広島弁で激しい姉妹喧嘩が展開! iaku『流れんな』横山拓也×異儀田夏葉×宮地綾

AI要約

横山拓也による演劇ユニット「iaku」の2013年初演の『流れんな』が広島を舞台にして再演される。

物語は、港町にある食堂「とまりぎ」を舞台に、家族や地元の人々の葛藤と絆が描かれる。

作・演出の横山、睦美役の異儀田夏葉、皐月役の宮地綾が作品への思いや役作りの難しさを語っている。

広島弁で激しい姉妹喧嘩が展開! iaku『流れんな』横山拓也×異儀田夏葉×宮地綾

横山拓也による演劇ユニット「iaku」の2013年初演の『流れんな』が再演される。関西を拠点に活動し、関西弁での芝居を重視してきたiakuだが今回の再演にあたり、物語の舞台を広島に移し、セリフも広島弁に改稿された。

物語の舞台は貝が名産の港町にある食堂「とまりぎ」。調理を一手に引き受けてきた父親の入院や貝毒の発生によって休業を余儀なくされている中で、今後の話し合いのために長女の睦美、次女の皐月とその夫の翔、睦美の幼馴染で漁師の司、街のPR企画のために「とまりぎ」との特別メニューの開発に携わる地元の海産加工会社の駒田の5人が集まるが……。

作・演出の横山、睦美役の異儀田夏葉、皐月役の宮地綾が稽古場にて本作への思いを語ってくれた。

――このタイミングで2013年初演の『流れんな』を再演することに決めた経緯について教えてください。

横山 iakuは立ち上げた当時から、再演を繰り返しながらやっていく方針がありまして、1年ごとに新作と再演を繰り返し上演しています。その意図としては、戯曲の普遍性を常に意識して作品づくりをしているということと再演ごとに強度を上げて、後世に残っていく戯曲になるようにと意識して演劇活動をしていて、今回もその一環ということになります。

ただ『流れんな』に関しては、4~5年前に異儀田さんとやれないかということで声はかけていて、スケジュールなどの問題もあって、このタイミングとなりました。『逢いにいくの、雨だけど』というiakuの作品に主演していただいた時、この俳優さんともう一度、作品づくりをしたいと思いました。その時、この『流れんな』が思い浮かび、異儀田さんに睦美を演じてもらいたいと思いました。

――異儀田さんはオファーをもらった当時のことは覚えていますか? 作品の印象についてもお聞かせください。

異儀田 何回かお誘いはいただいていて、その内のひとつだったので、この『流れんな』がちゃんと実現するとは思ってなかったところもありました(笑)。

最初はとんでもなく暗い話だなと思っていました。作品を上演するにあたって、時代とマッチするか? 「なぜいま、これをやるのか?」というのはすごく大事だと思っていて、最初はこの睦美という人物像に関していうと、最近、映画や演劇でフェミニズムをテーマにした作品が多い中で、(睦美が時代に)マッチするのかというのは不安を感じていました。

でも、いま稽古を進めていく中で、睦美という人物が、ものすごく強いわけではないけど、ある種の強さを持っているということに気づき始めました。声を上げたりするということではないけど、そうではない強さみたいなものを出せたら、はっきりとした声を出せる人じゃない人にもフィーチャーすることができて、それは大事なことなのかもしれないと思いました。最近、自立した強い女性がフィーチャーされ、良しとされがちですけど、そうじゃない強さもあるんじゃないかということを見せられたらいいなと思っています。

――宮地さんは作品にどんな印象をお持ちですか?

宮地 周りの人たちによって、自分の抱えているものが暴かれていく感じがしていて、人間だから、やっぱりそれを隠したかったり、ごまかしたい気持ちもあるんだけど、だけど向き合わなくちゃいけないなというところが、演じながらも難しくあります。台本を読み進めていくと、人間っぽさ――このひと言でスイッチが入っちゃう、この人にとってはキーワードなんだなというものがすごく出てくるんですよね。いろんなところにきっかけ、触れられたくないところに触れられてしまうポイントがあるので、そこを逃さずにやりたいなと思っています。

――横山さんにとって、この『流れんな』がどういう作品であるかを教えてください。

横山 (『流れんな』が初演された)当時、iakuとして3回目の公演だったんですが、1回目が『人の気も知らないで』、2回目が『エダニク』という作品で、どちらもよそのユニットやプロデュース公演のために書き下ろしたもので、この『流れんな』は初めてiakuの新作として書いた作品で、すごく気負いがありました。

『人の気も知らないで』も『エダニク』も女性3人、男性3人で喧々諤々の議論をやりあう芝居でしたが、iakuで新作をやるにあたって、議論や討論、口喧嘩がエンタテインメントになりうる作品にしたかったんですね。

もうひとつ、自分の中で近い関係――家族みたいなものを描きたいという思いをすごく盛沢山にして書いた作品で、いま改めて見ると、容量が多すぎるんですね(笑)。こんなに議題を並べる必要があったんだろうかってくらい……(苦笑)。

ただ出生前診断にせよ、人の記憶を映像化する技術にせよ、当時もニュースなどで記事になっていましたが、10年前と比べて、AIなどを活用する中で新たな進歩があって、稽古場でそういう話を共有しながら、10年前に抱えていた問題が、いまも本質的にはあまり変わっていないと感じています。語りづらい、解決の見えづらい問題を前に人が右往左往しているというのは普遍的で、いまも観客に問いかける意味のある作品だなと感じながら取り組んでいます。

――睦美と皐月という姉妹のキャラクターや関係性はどのようにつくられていったのでしょうか?

横山 ひと回り歳が離れている母親代わりになった姉の睦美と、母の記憶がないことにわだかまりをもって過ごしてきた妹の皐月のコントラスト――「家族のため」「“私”を犠牲にして」という思いでやってきたお姉ちゃんと、そのことを押しつけがましく感じ、反発心を持っている、いつまで経っても思春期みたいな妹の対比の面白さ。

当事者たちの前でひたすら姉妹喧嘩をし続けるという意味で、描きたかったドロドロした感じ、隠せないものがぶつかっていく人間味、姉妹だからこそ遠慮のない言葉でやり合うという部分が見えて面白いなと思っています。

――異儀田さんと宮地さんはそれぞれの役柄にどんな印象をお持ちですか? 共感できる部分などはありますか?

横山 共感できてますか(笑)?

異儀田 こないだ稽古場でそういう話になったんですけど、(宮地を指しながら)どっちかというと睦美タイプだし、(自身を指して)皐月タイプなんですよ(笑)。自分の持っているパーソナリティはそうなので「皐月の気持ちのほうがわかるな…」ということが起きてます。

横山 面白い(笑)。

異儀田 私はまだ睦美を捉えきれてない部分も多いと思うので、いっぺん、交代してやってみたいなって。

宮地 (交代したら睦美が)もっと暗くなるかも(笑)。(皐月は)ずっと誰かを責めてるんですけど、(宮地自身は)どちらかというとみんなを見ているタイプなので、難しいですね。

母親がいないとか、歳の離れたお姉ちゃんがどういう感じで自分を育ててくれたのかとか、周りが関係してきたりとかすると、パーソナリティの部分で皐月がどんなものを持っているのか難しく、そこが面白いんですけど…苦戦中です(苦笑)。

――むしろ自分が演じる役のほうにイラっとしたり……?

異儀田 イラっとしますね(笑)。最初は全然わかんなかったです。「なんでお前は未来のことを考えてこなかったんだ!」とか。

宮地 「なんでそんなに誰かを傷つけるんだろう?」と思ったり(笑)。

――先ほど、異儀田さんを見て『流れんな』再演を決めたという話も出ましたが、横山さんから見ての異儀田さん、宮地さんの印象についてお聞かせください。

横山 4~5年前に異儀田さんを「睦美だ」と思った自分と「私は睦美じゃない」と言う異儀田さんとの齟齬を感じつつですが(笑)、異儀田さんに関しては、いろんなものを抱えながらも表層はカラッとしていたり、でも、ものすごく抱え込んでいる姿を垣間見せたり……そうした表情の魅力がものすごくあるなと感じています。この睦美はまさにそういう人物であり、その魅力を十分に発揮していただいています。

宮地さんとは広島のアステールプラザという公共施設でのワークショップで出会って、そこから何度か広島で俳優と演出家という関係でご一緒させていただいてきました。僕自身、大阪を拠点に活動してきましたが、「いろんな地域にちゃんと全国で見てもらうべき俳優がいる」と感じさせてくれた女優のひとりです。こうやって、東京で演劇活動を長くやっている先輩たちにもまれながら、広島にも凱旋して、地域で頑張っている俳優のひとつの事例になったら良いなと思っています。

俳優としては信頼していますし、内向的な部分があるということは実はあまり知らなくて(笑)、なのでふたりには無理なお願いをしているかもしれませんが、そもそもの俳優の変身願望、演技する欲求みたいなものを信じて稽古場でいま一緒につくっている状況です。