大地震の10分後に最大34mの津波が直撃…「南海トラフ地震は2030年代に起きる」と京大名誉教授が警告する理由

AI要約

南海トラフ地震は、約10年後に起こる可能性がある巨大地震で、想定される被害は東日本大震災の10倍に及ぶとされている。

前兆として内陸地震が増加し、活動期と静穏期が交互に訪れる傾向が見られる。南海トラフ地震が起きれば10県にまたがる被害が発生し、犠牲者数は最大33万人に達する見込み。

政府の試算では、南海トラフ地震の被害総額は220兆円に達し、日本政府の租税収入の4倍以上に相当する。しかし、一般市民の間ではまだ震災名が定まっておらず、対策が進められている。

南海トラフ地震はいつ起きて、どんな被害が想定されているのか。京都大学名誉教授の鎌田浩毅さんは「確実で具体的な地震予測はできないが、約10年後に発生し東日本大震災の10倍の被害が出ると私は考えている。約6800万人が被災する恐れがあるため、『自分の身は自分で守る』という意識を持って普段から防災を意識したほうがいい」という――。(第2回)

 ※本稿は、鎌田浩毅『M9地震に備えよ 南海トラフ・九州・北海道』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■巨大地震の発生前後には地震が多くなる

 南海トラフ巨大地震は海溝型の巨大地震だが、陸上の直下型地震の発生と呼応する現象が確認されている。前回の南海トラフ巨大地震が発生する前に西日本各地で大きな内陸地震が相次いだ(図表1)。

 そして、昭和東南海地震(M7.9、1944年)と昭和南海地震(M8.0、1946年)のあと数十年ほどの間この地域では大きな地震がなかった。それが阪神・淡路大震災(M7.3)以降には、2000年の鳥取県西部地震(M7.3)、2004年の新潟県中越地震(M6.8)、2005年の福岡県西方沖地震(M7.0)、2008年の岩手・宮城内陸地震(M7.2)などの地震が次々に起きた。その後は2016年に鳥取県中部地震(M6.6)と熊本地震(M7.3)が発生した。

 すなわち、南海トラフ巨大地震が発生する40年前と発生後10年の間に、西日本の内陸部では地震発生数が多くなる傾向が見られるのである。こうした内陸地震はいずれも地表付近の活断層を震源とする。南海トラフ地震に比べて地震の規模は小さいものの、地表のすぐ近くで起こるため激しい揺れをともなう。そして活動期と静穏期は交互に繰り返されることがわかっており、現在は活動期にある(図表2)。

■10県が被害を受け、犠牲者数は最大で33万人

 南海トラフ巨大地震の規模はM9.1であり、2004年にインドネシアのスマトラ島沖で起きた巨大地震と同じである。この地震では高さ30メートルを超える巨大津波が発生し、インド洋全域で25万人以上の犠牲者を出した。国が行った南海トラフ巨大地震の被害想定では、海岸を襲う津波は34メートルに達するとされる。

 また巨大津波が一番早いところでは2~3分後に襲ってくる。東日本大震災と比べて津波の到達時間が極端に短い理由は、地震が発生する南海トラフが西日本の海岸に近いからである。地図を見ればわかるように震源域が陸上に重なっている(図表1を参照)。その結果、地震としては、九州から関東までの広い範囲に震度6弱以上の大揺れをもたらす。特に、震度7を被る地域は、10県にまたがった総計151市区町村に達する(図表3)。

 国の想定では、犠牲者総数が最大33万人、全壊する建物238万棟、津波によって浸水する面積は約1000平方キロメートルとされている。南海トラフ巨大地震が太平洋ベルト地帯を直撃することは確実で、被災地域が産業や経済の中心であることを考えると、東日本大震災よりも一桁大きい災害になる可能性が高い。

■「南海トラフ巨大地震」という名称の問題点

 内閣府の試算では南海トラフ巨大地震は日本の総人口の半数に当たる6800万人が被災する。経済的な被害総額に関しては、内閣府で220兆円を超えると試算されている。

 たとえば、東日本大震災の被害総額の試算は20兆円ほど、GDPでは3%程度とされているが、南海トラフ巨大地震の被害予想がその10倍以上になることは確実とされる。ちなみに、220兆円という被害総額は日本政府の一年間の租税収入の4倍を超える額に当たる。まさに、「西日本大震災」という状況になることが必至である。

 こうした被害想定は日常生活からかけ離れているので、国民の多くは具体的にイメージできない。ここで私は西日本大震災と書いたが、この言葉は私が発案した言葉で、始めから世間で認知されたものではない。

 通例、震災の名称は大災害が起きてから政府が閣議で決定する。たとえば、阪神・淡路大震災や東日本大震災は、こうして決められた。2030年代に発生が予想される南海トラフ巨大地震はまだ起きていないので、震災名は付けられていない。といって、日本の屋台骨を揺るがす激甚災害が予測されることから、国は「南海トラフ巨大地震」という言葉で対策を進めてきた。

 ところが、ここに問題があると私は考えた。いくら南海トラフ巨大地震と連呼しても、南海トラフがどこにあるのかを知らない一般市民が非常に多いのである。これは私自身が講演会に集まってきた聴衆に尋ねた経験からもそうだ。