「DNA型抹消」高裁判決、警察庁が上告断念 長官、立法化は否定的

AI要約

名古屋高裁が無罪確定した男性のDNA型などのデータ抹消を命じる判決を受け、警察庁が上告を断念した。データの抹消が必要であると指摘されたが、立法化の必要性は現時点ではないとしている。

原告の奥田恭正さんは、暴行罪で起訴されたが無罪が確定し、DNA型や指紋、顔写真のデータの抹消を求め提訴。名古屋高裁はデータの抹消を認める判決を出した。

警察庁は、判決を総合的に考慮し上告を断念した理由を説明。現在の制度運用を前提とする判断を示す裁判例や、立法の必要性についての議論に触れている。

「DNA型抹消」高裁判決、警察庁が上告断念 長官、立法化は否定的

 無罪判決が確定した男性のDNA型などのデータの抹消を国に命じた名古屋高裁判決について、警察庁の露木康浩長官は12日の定例記者会見で、上告を断念すると明らかにした。判決は、DNA型データの運用などのための立法化が必要と指摘したが、「直ちに立法などの措置が必要になるとは考えていない」と述べた。上告期限は13日だった。

 訴訟の原告は名古屋市の奥田恭正さん。2016年、自宅前のマンション建設の抗議中に現場監督を突き飛ばした疑いで現行犯逮捕され、警察でDNA型などを採取された。暴行罪で起訴されたが、公判で防犯カメラの映像などから無罪が言い渡され、確定した。

 奥田さんは、警察庁が保管するDNA型と指紋、顔写真のデータの抹消などを求め提訴。8月30日の名古屋高裁判決は、一審の名古屋地裁判決を支持し、データの抹消を認めた。

 露木長官は会見で、「判決で示された事実関係を前提に総合的に考慮した結果、警察庁として争う理由がないと判断した」と説明した。

 DNA型の保管などは現在、国家公安委員会規則などの内規で運用されており、高裁判決は「立法による整備が強く望まれる」と言及した。これについて露木長官は「立法の要否は最終的には立法府で判断されるものだ」とした上で、「現在の制度運用を前提とする判断を示した裁判例も相当数あり、裁判所の考え方も分かれている」と指摘。「今回の判決もふまえ、個別具体の事案に即して引き続き適切な記録などの管理に努める」と述べた。

 警察庁によると、指紋やDNA型、顔写真のデータの抹消などをめぐる訴訟は19件あり、これまで判決が確定した15件はいずれも国が勝訴している。今回の高裁判決が確定すれば、初の国側敗訴のケースとなる。(編集委員・吉田伸八)