多くのヤクザ映画を手掛けた脚本家・高田宏治氏(90)インタビュー 「閉塞した邦画界を救うのは『令和版・極道の妻たち』しかない」

AI要約

高田宏治氏がヤクザ映画の数々の傑作で脚本家を務めたこと、彼の90歳の誕生日を記念して特集が組まれたこと、ヤクザ映画が動画配信の世界でなお人気がある理由について述べられている。

ヤクザ映画が受ける理由として、アウトロー映画などが日常からのストレス解消やスカッと感を提供してくれること、ヤクザが自らの法と正義を持っていることが挙げられている。

記事では、ヤクザたちの人間臭さや魅力、実在のヤクザとのエピソードを交えて、彼らが持つ命を賭けた正義のかけらや社会的背景が描かれている。

多くのヤクザ映画を手掛けた脚本家・高田宏治氏(90)インタビュー 「閉塞した邦画界を救うのは『令和版・極道の妻たち』しかない」

『まむしの兄弟』から『北陸代理戦争』、『鬼龍院花子の生涯』、そして『極道の妻たち』まで、数多の傑作ヤクザ映画で脚本家を務めた高田宏治氏(90)。4月には東映チャンネル(衛星放送)で生誕90周年記念の『名脚本家 高田宏治特集』が組まれた。ヤクザ映画の生ける伝説が、令和の邦画界に喝を入れる。

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 昭和が終わり、平成を経て、令和の時代になって、ヤクザ映画はもう古いと思っている人も多いやろうけど、動画配信の世界ではいまでもけっこうな人気なんや。その原因ははっきりしている。映画を観てスカッとした気分で日常の暮らしに戻る、そんなドラマはヤクザなどのアウトロー映画しかないからだ。『オッペンハイマー』を観てガッカリした人たちがヤクザ映画を観て、深夜にひそかに留飲を下げるんや。

 ヤクザ映画がドラマとして受けるのは、ヤクザが自分たちだけの法と正義を持っているからだ。一般社会で、もし自分の愛する家族や友人が殺されたら、私たち一般市民は法律で裁いてもらうしかない。けれど、法も裁判官も人の心で裁かない。殺人が一人なら死刑にならへん。殺人も数で値段が決まるのか。犯罪はスーパーの魚の切り身と違うで。そんなときヤクザは命を賭けて自分たちの法で裁く。だから大衆は無法者、アウトローのヤクザに憧れてきたんです。

 反社といわれるヤクザは、貧困や差別、若いころに犯した過ちなどで社会からつま弾きにされ、社会の底辺で辛酸を舐め、波乱に満ちた人生を送ってきた。そやから、取材で実際に会うと、じつに魅力的な人が多かった。

『北陸代理戦争』(1977年、主演・松方弘樹)は、実在する川内組の川内弘組長をモデルにした。この人はとびきりの洒落者で、マキシのコートの胸元にエメラルドのブローチをきらめかせ、ベンツを十台連ねて、加賀温泉駅に私を迎えに来た。川内さんは隠すことなく色んな話を聞かせてくれた。なかでも、抗争相手に決死の覚悟で殴り込みに行き、たまたま相手がいなかった時に、心の底からホッとした、と言う川内さんの一言が心に染みた。死を日常とするヤクザの素顔を見た気がした。

 けれど、映画が封切られたあと、川内さんは私が取材した喫茶店のソファで、私が脚本に書いたシチュエーション通りに抗争相手のヤクザに射殺されたんや。私が川内さんを格好良く描き過ぎたせいや。いまでもこのことを思い出すと、震えが止まらない。