「人間は煩悩に苦しむんですよ。だから面白い」 藤竜也「大いなる不在」 認知症の元教授を「スッと理解した」

AI要約

藤竜也が演じる元大学教授が認知症に苦しみながらも人間の本性を描く『大いなる不在』。役作りについて語る藤は、役にリアリティを持たせるために入念な準備をしなかったことを明かす。

物語は認知症を患った元教授とその息子の関係、かつての恋人との過去を掘り下げながら展開する。陽二の理知的な性格や独特な言動が物語に独自のリアリティを与える。

藤はスペイン映画祭で賞を受賞し、監督との信頼関係について語る。近浦啓監督との3作目である本作について、インディペンデントな取り組みや撮影現場におけるやり方に敬意を表す。

「人間は煩悩に苦しむんですよ。だから面白い」 藤竜也「大いなる不在」 認知症の元教授を「スッと理解した」

「大いなる不在」で藤竜也が演じているのは、認知症ですべてを忘れ変貌していく元大学教授だ。といっても、そこに現れるのは人間性を失う認知症の悲劇より、忘却してもなお残る人間の本性だ。「人間はね、みんな煩悩に苦しむんですよ」。さらりと言うのである。

脚本を読んで「スッと理解した」と振り返る。「年齢的に陽二と近いし、身につまされるっていいますか、非常に分かりやすくつかまえられた」。演じる人物の履歴書を作るなど入念な準備をすることもあるが、今回は「特に何もしなかったです。プロファイリングも、役をつかむためにやるわけだから」。「サクラサク」(2014年)でも認知症の男性を演じ、この時調べたことが今回も役立ったという。

俳優の卓(森山未來)が連絡を受け、疎遠だった父の陽二を訪ねる。元大学教授の陽二は、30年前に家族を捨てて直美(原日出子)と暮らしていたはずだった。しかし陽二は認知症を発症、直美は姿を消している。物語は時制を行き来しながら、陽二と卓の関係や、直美との間に起きた出来事を解き明かしていく。

物理学者の陽二は理知的で論理的。病気になる前は理詰めで相手をやり込める性格だった。認知症で妄想を抱くようになるが、卓に語る内容には一応筋が通っている。紳士然としながら支離滅裂な話を続ける陽二を、自然に演じている。「ありえないような話を非常にロジカルに、とうとうとしゃべる。その時は、彼の中ではすごくリアルなんです。でも次の日には、全然違うことをまた理路整然と話す。そこは面白かったですね」

スペイン・サンセバスチャン国際映画祭で上映されて喝采を浴び、自身は最優秀賞俳優賞を受賞した。「好意的な笑顔と拍手で、圧倒されました。文化や人種の壁があって、他の国の精神構造の背景は分かりにくい。ただ完成した作品を見た時に、うまく説明できない不思議な揺すられ方をした。 外国の観客も似たようなことを感じたんじゃないかな。文化を超えて伝わったんだと思いましたね」

出演作品を選ぶには、監督への信頼感が大事なポイントとなる。近浦啓監督とは3本目の作品だ。デビュー前の短編から、劇場映画デビュー作の「コンプリシテシィ/優しい共犯」(20年)に続いて主演。「インディペンデントで製作して、すべて自分で整えて撮影に入る。映画との取り組み方も尊敬できる、圧倒的にすごいと思います」。といっても撮影現場では、細かな打ち合わせなどはしないという。