【アメリカ大統領選の最重要争点】バイデンは人工妊娠中絶問題で再びトランプに勝てるのか?

AI要約

日本の選挙で人工妊娠中絶問題が主要な争点となることは稀であるが、米国では定期的に争点となり、中絶容認派と反対派が激しい対立を見せる。

中絶反対派は宗教観や倫理観に基づき、胎児の命を尊重し中絶反対を主張する。一方、中絶容認派は女性の権利や自己決定権を重視し、妊娠や出産に関する選択を支持する。

最近の動向として、米国の連邦最高裁の判断や保守派州における中絶禁止の動きが中絶問題をさらに複雑化させており、2024年の大統領選挙でも重要な争点となっている。

【アメリカ大統領選の最重要争点】バイデンは人工妊娠中絶問題で再びトランプに勝てるのか?

 日本の選挙で、人工妊娠中絶問題が主要な争点になり、中絶容認派と反対派が、公の場で口論し、激しく対立する場面を想像することは困難だ。しかし、近年の米国では、人工妊娠中絶問題は、大統領選挙や中間選挙において多くの有権者を巻き込み、投票所に出向かせる「特殊な争点」である。

 中絶反対派の背景には宗教観・倫理観がある。筆者は研究の一環として、2008年と12年の米大統領選挙でオバマ陣営に参加し、南部バージニア州フェアファックスで戸別訪問を行った。中流と思われる住宅街の玄関先で、筆者に対応したのは、キリスト教福音派の白人女性であった。彼女は、神が胎児を創造したと真顔で語り、神の業を人間が損なう権利などないという調子で人工妊娠中絶問題が、彼女の投票を決する主要な争点であると主張した。

 彼女のようなダーウィンの進化論を真っ向から否定するキリスト教右派ばかりが、中絶反対派を成すのではない。科学的に人間の命の始まりを、ごくごく早い時期にみて、それ以後の中絶を、人を殺す行為と考える人たちもいる。こういう人たちは、「プロ・ライフ(命の味方)」として、自らを倫理的な人間と信じている。ただし、プロ・ライフの人たちも、母体に危険が及ぶ可能性がある場合は、中絶を認めている。

 一方、人工妊娠中絶容認派は、女性の権利の問題として中絶を捉えている。彼らは、妊娠や出産を科学的に理解し、医学上母体に危険が及ぶ恐れがある場合、中絶を認める。また、社会経済的な困難な状況に陥った可能性があれば、中絶をする権利があると考える。

 さらに進んで、妊娠と出産を担う女性が望まない場合、自分の体(プライバシー)に対する事柄として、中絶の権利を容認する。即ち、女性は自分の体をコントロールする「自由」、妊娠と出産の「選択」を持つとの主張である。彼らは、プロ・ライフに対して、「プロ・チョイス(選択に賛成)」を掲げている。

 その他にも、長期的にわたって対立が続いてきたことがある。また、特に女性は不利益を押しつけられてきた。それは、“公民権運動”のようである。これらにおいても、特殊性があると言える。

 保守に傾斜した米連邦最高裁(保守派判事6人、リベラル派判事3人)が人工妊娠中絶の権利を覆したのは、およそ2年前の2022年6月のことである。それ以降、西部アリゾナ州や南部フロリダ州などで、原則として中絶禁止や妊娠6週目以後の中絶禁止が法に定められた。米連邦最高裁の判断および、保守色の強い州における人工妊娠中絶禁止の動きは、1973年の「ロー対ウェイド」の最高裁判決後、怒りや不満を抱えていた中絶反対派の自己肯定感と士気を高めた。同時に、中絶の権利擁護を主張する人々にショックと、中絶禁止を食い止めようとする勢いを与えた。

 このような状況下で、2024年米大統領選挙の一連のプロセスが進行している。

 目下、野党共和党大統領候補が確実とされるドナルド・トランプ前米大統領は、これまで幾度か人工妊娠中絶問題に対する立場を変えてきた。それは、なぜなのか。また、ジョー・バイデン怒りや不満大統領とカマラ・ハリス副大統領は、中絶問題でどのような議論をして有権者の支持を獲得しようとしているのか。今回は争点として、選挙を左右するであろう人工妊娠中絶の話をする。