【漫画家に聞く】結婚してしまう親友と、もう一度制服を着て海へ……切なくも美しいラストを迎えるSNS漫画を読む

AI要約

沙夜は切なくも美しい想いを抱える親友・朝海に告白する決意をする。

朝海との思い出の場所である浜辺を舞台に、2人が再び出会うストーリーが描かれる。

ラストは感動的であり、2人の絆を新たな展開に繋ぐ美しい結末となっている。

【漫画家に聞く】結婚してしまう親友と、もう一度制服を着て海へ……切なくも美しいラストを迎えるSNS漫画を読む

 結婚を機に生まれ育った島を離れることになった親友・朝海のことを長年想っている沙夜。いよいよ気軽に会うことが難しくなるため、沙夜は自分の想いを伝えようと心に決める。そして、朝海に中学時代の制服を2人で着て、朝の浜辺を見に行くことを提案する――。

 6月下旬にXに投稿された『結婚してしまう親友にあの日言えなかった気持ちを伝えに行く話』は切ない物語だが、ラストの仕掛けが美しく、前向きな読後感を味わえるGL作品だ。本作を手掛けたのは、現在、商業媒体での連載作品を準備している最中だという雪宮ありささん(@yukimiya_7sb)。このもどかしくも美しい作品がどのように生まれたのか、話を聞いた。(望月悠木)

■「今まで描いた漫画の中でも特にお気に入りのラスト」

――今回『結婚してしまう親友にあの日言えなかった気持ちを伝えに行く話』を制作した経緯を教えてください。

雪宮:実はこの作品は2017年に描いたものです。当時は商業デビューはしていたのですが、読み切りのネームや連載企画が数年通らず燻っていた時期でした。そんな折、友達から「コミティアで百合漫画アンソロジーを描こう」と誘われて描いた作品です。

――なぜ“結婚してしまう親友”をメインにしたのですか?

雪宮:その時は百合作品を描いたことがなく、“自分が思う女性同士の恋愛”を想像したところ、「親友で1番大事に想っているけど恋人にはなれない」「愛しているけど1番特別な人にはなれない」といったもどかしさや切なさを描きたくて描きました。また、「幼馴染」「海」「セーラー服」という私が好きなものを全部詰め込もうと思って生まれた作品でもあります。

――2人が朝の浜辺を歩くシーンが印象的でした。浜辺のシーンは夕方に描かれることが多いですが、朝の海を選んだ理由は?

雪宮:沙夜が朝海に今まで言えなかった本当の気持ちを打ち明けて朝海を送り出すことは、彼女たちの関係性の終わりではありません。新しいスタートであり、ポジティブなイメージが強いため、「朝焼けの海のほうが合っている」と思って選びました。

――ちなみに、夕方と朝の海の描き分けは難しいように思います。

雪宮:当時はまだ画力が拙かく、ちゃんと夕日の海と朝やけの海を描き分けられていないと思います…。ただ、過去に朝海と裕太が遊んでいた夕方の浜辺と、現在の朝海と沙夜が歩いてる朝の浜辺がリンクするように描かれています。特別に描き分けしないことにより、過去と現在のシーンが繋がるように見え、良い雰囲気になったのではないかなとも思っています。

――「朝海が制服を着たことによって距離を感じる」という沙夜の心理状況が素敵でした。

雪宮:私自身、小学校を一緒に過ごした友達やクラスメイトが、中学生に上がって制服を着るようになった途端、急に違う人間になったように感じたことがあります。思春期ということもあったと思いますが、急な変化についていけずに寂しい気持ちになりました。「そういう経験からこの漫画のエピソードが出来上がってきたのかな」と感じます。

――「一番の親友だよ」というのが、残酷かつ優しさを感じるセリフでした。

雪宮:実は最初のネームでは沙夜は朝海にキスして「バイバイ」と言ってその場から逃げ、そのまま2人は会わずに数年が経ち、裕太と離婚した朝海が島に帰ってきて沙夜と再会を果たして2人は最後に結ばれる、というエピソードにしていました。ただ、「それではあまりに沙夜にとって都合のいい展開だな」「朝海と裕太の間にある愛情や絆も深く、それを主人公に都合よく壊されていいものではない」と感じました。そこで、「朝海は沙夜の恋愛感情には応えられないけど、それでも沙夜が朝海にとって大切な人であることは確かなんだよ」という2人の深い絆を表したかった結果、このセリフを選びました。

――制服がバトンとなり、再び沙夜と朝海のストーリーが始まるラストも斬新でしたね。

雪宮:先述した通り、“沙夜は朝海は振られて朝海を送り出す”というクライマックスに描き直そうと決心した際、「それじゃあラストはどうしようか?」と思ってネームを描き直しました。そこで、気が付いたら自然と未来に繋がるエンディングになってました。恐らく「ここで2人の関係性を終わりにしたくない」という思いがあったからだと思います。

――2人のストーリーを娘に託すことにしたと。

雪宮:はい。手前味噌ですが“2人の娘が同じ制服を着て同じ砂浜で出会って新しい絆が結ばれていく”というラストは、「とても爽やかで美しいラストだな」と思い、すごく気に入ってます。漫画の終わり方はすごく難しいのですが、今まで描いてきた漫画の中でも特にお気に入りのラストです。

――今後の漫画制作をどのように展開していく予定ですか?

雪宮:漫画は長く描き続けて行きたいので、「あまり自分を追い込みすぎずにマイペースにやっていけたら」と思っています。SNSを見て「周りの作家さんはこんなに活躍しているのに自分は何をしているのか」と落ち込むこともありました。ただ、人によってキャパシティや勢いに乗れるタイミングも違うため、自分のペースを大事にして壊れないように楽しみながら長く漫画を描き続けていきたいです。

――ちなみに挑戦したジャンルの作品などはありますか?

雪宮:最近の自分の作品を見返していると、どうしてもベースが同じような物語が多いため、今後はもっと描いたことないジャンルの漫画にいろいろ挑戦していきたいです。グルメ漫画や旅漫画など読んでいるだけで癒される漫画、ずっと京都に住んでいるので地元を舞台にした漫画を描きたいです!また、実家が京都の嵐山の近くなので、いつかは嵐電(京福電気鉄道)に自分の漫画のキャラクターがラッピングされるのが一番大きな野望です。