始業式、妻が自死した日に息子も失踪 「親父酒を飲もう」気付けなかったSOS

AI要約

高校2年生の息子が母の自死に端を発するいじめで失踪し、木下宏明さんがその苦悩を語る。

息子は不登校を経て卓球部を立ち上げ、高校生活を順調に送っていたが、急に元気を失い失踪。

息子の発したSOSサインを見逃し、自責の念にかられる木下さんが、子どもたちと周囲の大人に対するメッセージ。

始業式、妻が自死した日に息子も失踪 「親父酒を飲もう」気付けなかったSOS

 「朝『行ってきます』と言って出かけたきり帰ってこない。それ以来会えなくなってしまった」

 高校2年生の息子との別れを語るのは岐阜県で自死遺族の会の代表を務める木下宏明さん。失踪の原因は、母の自死を発端としたいじめだった。

 「妻は精神疾患を抱え、10年間闘病生活を送っていたが息子とのちょっとしたいさかいをきっかけに自宅で焼身自殺した。息子は『お前のお母さんは命を粗末にしたアホ』などと揶揄され、いじめに遭った」(木下さん、以下同)

 小学校でのいじめを機に、中学時代は不登校に。学校側にサポートを求めたものの、不登校の背景にあった心の傷も当時はなかなか理解されなかったという。

 そんな中、地域の卓球クラブに誘うなど、少しずつ不登校の親の会と共に取り組みを進めた木下さん。結果、「高校には入りたい」と前向きになってくれたという。

 支えもあって無事に高校に入学し、自分で卓球部を立ち上げるなど順調に学校生活を送っていた。しかし…

 「秋口から急に元気がなくなり心配していた。そして、高校2年の始業式の日、つまり母親が自死した日、息子も失踪した」

 木下さんの息子は1年3カ月後、自宅から少し離れた山中で発見された。失踪直前にはいつもと違う言動があったと木下さんは振り返る。

 「母親にいつも買ってもらっていたチーズケーキを頼んだり、前日には『親父、酒を飲もうか』と私に言ってきたり。おそらく僕が『成人になったら一緒に飲むのがお父さんの夢なんだ』と息子に話していたからだろう」

 今思い返せばSOSのサインだったとわかる息子の言葉。日々の生活に追われる中で、一歩踏み込むことができなかったと木下さんは話す。

 「不登校だった息子に対しても『大丈夫かな』と心配していたが、それが日常になってしまい埋没してしまった。家族だからこそ、切実な課題として見つけにくい。いつも(息子は)不安定で(親としては)心配はあったが、具体的な行動につながらなかった。遺族と話していても、気づいていながら止められなかったという人も多い」

 妻と息子の死、そして遺族との交流を通じて様々な葛藤を重ねてきた木下さん。「答えなんて見つからないと思う」としながらも、今悩みを抱える子どもたち、そして周囲の大人にメッセージを送る。

 「簡単に相談ができないから悩んでいるのだろう。だが、人と関わらなければ糸口は見いだせない。しんどい思いを抱えていて辛いだろうが、少し勇気を持ってほんの少し無理をして言葉を出してほしい。そして、その声を周りの大人たちがしっかり受け止めることが重要だ」