安いトラックボールは実際どうなのか。ロジクールの定番製品と使い比べて確かめた

AI要約

ロジクールの「ERGO M575」とProtoArcの「EM04」を比較した記事。M575は高い完成度でファンも多く、EM04は半額近い価格で魅力を持つ。

M575とEM04は親指で操作するタイプで、両者には拡張ボタンも搭載されている。接続方法や同時接続台数、ユーティリティの有無などが違いがある。

M575とEM04のボールの感触や精度、ボタンの静音性などが異なる。EM04はリーズナブルで試しやすいが、M575は王者の貫禄を持つ製品。

安いトラックボールは実際どうなのか。ロジクールの定番製品と使い比べて確かめた

 いざ“トラックボールデビュー”したいとなった時に、どの製品を最初にチョイスするかは難しい問題だが、その中で完成度の高さゆえよく候補に挙がるのが、ロジクールの「ERGO M575(以下M575)」だ。10年近いロングセラーモデルをさらにアップデートした伝統ある製品で、初心者から上級者に至るまでファンも多い。

 さてこのM575は、その評価の高さもあってか、外見がよく似た後発製品が他社からもリリースされている。今回紹介するProtoArcの「EM04」もその1つで、並べてみると区別がつかないほどのそっくりぶりだ。実売価格が7千円台であるM575に対し、このEM04は3千円台と半額近いのも、初めてトラックボールを使おうとするユーザーからすると魅力だ。

 では実際の機能や使い勝手はどうなのだろうか。今回はこの両製品について、さまざまな項目で比較していく。初めてトラックボールを使うという人はもちろん、すでに使っているM575やその前身モデルからの買い替えにあたって外見がそっくりなEM04の存在が気になっている人の参考になれば幸いだ。

■ 両者ともに親指で操作するタイプ。拡張ボタンも搭載

 まずは両者で共通するポイントから見ていこう。

 トラックボールと呼ばれる製品には主に、ボールを親指で操作するタイプと、人差し指で操作するタイプの2種類があるが、M575は前者の親指で操作するタイプだ。そのためボディの左側面にはボールがあり、右側面にはマウスと同じ左右ボタンやホイールが配置されるという、左右非対称の設計になっている。

 それゆえボールを人差し指で操作するモデルとは異なり、右手専用のモデルということになる。外見がそっくりなEM04もこれは同様だ。

 一般的に、マウス操作における親指というのは、本体の保持に用いられ、ボタン操作にはあまり関係しない。本製品ではその親指を使ってボールを操作するため、人差し指以降を使った左右クリックやホイールなどの操作体系は、一般的なマウスと同様だ。

 したがってマウスから移行するにあたって新たにマスターしなくてはいけないのは、主に親指によるボール操作のみで、ハードルは極めて低い。マウスからの乗り換えに適したモデルと言われるのはこれが理由だ。実際、マウスと交互に使っていても、操作感が違って戸惑うことはない。

 またこの両製品は、左ボタンの隣に2つの拡張ボタンを搭載している。これは5ボタンマウスにおける4番目と5番目のボタンに相当しており、初期状態ではブラウザの「進む」、「戻る」に割り当てられている。つまりできること自体は、5ボタンマウスと同等ということになる。

■ 接続はBluetoothもしくは2.4GHz帯。同時接続台数に違いあり

 接続方法は両者ともにワイヤレスで、Bluetoothと2.4GHz帯のどちらかを選択できる。EM04は本体前方にUSB Type-Cポートが搭載されているが、これは有線接続するためのものではなく、本体のバッテリを充電するためのものだ。M575は充電式ではなく乾電池式であり、これが両者の相違点の1つ目と言える。

 両製品とも、この2つの接続方式を用いて別々のデバイスを接続しておき、底面のボタンを押して切り替える機能を備えている。M575はBluetoothと2.4GHz帯でそれぞれ1台の計2台、EM04はBluetoothが2台と2.4GHz帯が1台の計3台がループする形になる。一周ループして戻ってくるまでボタンの押下数が増えるので多いほどよいとは限らないが、接続台数の点ではEM04のほうが上ということになる。

 また、DPIの切り替え方法も違いとして挙げられる。M575はDPIの切り替えは後述するユーティリティ上で行なうのに対して、EM04はホイールの手前に搭載した専用ボタンを使って行なう。頻繁に切り替えるのであればEM04が有利だが、うっかり押してしまってポインタの速度が変わるミスも併発しやすいので、どちらも一長一短といったところだ。

■ 専用ユーティリティの有無で使い勝手はどう変わる?

 続いてWindowsにおける、ソフトウェア面での違いについて見ていこう。

 両者ともに、接続すればWindowsの標準ドライバで動作するが、M575についてはさらに専用ユーティリティを用いることで、ボタンの割当変更などのカスタマイズが行なえるようになる。マクロなどゲーミングマウス並の高度な機能はサポートしないが、ショートカットの割り当てといった基本機能は一通りサポートしている。

 このほかポインタの速度を変更したり、設定をクラウドに保存して別のPCで使えるようにする機能もあるので、ユーティリティをインストールするだけの価値はある。バッテリの残量をパーセンテージで確認することも可能だ。

 一方のEM04はユーティリティが用意されていないため、割り当ての変更ができず、4番目および5番目のボタンは「戻る」、「進む」のままだ。ただし試した限り、汎用のユーティリティである「X-Mouse Button Control」を使えば、4番目および5番目のボタンの割り当てを変更することは可能で、カスタマイズ性はぐんと向上する。

 もっともEM04で拡張ボタンとして用意されているのは、この4番目と5番目のボタンだけであり、DPIの変更は本体側で行なえるので、それほどカスタマイズの必要性はない。会社で利用する場合、自前でソフトのインストールはNGという場合もあるはずで、その場合はDPI変更を本体側で行なえる本製品のほうが、M575より有利ということになる。

■ ボールの感触および精度、さらにボタンの静音性に違いあり

 さて、外見がそっくりなこの両製品だが、使ってみると思いのほか違いがある。

 1つはボールの感触で、M575は回転させるのにザラザラと手応えがあるのに対して、EM04はツルツルとしており、ボールが非常に軽く感じられる。ボールの感触は使い続けているうちに徐々に変化するので、あくまでも購入直後の段階でという但し書きがつくが、ポインタを狙ったところでピタッと止められるのは、M575のほうが明らかに上だ。

 試しに両者のボールを交換してみたところ、M575は軽くなり、EM04はザラザラ感が増したので、ボールを支える本体側の支持球の問題ではなく、ボールそのものが影響していることになる。言い換えれば、ボールさえカスタマイズすれば、対策のしようがあるということだ。ただしその分コストは上がることから、実売価格が安い優位性が薄れてしまうわけで、少々考えものだ。

 ちなみにボールの直径は、M575は表記にブレがあり、メーカーサイトでは35mm、Amazonの製品ページでは34mmと記載されている。EM04は34mmで、実際にM575と交換可能なので、両者ともに34mmと見なしたほうがよいように思う。ボールの交換などについては自己責任で判断してほしい。

 もう1つ両者で相違があるのはポインタの精度だ。EM04はボールから指を離す瞬間にポインタの位置がわずかにズレるという、廉価なトラックボールによくある症状が見られる。M575でもこの症状は決して皆無ではないが、Webブラウザのタブ上にある「×」ボタンくらいのサイズになると、M575はおおむね問題なくクリックできるのに対して、EM04は一定の頻度で失敗する。

 このあたり、慣れればある程度は解消されるとはいえ、日常的に使うデバイスとしてはやはり気になるところ。一方で、マウスから全面的にリプレースするのではなく、精度が高い操作は従来通りマウスを使うといった、両者の併用を前提とした使い方であれば、このあたりの問題は感じにくいだろう。

 ちなみにボタン音は、M575は左右クリックが甲高いカチカチという音で、ホイールボタンと拡張2ボタンは静音性が高いポコポコという音なのに対して、EM04はその真逆で、左右クリックは静音性が高く、ホイールボタンと拡張2ボタンは甲高い音がする。

 実際の操作においてクリックする回数は、これらのうち左右ボタンが圧倒的に多いことを考えると、静音性ではEM04が有利だ。ただしこれらは押し心地には劣るので、そちらを優先するならばM575が有利ということになる。ホイールについては両者ともに回転に手応えがあるタイプだ。

■ EM04はリーズナブルで試しやすい。M575は王者の貫禄

 以上ざっと試用しつつ比較してみたが、EM04も廉価な製品ながら、なかなかイイ線を突いているというのが筆者の評価だ。今回は短期間の試用なので、耐久性およびバッテリの持続時間についての評価は差し控えるが、これだけの機能で3千円台はリーズナブル。セール時にはさらにクーポンによる値引きもあるようなので、あまり予算をかけずにまずは試したいというニーズには合うだろう。

 一方のM575は、ある意味で王者の貫禄と言っていい使い勝手で、評判がよい製品だけのことはあるという印象だ。DPIの変更を始めとした詳細な設定はユーティリティ上で行なわなくてはいけないため、自前でソフトのインストールができない会社利用では性能をフルに発揮できないマイナスはあるが、予算が合えば積極的に選ぶべき製品と言える。

 なおM575については、オフホワイトの「M575OW」とグラファイトの「M575GR」は2年保証、ブラックの「M575S」は1年保証といった、型番の末尾につくアルファベット(カラー)によって違いがあるので、購入にあたっては注意してほしい。