音は右耳だけ、左の音は左耳だけに聞かせることが、音質を劣化させることなくできるようになりました。これを実現しているのが、クロストークキャンセルという音場制御法です。

OPSODISでは、左耳に聴かせたい音を左スピーカーから0.5だけ出力。右スピーカーからは同じく0.5の音を位相を4分の1(90°)ずらして出力します。これにより、右耳に届く音を打ち消しつつ、左耳では0.5の音が合成され1になるという仕組みです。

つまり、それぞれの耳には両方のスピーカーの音が届いているものの、左右の耳に届いた時点で合成されて、初めてそれぞれのチャンネルの音になるよう加工して送り出す技術ともいえます。

OPSODIS 1スピーカーにはこの他にも、計算されたスピーカー配置や、スピーカーの物理的な位置を聴覚上感じさせないステルス・スピーカーなどの技術も盛り込んでいます。

製品仕様としては、2.0cmツイーター×2、2.5cmミッドレンジ×2、5.0cmウーハー×2にパッシブラジエター×2という構成で、各スピーカーは独立したアンプで駆動されます。

接続はBluetooth(SBC/AAC)、USB-C、光デジタル入力、3.5mmミニジャックの4系統。

高音質のために5mm厚のアルミ押し出し材による箱状筐体を採用しており、このために382×80(ゴム足10mm含む)×130mmというコンパクトサイズながら、2.5Kgという重さになっています。

クラウドファンディングは8月31日まで実施。期間中、SHIBUYA TSUTAYA 4階のSHARE LOUNGE、および二子玉川の蔦屋家電+で実機が展示されています。

3Dサラウンドの常識を覆す。目の前に1台置くだけの立体音響スピーカー。 高額帯マルチスピーカーを遥かに凌駕する。 鹿島建設が本気で挑む、唯一無二の音世界。OPSODIS®技術搭載「OPSODIS 1」 | GREENFUNDING