木場勝己が『虎に翼』に与える“緊張感” 演劇界の重鎮として磨き上げた芝居力

AI要約

朝ドラ『虎に翼』の第10週では、ヒロイン・寅子が法曹の世界に再び挑戦する展開が始まる。

寅子が裁判官を目指す中、新憲法に希望を見出し、女性でも裁判官になれる可能性を信じているが、多くの壁に立ちはだかることになる。

名優・木場勝己が演じる神保衛彦は、寅子の導き手となる存在であり、厳しい人物として物語の中で注目されている。

木場勝己が『虎に翼』に与える“緊張感” 演劇界の重鎮として磨き上げた芝居力

 「裁判官編」がスタートし、物語が大きく動き出した朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)。第10週「女の知恵は鼻の先?」より、ヒロイン・寅子(伊藤沙莉)は再び法曹の世界へ。裁判官を目指す彼女を取り囲む人々の顔ぶれも変わりはじめているところだ。

 そんな者たちのひとりが神保衛彦。演じるのは名優・木場勝己である。

 戦争が終わり、日本国憲法が施行された日本。すべての国民は個人として尊重される。法の下に平等であり、あらゆる差異を理由に差別されてはならないーー。

 社会は大きな変革期を迎えようとしているわけだが、果たして寅子たちが歩む時代はどうだろうか。すべての国民が個人として尊重され、何人たりとも差別されてはならない社会の実現がいかに難しいのかを、未来を生きる私たちは知っている。新憲法に希望を見出し、女性でも弁護士だけでなく裁判官にもなれるはずだと考える寅子だが、彼女がこれを実現させるには、超えなければならないいくつもの“壁”があるだろう。

 おそらく、木場が演じる神保とはその壁のような存在のひとり。東京帝大の教授である彼は、これからの寅子の導き手となる桂場(松山ケンイチ)の恩師だ。民法改正審議会の委員を務める存在なのだが、寅子の恩師である穂高(小林薫)と意見が対立することになるらしい。胡散くさいものの頼りにはなりそうな“ライアン”こと久藤頼安(沢村一樹)の下で、寅子がこれにどう向き合うのかが注目すべきポイントである。

 痛ましい戦争の傷跡が残る日本は、まだ圧倒的に男性が優位な社会。『虎に翼』としては渋いメンツが揃いつつある。その中でもこれからしばらく作品の中心人物となりそうなのが、“神保衛彦=木場勝己”だ。

 初登場を果たした第47話のシーンはごくかぎられたものだったが、それでも、彼がただならぬ者だということを誰もが瞬時に理解したはず。表情はにこやかだが、瞳の奥は笑っていない。その声は柔らかく軽やかだが、安易に触れると深い傷を負うことになりそう(いつでも斬ってきそうな雰囲気がある……)。一見、穏やかな好人物に思えるが、彼は間違いなく厳しい人物なのだろう。帝大教授にして民法改正審議会の委員という“肩書き”以上に、神保がいかなる人物であるのかを木場の振る舞いは物語る。そこにはこのキャラクターのバックグラウンドが垣間見えるのだ。

 あのほんの短いシーンの中のかぎられたセリフだけで自身の演じるキャラクターを印象付け、立ち位置まで示してみせるさまには、「さすが……すげえ……」と唸るばかりだ。演劇の世界で俳優活動をスタートさせた木場は、今日に至るまで第一線に立ち、その技の研鑽を続けてきた。シェイクスピアやチェーホフといった世界的なクラシック作品への出演はもちろんのこと、唐十郎の『盲導犬』や井上ひさしの『天保十二年のシェイクスピア』、三島由紀夫の『サド公爵夫人』などなど、現代演劇へとつながる日本の名作たちに蜷川幸雄らなどと挑んできた。まさに演劇界の“重鎮”ともいえる存在。2024年の秋には気鋭の演出家・藤田俊太郎とタッグを組み、『リア王の悲劇』でタイトルロールを務めることになっている。

 あまり演劇に馴染みのない方からすれば、かつては『3年B組金八先生』シリーズ(TBS系)の校長役、最近だと映画『ゴールデンカムイ』の永倉新八役で広く知られているのではないだろうか。後者では物語のラストに顔を見せたばかりであり、続編での活躍に期待が高まるというもの。名だたる俳優たちが永倉新八を演じてきたが、このマンガを原作とした非常にフィクショナルな作品で、木場はどんなキャラクターを立ち上げるのか。

 ともあれ、いまは『虎に翼』である。大小高低と声を自在に操る麗しいセリフ回しはもちろん、そのキャリアに裏打ちされた技を堪能したい。