YOASOBIが歌うNHKパリ五輪テーマ曲に「薄すぎる」の声。批判が的外れである理由

AI要約

過去のオリンピックテーマソングとは異なるアプローチである「舞台に立って」の評判について

曲の軽やかさや内省的な歌詞が特徴的であり、スポーツテーマソングとして新しいものである

作者の意図や言葉の選び方が、様々な場面で共感を呼ぶ普遍的なメッセージを持つ

YOASOBIが歌うNHKパリ五輪テーマ曲に「薄すぎる」の声。批判が的外れである理由

 連日の熱戦にわくパリ五輪ですが、YOASOBIが歌うNHKのテーマソング「舞台に立って」の評判がいまいちです。“歌詞に余白がなく言葉が流れてしまう”とか、“ヒリヒリとした戦いの場の音楽として薄すぎる”との批判的な意見が多く聞かれます。

 過去のオリンピックでは、2004年アテネ大会の体操の着地シーンで流れる「栄光の架橋」(ゆず)や、2008年北京大会の「GIFT」(Mr.Children)などの、メッセージ性の強い壮大な曲が強い印象を残してきました。そうでないケースでは、1996年アトランタ大会の「熱くなれ」(大黒摩季)のように、ほとばしる汗をそのまま音楽にしたような曲があります。

 いずれにせよ、これまでのオリンピックテーマソングは、スポーツノンフィクション的な感動か、スピード感やエネルギーを伝えるのが主なアプローチでした。

 でも今回の「舞台に立って」は明らかに異なります。

 まず、とても軽い曲だと感じました。とはいえ、決して悪い意味ではなく、オリンピックだからといって気合が入りすぎていないのですね。盛り上げよう、泣かせようという仕掛けがない。スポーツに対する姿勢がカジュアルだと感じました。

 ただ、それだけではない要素もある。歌詞がとても内省的なのです。

<不条理を前に立ち尽くすこともあった 他人は好き勝手ばっかり言うし 

 もう何のために戦ってんだろ って分かんなくなって> 

 これは音楽で選手を応援したいとか、スポーツのダイナミックさを演出したいといった意図とは明らかに異なります。昨今問題になっているアスリートのメンタルヘルスに切り込んだ批評的なフレーズだからです。

 この一点だけでも、「舞台に立って」は完全に新しいスポーツのテーマソングだと言えるのです。

 同時に、作者のAyaseはこの曲をスポーツだけに限定せず、聞く人それぞれの暮らしの中での戦いに置き換えられる言葉を選んでいます。

<勝ち負けがはっきりある世界は 好きだけじゃ生き残れない

 いつも結果と成果 遊びじゃない そんなこと分かってる>

 キャリア実現の夢、ビジネス、受験、部活。様々なシーンで共感を呼ぶコンセプトです。見方によっては、あまりにもわかりやすすぎるので、作詞に工夫がないと感じるかもしれません。

 けれども、ここでのAyaseは一目で目的と意図が伝わる言葉を組み合わせることを徹底しています。老若男女が注目するオリンピックでは、YOASOBIならではの作家性よりも優先すべき事柄がある。「舞台に立って」のわかりやすさは、制約の中で制作するプロの我慢のことなのです。

“面白い詞を書くAyase”を押し出そうと欲張るのではなく、曲の後ろで黒子に徹する。その姿勢が、誰にでも当てはまる“舞台”を作る言葉を生んでいるのです。