池上彰が映画で世界を解説!『サウンド・オブ・フリーダム』──アメリカで深刻な社会問題となっている児童人身売買の実態

AI要約

アメリカで深刻な児童誘拐と売春が問題となっている実話をもとに描いた映画。

主人公が自身の職を捨て、単身で児童売春犯罪組織を追う過激な行動を描く。

映画は社会の闇を浮き彫りにし、子どもたちに「自由」を取り戻す試みが描かれる。

池上彰が映画で世界を解説!『サウンド・オブ・フリーダム』──アメリカで深刻な社会問題となっている児童人身売買の実態

描かれた時代背景や、舞台となる場所の特性、映画に込められたテーマや視点など、知っていると面白さも知識も倍増する、ジャーナリスト池上彰さんならではの映画の見方で映画をご紹介いただきます。(ぴあアプリ「池上彰の 映画で世界がわかる!」より転載)

日本にいると、なかなか事態は見えませんが、世界とりわけアメリカでは児童が誘拐されて売春をさせられるという犯罪が大きな社会問題になっています。年間少なくとも200万人が誘拐されているというのです。

「ドラッグは1回売ればおしまいだが、児童なら一日に5回でも6回でも売れる」というのです。アメリカでの麻薬犯罪は日本でも報道されますが、児童を使った売春が深刻な問題になっています。闇の世界の取引高は1500億ドルにも上ります。日本円で21兆2000億円です。驚くしかありません。

誘拐されるのは少女ばかりではありません。男児も性的虐待の犠牲になっているというのです。この犯罪に取り組んだアメリカ国土安全保障省のティム・バラードの奮闘を、実話をもとに描きました。

歌が上手な女の子が、「オーディションを受ければ芸能界デビューできる」との甘言に乗って父親と一緒にオーディション会場に赴くのですが、父親は会場入りを拒まれ、「夕方引き取りにいらっしゃい」と言われます。父親が夕方に迎えに行くと、会場は跡形もありません。オーディションの名のもとに集められた児童たちは、まとめて誘拐されていたのです。

児童たちは船で密輸出され、南米コロンビアに送られます。ここに児童密売組織があり、世界各地に売りさばいているのです。犯罪組織に売られていった少女たちは売春をさせられます。男児も、「男児を好む」という異常性愛者に売られるのです。

ティムはメキシコからアメリカに入国する自動車の中にいた男児を救い出したことで、やはり行方不明になっている姉を捜索することになります。その結果、上司の特別の許可を得て、単身コロンビアに潜入します。

しかし、国土安全保障省も結局はお役所。「成果が上がらなければ捜査を打ち切って帰国しろ」と命じられます。しかし、子どもたちや子どもたちを誘拐された親の気持ちを知ると、捜査を打ち切ることができません。彼は国土安全保障省を退職し、単独で捜査を続けます。

単独の捜査をどう進めるか。いわくつきの前科者や捜査資金の提供を申し出た資産家、地元の警察の協力を得て、おとり捜査を仕掛けます。密売組織のボスに「多数の児童を買い取りたい」と申し出て、多数の児童を集めて救出しようとするのです。

ところがコロンビアでは、物事は簡単には進みません。コロンビアには反政府武装組織がいて、ここに連れ去られていた少女を救出しなければなりません。それは果たして可能なのか。

中南米では子どもたちは「神の子」と呼ばれます。前途ある子どもたちをどうやって救出するのか。映画の題名は「自由の音」です。子どもたちに「自由」という音を聞かせることができるのか。

この映画は、社会の闇をえぐり出し、全米公開初日興行収入第1位を記録しました。アメリカでは、子どもをひとりで留守番をさせたり、自動車にひとりで子どもを乗せたりしておくと、親の責任が問われますが、その理由が、この映画を観るとわかります。

『サウンド・オブ・フリーダム』

9月27日(金)公開

■池上 彰(いけがみ・あきら) プロフィール

1950年長野県生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。記者やキャスターをへて、2005年に退職。以後、フリーランスのジャーナリストとして各種メディアで活躍するほか、東京工業大学などの大学教授を歴任。著書は『伝える力』『世界を変えた10冊の本』など多数。