【自民にさらなる逆風が】永田町「選挙の神様」が明かす岸田おろしの行方と「ポスト岸田」の意外な名前

AI要約

東京都知事選で注目を集めた元安芸高田市長の石丸伸二氏を支援した選挙プランナーの藤川晋之助氏について述べられている。藤川氏は長い歴史を持つ選挙プランナーであり、今回の選挙でも石丸氏の支持を得ることに成功した。

また、記事では低支持率の岸田文雄総理についても言及されており、政治改革や派閥解消などの成果が評価されている。さらに、次期総裁選に向けて岸田総理の再選を巡る動きや次期総裁候補についても言及されている。

藤川氏は調整型のリーダーを求め、自民党の現状や将来について分析しており、自民党に国民の厳しい目が向けられることを予測している。

【自民にさらなる逆風が】永田町「選挙の神様」が明かす岸田おろしの行方と「ポスト岸田」の意外な名前

7月7日投開票の東京都知事選で脚光を浴びた元安芸高田市長の石丸伸二氏(41)。「50万取れば御の字」と言われていた石丸氏に162万票を獲得させたのが、選挙プランナーの藤川晋之助氏(71)である。今回、ボランティアとして石丸陣営の選対メンバーに名を連ねた。

藤川氏は23歳で代議士秘書となって以来、144回の選挙に携わり、敗れたのはわずかに12回。永田町では「東の(鈴木)宗男、西の藤川」と評される名秘書であった。現在、選挙プランナーとして活動しており、「選挙の神様」「当選師」との異名を取っている。そんな藤川氏は“次の選挙”をいかに戦うべきと分析しているのか。石丸大健闘の興奮冷めやらぬ「選挙の神様」に見解を問うた。

◆「強硬手段」を評価

まずは低支持率にあえぐ岸田文雄総理(66)について聞いた。

「仕事面で言ったら、岸田総理は相当な成果を挙げている。抜け道だらけで中身は十分とは言い難いが、先の通常国会で政治資金規正法の改正案を成立させた。一連の政治改革の動きの中で、政治倫理審査会に自ら出席するなど常に率先して動いてきた。政治改革案の取りまとめでも公明党や維新の会との交渉の際、自ら進んで動いている。大きな仕事としては防衛予算の大幅増額を実行できたことが挙げられる。’27年度に国内総生産(GDP)比2%に倍増を目指し、他国の領域でのミサイル発射を阻む敵基地攻撃能力の保有に踏み切る方向も示した。これは歴代内閣が成しえなかったことで、保守層からの信頼も得た。さらに、経産省が言い出せなかった原発再稼働を口にしたが、世論の反発は少ない。日経平均株価も過去最高の4万円を超え、最高値を更新している」

岸田政権で藤川氏が最も驚いたのは「派閥による裏金問題を派閥解消につなげたこと」だという。自民党は1988年のリクルート事件など「政治とカネ」の問題で窮地に陥ると、「派閥解消」を何度も掲げてきたが、なし崩し的な“衣替え”で済ませてきた。今回もそうなると藤川氏は見ていたという。

「岸田さんは温厚な性格で知られている。まさかそんなことはしないだろう、と思わせて、派閥解散をやってのけた。自派閥・宏池会を真っ先に解散し、麻生派を除いて自民党内の派閥は解散となった。政治の世界の中にいる人間から見たら、こんなことが起こり得るのか、と驚愕しました。すごい決断だし、実行力です。派閥は政策研鑽のための政策集団として残るも、派閥が握っていた『カネと人事』の権限を切り離すことに成功した。最大派閥の安倍派は分裂し、ものを言う力もなくなったことで人事もしやすくなっている」

岸田総理は6月21日の会見で「気力は十分みなぎっており、やる気、気力はこれからもしっかり示したい」と再選に向けて意欲を示した。低支持率ながら在任期間は千日を超え、戦後トップ8に入る長期政権となっている。

「強権的だった安倍・菅政権が10年も政権を握り続けたことが追い風にもなっている。安倍政権で内閣人事局を作り、官僚の人事権を握った。上から押さえつける手法で意に沿わない人事を潰したり、左遷させたりした結果、『ひらめ官僚』なる言葉も生まれた。当然、霞が関の官僚は面白くなかった。いま、内閣人事局は奪い返され、省庁のあげてきた人事に官邸は口出ししなくなった。『財務省の言いなり』と言われたりしますが、岸田政権に対して霞が関の反乱が起こらない。世論やマスコミのリードと異なり、霞が関は『岸田政権がこのまま続いてもいい』と思っている。だから、低空飛行ながら安定しているんです」

ただ、6月23日の通常国会閉幕を待っていたかのように秋の総裁選に向け、「岸田おろし」の動きが活発化している。閉幕したまさにその日、菅義偉元総理(75)は文藝春秋のオンライン番組に出演し、「総理自身が派閥の問題を抱えているのに、その責任に触れずに今日まで来ている。総理自身も各派閥と同じような処分を自身に科すべきだった。不信感を持っている国民は多い」と批判し、「新たなリーダーが出てくるべきか?」との質問に、「そう思う。党の刷新の考え方などを理解してもらえる最高の機会だ」と返した。

前総理の発言は「岸田おろし」の号砲とみなされた。岸田政権は低支持率で、現状の状況なら9月の自民党総裁選で再選は厳しいと見る向きが多数を占める。藤川氏は次期総裁候補として、大蔵省出身の「元官房長官」の名を挙げた。

「岸田総理は6月中に2週連続で麻生太郎副総裁(83)と会食をしましたが、完全な関係修復ができていない、と聞きます。菅さんたち反主流派がまとまれば勝てる。誰を旗頭にするか、という話ですが、次の総選挙は自民党が単独過半数を取るような結果にはまずならず、負けは確定している。その負けを減らすための看板を誰にするのか、という考えのもと選ばれる。

国民の支持率が高い石破茂元幹事長(67)が筆頭になりますが、麻生さんをはじめ、反対する国会議員も多い。いろいろな名前が挙がると思いますが、多くは立候補に必要な推薦人の20人すら集められない。集められても勝ち切るまで国会議員の賛同を得られない。反対派の旗頭として加藤勝信元官房長官(68)が有力。大蔵省出身で、霞が関が安心する。一般国民の知名度は低いですが、石丸さんも都知事選前は名前が浸透していなかったけれど、2位に入った。知名度は低くても、選挙はどうにでもなります」

加藤氏の持ち味は「人柄」だと藤川氏は指摘する。相手の立場によって態度を変える人や些細なことで怒鳴る国会議員は多々いるが、加藤氏は他事務所の秘書からも「気さくでいい人、誰にも優しい」と評判がいい。

「強いリーダーよりも調整型のトップがいまは適任となる。というのも選挙でなんとか大敗は免れても、自民党と公明党で単独過半数は維持できるかどうか。できなければ他党と協力していかなくてはならない。公明党はもちろんのこと、場合によっては維新、国民民主党の協力を仰がねば国会が回らない。その意味で我の強い人よりも調整型がいい」

秘書時代の藤川氏は小沢一郎衆議院議員(82)と軌を一にし、自民党と相対してきた。現在、衆参合わせて370人の国会議員を擁する自民党だが、「烏合の衆です。かつては一国一城の主のはずだった国会議員が党の公認を得られることを腐心するように成り下がった」と嘆く。

「石丸さんが都知事選で注目を集めたのは自民党の状況が関係している。『国民の声を聴く』と岸田総理をはじめとした幹部は口にしますが、できていないから支持されない。裏金問題の最中も若手は黙ったまま。総裁選で候補たちが旧来の派閥に頼る姿勢を取るようであれば、派閥の解散表明が形骸化したと見なされる。長年、政権を担ってきた蓄積はあるでしょうが、我先にと勝ち馬に乗るような姿を見せれば、自民党の寿命もそう長くはないでしょう」

最後に「自民党に国民の厳しい目が向けられるのは、これから」とつぶやいた藤川氏。選挙の神様の分析は、果たして……。

取材・文:岩崎大輔