「バンド自体がちょっとダサいものに…」引け目から卑屈発言をした夜を経て、7年ぶりのアルバムリリースで感じたこと

AI要約

トリプルファイヤーの新アルバムリリースを記念して、吉田靖直が業界飲み会での失敗を反省するエピソードを振り返る。

自身の卑下的な発言を振り返し、バンドの長いブランクや他の才能ある人への引け目を感じる心境を吐露。

若手芸人との飲み会で言葉を選ばずにバンドを卑下し、その後の心の葛藤と自己否定について綴る。

「バンド自体がちょっとダサいものに…」引け目から卑屈発言をした夜を経て、7年ぶりのアルバムリリースで感じたこと

『FIRE』から7年ぶりとなる5thアルバム『EXTRA』を2024年7月31日にリリースした4人組のバンド「トリプルファイヤー」。そのフロントマンであり、作詞とボーカルを務め、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)やテレビドラマへの出演、エッセイや脚本の執筆など、音楽活動に留まらず幅広い分野で活躍中の吉田靖直。

アルバムリリースを記念して、彼のQJWebでの連載が特別に復活! 若干業界っぽい飲み会で言ってしまったバンド全体を卑下する発言を反芻しつつ、『EXTRA』リリースを経てたどり着いた「今なら、どんな飲み会に参加したとしても、あのときのような卑屈な発言はけっして口にしないだろう」という心境を綴る。

いつだったか、放送関係の知人に呼ばれ、初対面の若手芸人さん数人も交えての若干業界っぽい飲み会に参加する機会があった。宴もたけなわになったころ、芸人さんのひとりが「Aさんもこっから合流できるって!」と言い出した。Aさんの名前はよく知っていた。自分より10かそこら年下で、若くして成功している有名な芸人さんだ。有名人に会えるミーハーなうれしさもありつつ、会ったところでAさんと何が話せるのだろうという危惧があった。

個室の居酒屋に移動してしばらく待っていると、Aさんがやってきた。成功に裏打ちされた自信にあふれ、何事にも物怖じしなさそうなキラキラとした人だった。単に私がビビっていたからそう感じただけかもしれない。

芸人関係のゴシップ話がしばらく盛り上がっていた。会話に入る糸口をつかめずにいる門外漢の私に、Aさんは気を遣ったのか、「私のまわりにもトリプルファイヤー好きな芸人いますよ」と急に話を振ってくれた。そして「トリプルファイヤーはいつからやってるんですか?」と尋ねてくれたのだ。

私は「大学のバンドサークルからですね」と返しつつ、せっかく自分に話を振ってくれたのだから、もう少し何かを言わなければならないと思った。

「でも僕らの時代ならバンドサークル入ってたような人が、今だったらお笑いサークルに入ってるパターン多いと思いますよ。お笑いサークル出身の芸人さん最近売れてますもん。その影響でかいと思います」

Aさんが大学のお笑いサークル出身だと知っていた私は、つい媚びるようなことを言ってしまった。「え~、そうですかねえ」と反応に困っているAさんを見て、ヤバい、と焦った私はさらに言葉を重ねた。

「てかバンド自体が最近はちょっとダサいものになりつつあるじゃないですか。アメリカのチャートでもヒップホップとかばっかですからね。今の才能ある若い人が音楽やるんだったら、トラックメイカーとかのほうに行くんじゃないですかね。バンドって手間もかかるし、ライブやるにしても効率悪いですし……」

ネットで聞きかじったような薄い情報を口から吐きながら、場の空気が白けていくのを感じていた。愛想笑いをしながら聞いてくれていたAさんだが、心の中では「バンドがダサいんじゃなくてお前がダサいだけだろ」と思っている気がした。私が話し終えると、話題はすぐほかへ移っていった。

そのあとの飲み会のことはあまり覚えていない。いつの間にか全員分の会計を済ませ、タクシーを呼び止め颯爽と去っていくAさんを「ごちそうさまでした!」と体を折り曲げて見送りながら、自分の発言をずっと反芻していた。

話に入るためだけに芸人に媚びを売り、自分だけでなくロックバンド全体をも卑下してしまった。俺はなんてダサいんだろう。

他人から見て現在の自分たちはあまり好調に見えないだろう、という引け目があった。バンドの作品も長い間出せていなかった。その間にも才能がある人は絶えず現れた。旬を過ぎたバンドだとツッコまれることを恐れ、バンド全体を下げることで自分の力不足を隠蔽しようとする卑怯な意図がどこかにあったように思う。