メキシコの新たな才能、リラ・アビレス監督「私は映画監督になり、初めてジェンダーに関係なく作品で評価されるようになった」

AI要約

7歳の少女・ソルは父の病気で療養中の誕生日パーティーに参加する。大人たちの準備に戸惑いながらも、孤独な時間を過ごすソルがスマホと会話をする。

監督のリラ・アビレスは家族や人間関係に焦点を当て、幼少期の感情や環境の影響を描きたいと説明。女性たちの家族愛や力強さが描かれる。

監督は自らの経験から、女性がキャリアを築く難しさや映画制作で自由を得る喜びを語る。ジェンダーに関係なく評価されることの重要性を強調。

メキシコの新たな才能、リラ・アビレス監督「私は映画監督になり、初めてジェンダーに関係なく作品で評価されるようになった」

 7歳の少女・ソル(ナイマ・センティエス)は父の実家にやってきた。病気で療養中の父の誕生日パーティーが開かれるのだ。大人たちが慌ただしく準備をするなか、ソルはなかなか父に会わせてもらえない。そしてソルは一人スマホに話しかける──。世界各国の映画祭で30以上の賞を受賞した「夏の終わりに願うこと」は、少女が“別れ”を知るまでの物語。脚本も手がけたリラ・アビレス監督に本作の見どころを聞いた。

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 私は「家」というものに興味があり、その中で起こる人間関係を少女の視点から見た物語を書きたいと考えました。世界が混沌としているいま、幼少時に自分が何を考え、感じていたかを思い出すことが非常に大事だと思ったからです。人とのつながりや動物や自然との交わりについて、7歳でも自分のまなざしで世界を創造しようとする少女を自分の経験も踏まえて描こうと思いました。また私には18歳の娘がいて、彼女が幼いころに元夫が亡くなっています。そのままではありませんが、その経験も少しの要素になっています。

 ソルは病床にある父の誕生日パーティーのために叔母たちが慌ただしく準備をする様子をじっと見つめます。ある叔母は台所で髪を染め、ある叔母はケーキを作る。家族の誰かが死に近づいていたり、悲しみが襲っていたりする最中に複数の人間が同じ空間にいるのは難しいことです。言い合いや騒ぎが起きます。でもそういうときでも女性はいつも「なんとかしよう」とする。それが髪を染めたり、ケーキを作ったりという行動に表れるのです。どこの国の方々にも共感してもらえるのではと思います。

 私は12歳からCMに出るなどして家計を助けるために働き、出産後は劇場や映画館でメイクや美術スタッフとして働いてきました。メキシコは男社会で女性が子育てや家事を担い、ときには働かない男性のためにお金も稼がないといけません。メキシコの男性はイタリアと同じく自分の母親は大事にしますが妻は大事にしなかったりするんです(苦笑)。そのなかで女性がキャリアを築くことは簡単とはいえません。私は映画監督になり、初めてジェンダーに関係なく作品で評価されるようになりました。映画のおかげで自由になることができたと感じています。

(取材/文・中村千晶)

※AERA 2024年8月12日-19日合併号