言葉が見つからないことを肯定したい――映画『きみの色』山田尚子監督×牛尾憲輔が語る創作への思い

AI要約

アニメーション映画『きみの色』が8月30日に公開された。『きみの色』は、高校生のトツ子が同級生のきみと音楽好きなルイとバンドを結成する青春ストーリー。感情豊かな色彩感で描かれる。

音楽は牛尾憲輔が担当し、劇伴と劇中バンド「しろねこ堂」の曲の作曲を手がける。山田監督と牛尾氏は制作初期から共有した深いコンセプトで制作を進めた。

山田監督はライブシーンの描写を楽しみにしていた。牛尾氏は挑戦したくなったが、バンド曲を書くことになって最初は不安だった。しかし、劇中歌の曲は「水金地火木~」から着想を得て作曲した。

言葉が見つからないことを肯定したい――映画『きみの色』山田尚子監督×牛尾憲輔が語る創作への思い

アニメーション映画『きみの色』が8月30日に公開された。

『きみの色』は、『映画 聲の形』や「けいおん!」、「平家物語」などを手掛けた山田尚子監督による新作オリジナル長編アニメーション最新作。人が「色」で見える高校生のトツ子が、同じ学校に通う少女・きみ、古書店で出会った音楽好きの少年・ルイとバンドを組むという「音楽×青春」のストーリーが描かれる。

思春期の葛藤や、淡い思慕、何かを好きになるときの気持ちなど、さまざまな情感を美しい色彩感で描く本作。音楽は牛尾憲輔が手掛けている。牛尾は山田監督が手がけた『映画 聲の形』『リズと青い鳥』「平家物語」の劇伴も担当しており、本作で4回目のタッグとなる。

これまでの作品でも、山田監督と牛尾は制作の初期段階から深く抽象的なコンセプトを共有していたという。今作では牛尾は劇伴に加え、主人公3人が結成した劇中バンド「しろねこ堂」による劇中歌の作曲も担当している。

今作の制作はどのように進められていったのか。山田尚子監督と牛尾憲輔へのインタビュー取材が実現。話は「簡単に言葉にはできない思い」をどう掘り進め、どう表現に昇華するかという創作論へと踏み込んでいった。

―『きみの色』を拝見した感想として、言葉にしづらい感情や、簡単にわかったつもりになれない情感や、そういうものが表現されている作品だと思いました。たくさんの人に深く響くように思います。

山田尚子(以下、山田):ありがとうございます。

―まず、今回の作品のモチーフとして高校生のバンドという題材を選んだ理由はどういうところにあったんでしょうか?

山田:ライブシーンを描きたいな、と思ったのがきっかけです。オリジナルなので、本当に作品のためにできた純度の高いバンド曲を生み出せる。その辺は自由にできる。そういうところは楽しみに思っていました。

―今回も牛尾さんに音楽をお願いするというのは、最初から決まっていたんでしょうか?

山田:劇伴の音楽を牛尾さんに担当していただくというのは最初の企画段階から決まっていました。バンドをやるということのほうがあとから決まったくらいの感じかもしれないです。

牛尾憲輔(以下、牛尾):ただ、僕が普段つくっているのはバンド曲とかポップスじゃないので、誰も僕がバンドの曲を書けると思っていなくて。僕自身もそうだったし、山田さんは優しいから「他の方に振ってもいいですよ」って言ってくれていたんですけれど。でも、声をかけてもらった手前、挑戦したい気持ちはあって。最初の段階で「水金地火木~」って山田さんが言っていて、「水金地火木土天アーメン」という言葉一つだけで、曲ができた。これはちゃんとかたちにしたいなって気持ちがあって、頑張りました。

―挿入歌の作曲も牛尾さんにお願いするというのは、最初から決まっていたわけではなかった?

山田:普段歌ものの曲を作られていないので、断られるかなと思っていたんです。

牛尾:すごく気を遣っていただいて。そもそも、あんまり歌のある曲を書かないし、自分でもバンドでポップに響くものを書けると思ってないので、僕が一番不安でしたけど。でも「水金地火木~」が思い浮かんじゃったので。であれば、ちゃんと自身の手でやりたいなって思ったのを覚えてますね。