クアルコムがSnapdragon X Elite/Plusについて解説、AI PC市場は2028年まで年平均120%で急成長

AI要約

ハード側でAI処理をするNPU搭載のパソコンに関心が集まっており、Snapdragon X搭載のCopilot+ PCが先駆けとして注目されている。

クアルコムジャパンとMM総研がSnapdragon X Elite/Plusのメリットや企業分野におけるAI PCの普及予測について解説し、AI PCの普及に向けた動きが加速している。

AI PCの普及により、ホワイトカラーの生産性向上が背景にあり、AI対応PCの需要が増加している。

クアルコムがSnapdragon X Elite/Plusについて解説、AI PC市場は2028年まで年平均120%で急成長

ハード側でAI処理をするNPU搭載のパソコンに関心が集まっている。先陣を切ったのがSnapdragon X搭載のCopilot+ PCだ。

 クアルコムジャパンとMM総研は、7月1日開催の「DX推進フォーラム 2024」に合わせてプレス説明会を開催した。クアルコムジャパンからは副社長の中山泰方氏、MM総研からは取締役研究部長の中村成希氏が登壇。それぞれSnapdragon X Elite/Plusのメリット、企業分野におけるAI PCの普及予測について解説した。

 

最高のCPU性能と電力効率の高さ、携帯通信との融合をアピール

 クアルコムジャパンの中山氏は冒頭、Snapdragonがスマートフォンだけではなく、自動車、ゲーム、XRなど様々な業界で活用されていることに言及。クラウドからエッジへのコンバージェンスを推進するデバイスとして注力していると話した。

 

 現在、パソコン用のCPUとしはインテルやAMDが提供するx86互換プロセッサーが主流だが、Copilot+ PCに搭載されて注目されているクアルコムのSnapdragon X Elite/Plusはarmベースのプロセッサーとなる。x86系のSoCにはない特徴として中山氏は、スマートフォンを例にとりながら安定した接続性、端末デバイス上でのAI処理機能、バッテリー駆動時間の長さなどを列挙。現在のラップトップPCではこれに準ずる経験はできていないのではないかとした。また、ノートパソコンの通信は5GやLTEなどの携帯電話網との接続ではなくWi-Fiを介した接続が中心であり、根本的な体験が異なるとした。

 

 Snapdragon XシリーズはWindows用に設計された同種のSoCの中では、最も強力でインテリジェンスが高いものになっているとクアルコムは強調する。他社同等クラスの製品と比較して、GPUベースで2倍高速。また、CPUについても高性能を発揮できるという触れ込みだ。チップとしてはクアルコム独自のOlyon CPU、Adeno GPU、Hexagon NPUを統合したものとなっており、CPU性能はシングルスレッドの処理でCore Ultra 7より最大54%高速、ピークパフォーマンスで匹敵する性能を持ちながら65%低い電力消費。マルチスレッドの処理についても最大37%高速かつ54%低い電力消費となっている、ポイントは驚異的なバッテリー駆動時間であり、Core Ultra 7との比較でおよそ40%長くなる。

 

 さらにネットワーク接続では特にクアルコムらしい性能を発揮でき、電源に接続できない場所でのウェブ会議などに有効だとした。これはインテルだけでなくアップルのM3などarm系のSoCと比較した場合でも優位であるとする。

 

NPU搭載の意味を考える

 また、Snapdragon X Elite/PlusはNPUを内蔵することで、AIの経験をPC上で可能にできる。生成AIとともに一般でも話題に上る機会が増えたAIだが、中山氏はそのビジネス活用についても言及。「ChatGPTは最初の1年間で140回以上のアクセス、最初の2ヵ月間でのユーザー数は1億人に達した」というレポートを引用しながら、アンケート回答でも「すでに何らかの形で生成AIツールを活用したり、6ヵ月以内に使用する予定であると答える人がほとんど」であり、「導入経験者の94%が社員の生産性が向上した」と回答していると説明した。

 

 Snapdragon X EliteとPlusの大きな違いは、コア数(12コアと10コア)とGPUのFLOPS値(4.6Tと3.8T)だが、基本的なアーキテクチャーは共通となっている。Copilot+ PCの要件を満たすためには毎秒40兆回以上の操作をできるNPUを搭載する必要がある。Snapdragon X Elite/Plusでは現状ではこの仕様を満たす、唯一の製品である45TOPSの性能を持ち、他社より4.5倍高速なAI NPU処理が可能だ。

 

 加えて、エッジ(端末)においては、セキュリティとプライバシーも重要な要素だ。様々な経路でネットワークに接続する中で、遭遇する危険性は多岐にわたり、その危険性は増大している。Snapdragon X Elite/Plusでは搭載PC上で複数の保護機能を備えた最新のワークフロー管理に対応する。デバイスの性能をリアルタイムで監視しながら、離れた場所にいる従業員の利用状態を把握し、起こってからのアクションではなくプロアクティブな問題解決が可能だとする。5G/4G(LTE)の常時接続環境をサポートするため、生産性向上に加え、Wi-Fiよりも安全な接続環境での作業が担保できるとしている。マイクロソフトのセキュリティアーキテクチャを介して、チップからクラウドまでPCを保護できるとした。

 

 また、新世代のAIPCを高性能、省電力、セキュリティに加え、高いカメラ/オーディオ性能ともに提供することで新しいユーザー体験を提供できるとしている。アプリケーションの互換性についても、日々努力している高めている段階だという。ディストリビューターについても開拓を続け、ヨドバシカメラなどのパートナーと直接対話してビジネスを進めているほか、様々なパートナーと流通・検証で協力している。新規のアプリケーションについても、AI PCの開発に向けWindows向けのアプリ開発環境「Snapdragon Dev Kit for Windows」を提供。さらに、Snapdragon InsidersというSnapdraongm搭載のパートナー製品をテックファンに向けて紹介するアカウントも3月初旬にスタート。すでに海外では1200万人を数えるほどの人気だが、国内でも3ヵ月で3万人のフォロアーを獲得したという。

 

 中山氏はPC市場には、インダストリーの中で蓄積されてきた慣習やビジネスのやり方があるのは分っているとしたうえで、「今年がPC向けチップの初めての取り組みではないこと」「10年間の経験によって寄り添う方法を十分理解している」とコメントした。

 

ホワイトカラーの生産性向上を背景にAI対応PCの普及が進む

 MM総研 取締役研究部長の中村成希氏は「日本におけるAIパソコンの法人市場予測」として発表。「PC投資を増やすほど生成AIを積極的に活用するという強い結びつきがある」とコメントした。半年ごとの調査で毎回、劇的な変化がみられるという。

 

 一方、その導入には課題もある。従業員規模別で見た場合、企業規模が大きくなるほど生成AIの活用する企業の数は増えるが、これはAI人材の採用が中小企業では難しいという側面があるため。AIパソコンが普及するためには、それを打ち破る環境を作ることが必要である。普及シナリオにとって必要であるターンキーとしては、すぐ利用できる実践的なAIとAI関して専門的なデリバリー体制とシステム改修や専門活用人材がいなくても始められることだという。

 

 Copilot+ PCに象徴されるAI PCについては成長が見込める。2028年までの年平均成長率(CAGR)は120%以上で、シンプルに倍々ゲームで増えていくと予測を示した。パソコンの販売台数はOSの世代交代などの影響も大きく受ける。2025年にはWindows 10がEOS(サポート終了)となるため、ここに大きな需要増とマイグレーションの機会が訪れる。

 

 このため直近の法人PC需要は現状の706万台から1006万台と大きく増える見込みだ。ただ、こうした波とは別に、恒常的なAI需要に引っ張られ、法人向けPCの市場は700~850万台の水準でじわりじわりと安定して増えていくことが想定されている。牽引の力となるがAI PCであり、その構成比も安定的に増えていくとしている。

 

 スペック面では、推論に強いNPUだけでなく学習領域で強いGPGPUやCPUなどの性能も必要だが、NPUを搭載し、生成AIの処理が身近になることはAI普及の大きな追い風となるだろう。

 

 質疑応答では「日本の生成AIの使い方には特徴があり、ドキュメント、業務プロセス、翻訳などホワイトカラーが自分の業務のために使っている」「海外では管理職がインサイトを得たり、効率化のために使われている。推論のパワーが後者のほうが必要と言う面がある」というコメントもあった。さらに、PC上で生成AIの処理をするための小規模言語モデル(SLM)については「SLMは出始めたばかりだが、モダンなAIはほとんどがGPUとクラウドで処理を分けるような仕組みになってきているので、現在の性能がToo Muchと考えるのは早計である」などとも話していた。

 

文● ASCII