桑田佳祐も立川談志さんも“芸を盗んだ”三大話芸『浪曲』の魅力を語る浪曲師の“浪花節”半生

AI要約

浪曲師の澤雪絵は、伝統的な浪曲の衰退に抗いながら活動を続けている。

浪曲はかつては日本三大話芸の1つであり、大勢の聴衆を魅了していたが、現在は88人ほどの浪曲師しか残っていない。

人気ミュージシャンの桑田佳祐も自身の曲に浪曲の要素を取り入れており、浪曲は現代音楽にも影響を与えている。

桑田佳祐も立川談志さんも“芸を盗んだ”三大話芸『浪曲』の魅力を語る浪曲師の“浪花節”半生

「浪曲の灯を絶やさないでほしい。師匠が亡くなる前に言い残したその言葉を胸に、活動を続けてきました」

 そう話すのは、浪曲師の澤雪絵(さわ・ゆきえ)。

 曲師(きょくし)が奏でる三味線の音色に乗せて、独自のメロディーで歌うように語る“節(ふし)”と、物語の登場人物のセリフを話す“啖呵(たんか)”で構成される浪曲。落語、講談と並ぶ“日本三大話芸”の1つで、最盛期には約3000人もの浪曲師がいたとされる。しかし、

「今は東西の浪曲師を合わせても88人ほどでしょうか。昔は興行を打つと会場に入りきらない人が浪曲を聞きに訪れ、1回の口演で家が建つぐらい儲かったそうです」(澤、以下同)

 かつての賑わいは消え、伝統芸能として風前の灯火に……。そんな浪曲だが、実は、あの人気ミュージシャンも自身の曲に浪曲を取り入れているという。

「サザンオールスターズの桑田佳祐さんが作る曲にも、浪花節が組み込まれているんです。私の師匠は朝ドラをよく見ていたのですが、2017年の朝ドラ『ひよっこ』の主題歌が桑田さんのソロ曲『若い広場』でした。それを聞いた師匠は“この人の歌にはいい節がついてるね。あなたも聞いてごらんなさい”と話していました。みなさんも何気なく浪曲に触れているんですよ。私は、もともとは浪曲師だった三波春夫さんをきっかけに、浪曲の世界に入ることになりました」

 話は、2006年にまで遡る。

「娘が3歳のころ、たまたま携帯の着メロとしてダウンロードした三波春夫さんの代表曲『世界の国からこんにちは』を自宅で流したんです。すると、それを聞いた娘が、あっという間に歌詞を覚えてしまったことがありました。そこで三波さんの経歴を調べると、もともとは浪曲師だったことを知り、浪曲ってどんなものだろう? と興味を持ったのです。そこで、東京の浅草にある演芸場『木馬亭(もくばてい)』に浪曲を聞きに行くことにしました」

 そこで初めて聞いた浪曲に衝撃を受けたという。

「全身に鳥肌が立ちました。ストーリーの中に引き込まれてしまって、まるで1本の映画を見たような感覚でした。それまでは邦楽をほとんど聞かなかったので、日本にこんなにすごいものがあるんだ、と。当時、すでに衰退の一途でしたから“こんな素晴らしい芸をなくしてはいけない”という勝手な使命感から、出演した方の中でも特にすごいと思った澤孝子師匠を出待ちして、弟子入りをお願いすることに決めたんです」