立ち上がる“スタートアップ特化の健康保険” 保険料率8.98%、設立の背景は

AI要約

働き方改革におけるスタートアップ健康保険組合の重要性。

VCスタートアップ健保の特徴や目標、取り組み。

将来的な業務効率化や健康増進に向けた計画。

立ち上がる“スタートアップ特化の健康保険” 保険料率8.98%、設立の背景は

 昨今盛んに叫ばれる働き方改革。スタートアップ業界でもよく取り沙汰される話題だ。政府が進める「スタートアップ育成5か年計画」でも、スタートアップへの労働移動の円滑化を目標に、労働環境整備のためのさまざまな取り組みが検討・実施されている。そのうちの一つに挙げられたのが「スタートアップにも対応した健康保険組合の立ち上げ」だ。

 4月24日に厚生労働省からの設立認可を受け、6月1日に設立されたVCスタートアップ健康保険組合(VCスタートアップ健保)も、5カ年計画をきっかけとした健保の一つ。その名の通り、ベンチャーキャピタルとスタートアップに特化している。

 設立母体であるVCスタートアップ労働衛生推進協会の代表理事・吉澤美弥子氏によれば、現状スタートアップは既存の中小企業向け健保を利用しにくく、また健保に求めることも異なるという。

 VCスタートアップ健保の大きな特徴は保険料率で、設立時点の料率は8.98%だ。

 中小企業が通常、最初に加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)の保険料率は全国平均で約10%。関東ITソフトウェア健康保険組合(ITS健保)が9.5%、健保組合全体の平均でも約9.3%であることを考えると、かなり低い。スタートアップ業界の若い加入者が多いことがその理由だ。

 ITS健保などの健保組合は、企業の黒字経営を加入の前提としている。このため、先行投資により“赤字を掘って”急成長を目指すスタートアップのほとんどが加入できない。

 一方、そうした条件なしで加入できる協会けんぽの加入企業とスタートアップとでは、被保険者の平均年齢が10歳以上異なる。中高年の生活習慣病の予防にフォーカスする協会けんぽと比べて、スタートアップでは若い世代が対象になることに加え、メンタルヘルスの疾病が多くなりやすい多忙な環境でもあり、ニーズは大きく乖離(かいり)している。

 2023年、VCスタートアップ健保加入の意向を表明したスタートアップ約300社に実施したヒアリングによれば、同健保に期待することとして約半数が「費用削減・付加給付」といった金銭面の課題を挙げ、次いで「業務効率化」「福利厚生」にも期待が寄せられている。また、健康増進についても「スタートアップに適した内容の支援をしてほしい」といった声が挙がっているという。

 そこでVCスタートアップ健保では、健保組合と加入企業・加入者が利用できるプラットフォームを構築し、健保業務の電子化を強力に進めようとしている。また、加入企業であるスタートアップ自体のソリューションも活用して、デジタル化をよりスムーズに進める方針だ。

 若いスタートアップの加入を前提とし、保険料率も低いとなると、持続性には疑問が持たれる。VCスタートアップ健保では、電子申請の推進により業務効率化を図り、中長期的な財政健全化も目指すという。

 さらに被保険者である従業員とその家族の健康増進にも注力したいとして、データを活用し、スタートアップのニーズに合った健康増進につなげられるような「保健」事業も展開していく。

 保健事業については、3カ年で計画。初年度はまずデータを集める基盤を整え、2年目、3年目と健診受診率の向上や支援ニーズの明確化、個別支援強化や産業保健の支援を進めていくという。一方で、メンタルヘルスや女性の健康、若年層のがんや生活習慣病予防といった部分については、当初から健診への補助を手厚くする。

 吉澤氏は「“健康保険組合業界におけるスタートアップ”として新しいことにチャレンジし、他の健保組合にもインパクトを与えていきたい」と語る。