約50台が集まった『Vision Proパーティー .feat 日経空間版』レポート。空間コンピューティングの現在と未来を体験するイベント

AI要約

Appleの新製品『空間コンピュータ』Vision Proの日本発売を記念したイベント『Vision Proパーティー』が開催された。

イベントでは、空間コンピューティングの概念や未来、Vision Pro専用アプリ『日経空間版』などについてのトークセッションが行われた。

また、日経空間版やARゲーム、Vision Proの使い勝手を向上するアイテムなどが紹介され、参加者たちの熱気に包まれた。

約50台が集まった『Vision Proパーティー .feat 日経空間版』レポート。空間コンピューティングの現在と未来を体験するイベント

ついに日本でも発売を迎えたAppleの『空間コンピュータ』Vision Pro。弊誌テクノエッジでは「ドレスコードはVision Pro」を掛け声に、先行入手組のユーザーや開発者が集まるイベント『Vision Proパーティー』を国内発売前から二回にわたって開催してきました。

この7月11日には、Vision Pro専用アプリ『日経空間版』をリリースした日経新聞との共同開催により、国内発売後では初となる第三回を実施。『Vision Proパーティー .feat 日経空間版』と題して、東京都大手町の日経本社ビルSPACE NIO(スペース ニオ)で開催しました。

メインコンテンツであるトークセッションは、空間コンピューティングの概念と未来についてのキーノート、企画開発者が語る『日経空間版』の体験設計、Vision Proの装着感改善アイテム紹介、Vision Proアプリやゲーム開発について。ここではイベントの様子をお伝えます。

空間をどう活用するのか 西田宗千佳氏のキーノート

イベントの開幕は、テクノロジージャーナリストの西田宗千佳氏によるキーノートから。テーマは空間コンピューティングについて。

「空間コンピューティングには2つの考え方がある」と西田氏。1つは、自分が仮想的にどこかへ行くこと。たとえば、Vision ProでKeynoteアプリを使えば、スティーブジョブズシアターに立ってプレゼンテーションが可能です。通常ではいけない場所、ありえない場所に立てるのが空間コンピューティングのいいところです。

そしてもう1つが、これまで使っていなかった空間を活用すること。現実世界ではディスプレイとユーザーの間に物は置けませんが、空間コンピューティングであれば空中を含めて、すべての空間が活用可能です。

たとえばVision Proの立体アバター『ペルソナ』も、そこにいない人をすぐ近くの空間に呼び出すことで、対面に近いコミュニケーションが得られる機能といえます。

西田さんいわく、この空間に「置く」発想のアプリケーションはまだ開拓の途上。

多くの開発者もこの分野を狙っており、Vision Proが登場した際には、この空間を活用するためにバッテリーメーターのウィジェットが数多くリリースされました。しかしvisionOS 2.0ではOS標準機能の改善で確認しやすくなってしまったという、PCの世界ではよくあるお話も。

西田さんによれば、この空間活用の発想は新聞にも当てはまります。新聞の前提は空間を贅沢に使うこと。「紙の新聞って、こう見開きにしておいて見られるから便利なんです。それを小さく畳んで、昭和のおじさんは電車のなかでやってたんですけど、縦に三つ折りにして読んでいても全然便利じゃない。だからこそ電車のなかでニュースを読むのはスマートフォンに取って代わられたわけです」。

しかし空間が活用できるなら「空間をじゃぶじゃぶ使うビューイングアプリケーションを作ればいいことになる」。このとき見開きで新聞を再現すればよいのか、それとも空間コンピューティングを前提に空間をどう広く使うかを考えなければいけないとのこと。

さらに平面を離れたアプリケーションをどう設計してゆくべきか、Appleの設計思想や、西田さんが予測する空間コンピューティングの未来、今後登場するデバイスの流れにも話は及びました。

天気アプリSunnyTuneのUXで意識したこと

続いて、空間を有効活用する天気アプリSunnyTuneをリリースしたMESON社CEOの小林 佑樹氏から、「SunnyTuneのUXデザインで意識した3つのこと」というテーマでライトニングトーク。

SunnyTuneは、Vision Proを通して空間上に現実世界の天気をスノードームのように表示するアプリ。このアプリのUXで意識したのは「情報を感じる」「心地よさを生み出す」「存在が価値になる」の3つとのこと。

Vision Proのキーラーユースケースはエンタメよりもバーチャルワークスペースだと考えているものの、自分たちのようなスタートアップではNotionやSlackなどの強力なライバルには勝てないとも。

そこで、空間コンピューティングを活かし、これまで情報が表示されていなかった場所に表示できるミニマルなインターフェースにすること、視覚や聴覚を通して情報を感じさせるデザインを意識しているとのことでした。

空間に全ページを一望。「俯瞰と深堀り」を可能にした日経空間版

そして、日経空間版について。話をして頂いたのは、エンジニア・プロダクトマネージャー猪飼大志氏と、エンジニアの尾崎正和氏。

日経空間版は、社内のエンジニアによる内製アプリ。6月28日のVision Pro日本発売と同時にリリースされましたが、昨年6月のVision Pro発表直後から企画を開始し、公開まで約1年というスピードだったとのことです。

これは日経がもともと、通常の電子版とは別に、先進的・実験的な機能や体験をプレビューするアプリ日経Waveを提供しており、ニュースやデータを扱う部分を共用できたため。

この開発のスピード感ですが、空間に紙面をそのまま、全ページを並べて俯瞰できる特徴的な機能 Paperium は、なんと一晩でプロトタイプを実装したとのこと。

尾崎氏いわく、従来のニュースアプリにない日経空間版ならではの体験は「俯瞰と深堀り」。過去30日分の紙面を一覧でき、注視でそのままニュースを読めるインターフェース Paperium が「俯瞰」、そして記事を選択すると、関連した過去の記事が時系列で並ぶ機能 StoryFlowが「深堀り」を可能にします。

また紙や平面では実現できない空間版専用コンテンツとして、過去100年に日本で起きた地震の震源地を表示できる震源地図の3D版を用意。

3次元表示できることを活かして、自由に回転したりズームしたりすることが可能で、震源の深さも視覚的に表現されています。

なお2024年後半には、震源地図に続く新しいビジュアルデータコンテンツを提供予定とのことです。

ARゲーム「Shuriken Survivor」で苦労したこと

Vision Pro向けのSpatialシューティングゲーム「Shuriken Survivor」をリリースしたGRAFFITYのシニアデザイナー井上 嵩教氏は、ARゲーム制作にあたり苦労した点を紹介してくださいました。

GRAFFITYではいくつかのARゲームをリリースしていますが、ARゲームはユーザー毎に環境が大きく異なり、それをどうするかが悩みどころ。

Shuriken Survivorを制作する際にも、開発が楽なように現実の広さや物を無視してしまうという案もあったそうですが、最終的には実際の壁や天井に手裏剣が刺さる、敵が実際にあるものを避けて移動するなど、ARらしさを生かしたものになりました。

ちなみに、「Shuriken Survivor」は制作チーム5名で約3か月で開発したそうです。

Vision Proの使い勝手を向上させるアイテムの数々

ライトニングトークの最後は、Vision Proの装着感と使い勝手を向上する各種アイテムを設計してきたテクノロジーエヴァンジェリストの高橋忍氏から、Vision Pro用の補助バンド「Band Pro」の紹介。

Vision Proに付属のSolo Knit Bandは、しっかり締め付けると頭が痛くなってくることもあります。また特に頭の小さな女性の場合、そもそもしっかり締め付けられないことも。

そこで、前頭部でVision Proを補助的に支えるBand Proを開発。頭が小さい女性や子供でもVision Proを体験可能になります。

また、Band Proを利用すると、ライトシール(Vision Proのフェイスガード)がなくてもVision Proを支えられることがわかり、眼鏡を装着したままでもVision Proの体験が可能になります。

ほかにも、鼻で支えるNose Proや、ケースを使わずにレンズを保護するGuard Proなどのアイテムも製造・販売中です。

Vision Proの熱量を感じるイベントでした

最後は、参加者の皆さんで懇親会。日本発売後ということもあり、今回のイベントでは50台近くのVision Proが集まりました。

まだニッチな市場かつ、高額なため誰でも手を出せるガジェットではありませんが、廉価版のうわさも出てきているので、しばらくすれば、それなりに一般的なジャンルの製品になるのかもしれません。

なお、プレゼンテーションやライトニングトークなどの全体を確認したい場合、テクノエッジの会員制コミュニティ『テクノエッジ アルファ』に加入すればアーカイブが視聴できます。