いしわたり淳治が感じた、UFOから始まる『恋する惑星「アナタ」』の確かな筆致

AI要約

冨岡愛の歌詞解説の魅力に迫る。彼女の作詞センスや楽曲について紹介。

例えを使った作詞の重要性と新しいアプローチについて考察。

冨岡愛の今後の活動に期待が高まる。彼女の独自の視点が楽曲にどう影響しているか。

いしわたり淳治が感じた、UFOから始まる『恋する惑星「アナタ」』の確かな筆致

音楽バラエティー番組『EIGHT-JAM』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の5本。

 1 “帰り道にUFOを見かけた気がした”(冨岡愛『恋する惑星「アナタ」』作詞:冨岡愛)

 2 “おじさんとはおじさんって呼ばれても何も感じない人” (かもめんたる 岩崎う大)

 3 “練習はしたことないな”(イングウェイ・マルムスティーン)

 4 “12788”

 5 “ムカつくじゃん。でもそれ、エネルギーだからね”(AI松田優作)

 

日々の雑感をつづった末尾のコラムも楽しんでほしい。

冨岡愛さんが今年リリースした『恋する惑星「アナタ」』、『アイワナ』、『ジェラシー』がどれも良い曲で、どんなアーティストなのか気になった。インタビューによると、中学生までは海外で暮らしていて、音楽的にはテイラー・スウィフトの影響を受けているのだそう。なるほど。それでも彼女の歌は、英語を封印して日本語だけで作られたものがほとんどで、それでいて前述のようにメロディーやサウンドには洋楽の要素が多分にちりばめられているから、そのバランスが耳新しさを生んでいる感じがする。そして、テイラー・スウィフトは、言うまでもなくすごくいい歌詞を書くアーティストである。彼女はその影響もきっと受けているのだろうと思う。

作詞において、「恋」や「愛」を何に例えるか、というのは永遠のテーマみたいなところがある。中島みゆきさんは「糸」に例えて名曲を作り出したし、優里さんは「ドライフラワー」に例えてメガヒットを記録したのが記憶に新しい。もう、これだけ曲が作られてきたのだから、うまい例えなど出尽くしてしまったのではないかという気もしてくるが、実際はそうではない。今日もどこかで新しい例えは生まれ続けているのである。

冨岡愛さんは、「帰り道にUFOを見かけた気がした」という言葉から歌い始める。唐突な始まりのように聞こえるけれど、曲を聴いていくとこれがただの思いつきではないことはすぐに分かる。そのUFOの「銀色の輝き」は「母の指輪」のようだった、「幻のように消えて」いく感じはアナタとよく似ていた、と歌い、サビでは、私はまるで「恋する惑星『アナタ』に連れて行かれたみたい」な状態で、「フワフワ浮いている」、と歌うのである。独特な視点の比喩が違和感なく流れるように続いていくところにセンスを感じる。

初めは少し突飛(とっぴ)にも感じた1行目の「UFO」も、気づけば彼女の確かな筆致によって、きれいに伏線回収されていて素敵だ。これからどんな曲を作り続けていくのか、これからの彼女が楽しみである。