OpenAIの最新モデル「GPT-4o」にスカーレット・ヨハンソンが激怒、くすぶる倫理課題

AI要約

AI開発企業が直面する倫理面の課題として、女優スカーレット・ヨハンソンがGPT-4oの声が自分の声と似すぎていると抗議する事件が起きた。ヨハンソンの抗議はAI開発企業が人々の懸念を無視したことを示すものであり、AI技術の開発が急激に進んでいる背景もあり倫理が欠如していると指摘されている。

ヨハンソンはオファーを断ったにも関わらず、GPT-4oの声が彼女が演じたAIキャラクターに酷似していることに衝撃を受け、怒りを表明。OpenAIは声を削除し、別の声優の声を使用したと主張するも、CEOのツイートや他の声も疑問視されている。

AI開発競争が激化する中、AI開発企業の倫理面と人々の懸念を無視した行動が注目される中で、今後のAI技術の発展における倫理的問題が議論されることが予測される。

OpenAIの最新モデル「GPT-4o」にスカーレット・ヨハンソンが激怒、くすぶる倫理課題

OpenAIは2024年5月13日に新たなAI(人工知能)技術であるGPT-4oを発表したが、女優スカーレット・ヨハンソンはAIの「声」が「自分の声と似すぎている」と抗議した。その背景を読み解いていくと、AI開発企業が抱える二つの重大な課題が浮かび上がってきた。すなわち、倫理が欠け、規模の拡大を急ぎすぎている。前編では倫理面の課題を見ていく。2番目の課題は後編で取り上げる。(星暁雄=ITジャーナリスト)

5月13日に披露された新たなAI技術GPT-4o(フォー・オー)のデモンストレーションは印象的だった。GPT-4oは人の言葉を聞き取り、しゃべって応答した。人の声のニュアンス、笑い声のような非言語コミュニケーションも受け止めて口調を変え、時には笑い、歌った。AIの学習に用いるデータとコンピューターの両方の大規模化がこのようなAIを可能にした。その背後には巨額の開発投資がある。

女優スカーレッット・ヨハンソンは、このGPT-4oの声のモデルへの出演交渉を受けたが辞退していた。それにもかかわらず、発表の場で披露されたGPT-4oの声は、映画「her/世界でひとつの彼女」(2013年、スパイク・ジョーンズ監督)でヨハンソンが演じたAIアシスタント「サマンサ」にそっくりだったのである。

ヨハンソンは自分の声とGPT-4oが「不気味なほど」似ていたことに「ショックを受け、怒りを覚えた」と怒りを表明し、法的措置を検討中という。詳しくは後述するが、その背景にはハリウッドの俳優らがストライキを打って表明したAIへの重大な懸念を、AIのトップ企業が故意に無視したことが大きい。

人々の懸念の無視――これは今のAI開発企業が抱える大きな課題だ。

AI開発競争は激化しつつあるが、一方でAI開発企業の倫理が「怪しいのではないか?」と多くの人々が疑問に思い始めている。ヨハンソンの抗議により、この懸念が具体化した格好だ。

ヨハンソンはOpenAIから声の出演のオファーを受けていたが、熟考のすえ断った。だが前述のように発表会で披露されたGPT-4oの声はヨハンソンが演じた「サマンサ」を連想させるものだった。

OpenAIは問題の声をGPT-4oから削除した。また、問題の音声は別の女優の声を用いたものであり、ヨハンソンを模倣したわけではないと弁明した。もっとも、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏はGPT-4oの発表に際し、X(旧Twitter)にヨハンソンが出演した映画を連想させる言葉「her」を投稿していた。ヨハンソンへのオファーを出していた事実と合わせるとOpenAIの弁明は苦しい。

削除されずに残った他の声も、やはりヨハンソン演じる「サマンサ」を連想させるという意見もある。

ヨハンソンは声明文で次のように述べている。「公開された(GPT-4oの)デモを聴いたとき、私は衝撃を受け、怒り、そしてアルトマン氏が、私の声と不気味なほど似ていて私の親しい友人やニュース関係者が区別がつかないような声を追求することに不信感を抱いた。アルトマン氏は、私が人間と親密な関係を結ぶチャット・システム、サマンサの声を演じた映画にちなんで『her』と一言ツイートし、その類似性が意図的なものだとさえほのめかした」