恋愛やセックスに縁のない人生をどう思う? 20代のモヤモヤに鈴木涼美は「傷つく用意がないならしなくていい」

AI要約

恋愛やセックスに興味はあるが経験がない20代男性の悩みについて鈴木涼美さんが回答。

恋愛は自由な選択だが、フィクションや音楽によって恋愛や愛情が重要視されていることも事実。

恋愛経験がないことについて気に病む必要はなく、恋愛のさじ加減は季節や相手によって異なる。

恋愛やセックスに縁のない人生をどう思う? 20代のモヤモヤに鈴木涼美は「傷つく用意がないならしなくていい」

 作家・鈴木涼美さんの連載「涼美ネエサンの(特に役に立たない)オンナのお悩み道場」。本日は特別に、悩めるオトコにお越しいただきました。

Q. 【vol.23】性欲はあるけれど恋愛経験ゼロなワタシ(20代男性/ハンドルネーム「悠星(ゆうせい)」)

 学部3年生の男性です。私は”恋愛”にまったく縁がありません。彼女はできたことがありませんし、セックスやキス、手をつなぐなどもしたことがありません。彼女が欲しいと思っていますが、実現はできていません。それでも性欲はありますし、自分はヘテロセクシュアルだと思います。現在は、恋愛しまくりでも、経験ゼロでも個人の自由である時代だと思います。ゼロの人が、恋愛上手な人をうらやむ必要がないことも分かります。

 ただ、私が好きなさまざまな文学や映画、漫画、アニメ、ゲームなどに触れていると、恋愛や愛情、セックスが人間が生きる上で大切なものだと知ります。多少なりとも恋愛やセックスに興味はある私が、それらを経験せずに年齢を重ねていくかもしれないことにモヤモヤを感じます。鈴木様は、恋愛やセックスに縁のない人生をどう思いますでしょうか?

 追伸:私のような若年者は少なくないと感じています。私の友人にも同じような人が多いです(男性ですが)。「付き合うってどうやってそこにいたるの?」「他人と愛情を与えあうなんてありえるの?」という思いがあります。女性にアプローチなんて、そもそも邪魔で迷惑なことを積極的にするのは控えたい……というリスク回避思考が若者に広がりつつあるのもなんとなく感じています。

A. 理想が打ち砕かれる準備があれば恋愛は楽しい

 お便りにもあるとおり、現在ではあらゆるセクシュアリティが発見され、理解も進んでいますから、恋愛しない、恋愛はするけどセックスはしない、セックスはするけど恋愛はしない、人間ではない存在になら恋する、などなど人の有り様は自由です。ただ、フィクションや音楽のテーマとして恋愛以上に強力なものがあまりないというのも事実で、仕事や友情や家族や趣味などあらゆるほかの営みと比べても、熱量が高く、情熱を傾けるに値するものだとも思います。

 強い宗教的な束縛がない風土で生まれた私の実感として、死にたいほど辛い思いをするとか、逆に地底のどん底からすくい上げられるとか、そういう機会ってそう多くはなく、恋愛は数少ない契機になっています。ただそれも、そういう人が多いというだけで、恋愛以外に情熱を傾ける対象があったり、恋愛より自分にドライブがかかる方法があったりする人もいるのでしょう。そもそも学部の三年生ということは一般的には二十歳前後だと思いますから、恋愛経験があまりないということを気に病むような歳ではありません。高校生や大学生で大恋愛をしたという人ももちろんいるでしょうが、私だって本格的に恋愛をする準備ができたのは、けっこう大人になってからだと思うからです。

■恋愛のさじ加減は季節によっても違う

 さて無理にする必要はないにせよ、恋愛の経験がないままに自分には縁がないものとして片づけてしまうのは物足りないという気分もよくわかります。しかし男性が女性にアプローチをするという行為自体が、かつてに比べてずいぶん気を遣うことになっているのはその通りだと思います。恋愛やセックスが難しいのは、タイミングや相手によっては人生で最高の経験にも、逆に深刻なトラウマを残す最低な経験にもなることです。自分にとって自然な行為でも相手に不快な思いをさせた場合に、トラブルになる危険性だってはらみます。そしてそのさじ加減は教科書に従うような単純なものではなく、千差万別、気分や季節によっても違うのだから、その複雑さは料理や運転などとは比べ物になりません。