堀江貴文氏や池上彰氏も怒り「なりすまし投資詐欺」に後手後手の政府、EUよりヌルい法規制の中身とは?

AI要約

総務省の有識者委員会は、インターネットの偽情報に対する法的整備に向け素案をまとめた。投資詐欺被害が増加しているため、ネット広告の事前審査を厳格化し、削除の方法も定められる。

投資詐欺の手口がシンプルで、SNSを利用して有名人や投資家をかたることが多い。全国の警察が今年1~5月に認知した同種の詐欺は約430億円の被害が発生しており、AI技術の進化により偽物を見分けるのが難しくなっている。

著名人のなりすまし被害も多く、FBや他のSNSに行われている。被害者には様々な分野の人物がおり、被害総額も膨大である。個々の事件を解決するだけでなく、プロバイダー責任制限法の改正を進めている。

堀江貴文氏や池上彰氏も怒り「なりすまし投資詐欺」に後手後手の政府、EUよりヌルい法規制の中身とは?

 総務省の有識者委員会は16日、インターネットの偽情報に対する法的な整備に向けた素案をまとめた。最近、著名人などになりすました投資詐欺被害が急増しているため、ネット広告の事前審査を厳格化し、削除の方法なども定めている。投資詐欺を巡っては政府が6月、犯罪対策閣僚会議で総合対策を決定したが、交流サイト(SNS)運営者の自主的な対応に委ねる内容にとどまり、実効性が疑問視されていた。このため総務省が法的な制度作りの準備を進め、早ければ来年の通常国会でプロバイダー責任制限法改正を目指す。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

● 今年1~5月の 被害総額は約430億円

 投資詐欺の手口はいたってシンプル。フェイスブック(FB)などSNSのバナー広告に投資家や著名人を名乗って「無料の投資教室に案内する」などとかたり、ライン(LINE)グループを偽装したアカウントに誘導。暗号資産や株、先物取引などへの投資名目で現金をだまし取るのが共通点だ。

 警察庁によると、全国の警察が今年1~5月に認知した同種の詐欺は3049件、被害総額は約430億円。昨年の被害総額は約278億円で、今年は4月の時点で既に約334億円と昨年1年間を上回っていた。

 なりすましの肩書で最も多かったのは「投資家」で35%、次いで「その他著名人」で19%。「会社員」「芸術・芸能関係」もいたという。生成人工知能(AI)の技術で画像や音声が精巧になっており、偽物と見抜くのは困難だ。

 明らかになっているなりすましの被害者は、衣料品販売大手ZOZO創業者の前澤友作さん、ジャーナリストの池上彰さん、実業家の堀江貴文さん、経済アナリストの森永卓郎さん、経済評論家の荻原博子さん、「2ちゃんねる」開設者の西村博之さん、旧村上ファンド代表の村上世彰さん、将棋のプロ棋士で投資家の桐谷広人さんら。

● メタ社の主張は 「場所を貸しているだけ」

 前澤さんのケースは、FBに「前澤友作が無料投資教室を開きました」という偽広告を掲載。クリックするとLINEの友達登録に誘導され、暗号資産の取引や投資名目で銀行振り込みさせる手口だった。

 問題視した前澤さんがFBを運営する米ITメタ社に「氏名、肖像を無断使用した広告掲載を許可している」などとして、1円の損害賠償と掲載差し止めを求め東京地裁に提訴。7月9日の第1回口頭弁論で、メタ社は請求棄却を求め全面的に争う構えだ。

 筆者の後輩である全国紙社会部デスクによると、メタ社は「場所を貸しているだけ」との主張で、管理監督義務はないとの認識のようだという。

 池上さんのケースでは4月、東京都板橋区の中国籍の会社役員(当時41)が広島県警に詐欺容疑で逮捕された。逮捕容疑は2~3月にかけて、広島県の男性(当時72)に「優良株を購入する特権がある」などとうその投資話を持ちかけ、現金710万円をだまし取ったとされる。男性は追加で200万円を振り込み、その後に不審に思い警察に相談、被害が発覚した。

 こうした事態を重く見た池上さんは、出身地である長野県警の要請を受け、注意を呼びかける動画の作成に協力。愛知県警の求めにも応じ「私は投資の商品の宣伝なんかしません」などと怒りをにじませて画面に登場した。池上さん側もSNS側に広告削除を要請したが、応じてもらえないという。

● 3人の著名人に なりすましたケースも

 堀江さんを巡っては「ホリエモンが優良株を教える」とかたるFBの広告から誘導された60代男性が、福岡市の広告業者が詐欺の首謀者に送金用口座を提供して加担したとして、約1000万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴。

 地裁は6月、業者側が答弁書を提出せず口頭弁論にも出廷しなかったため「氏名不詳者と共謀し、原告から金銭をだまし取ったと言える」と男性の主張を全面的に認める判決を言い渡していた。

 堀江さんのXには4月5日付けで「私の名前を騙(かた)る投資詐欺に引っかかったり、引っかかった人、リプ欄に詳細とか詐欺の手口とか投稿してください。最近はディープフェイクモノも増えてると聞きます。来週自民党のデジタルプラットフォーム規制の委員会で話をする機会を頂きましたので、そこで一気に日本政府に動いてもらおうと思ってます」(原文ママ)と、(なりすましでなければ)現状を懸念する投稿が見られる。

 複数の著名人になりすますケースもあるようだ。東京都墨田区の中国籍の会社役員(34)は、(1)5月に池上さんを装い福島県の70代女性から原油への投資名目で約1000万円、(2)6月に森永さんを装い香川県の70代女性から銀への投資名目で1000万円、(3)7月に堀江さんを装い金や銀への投資名目で福井県の70代男性から1500万円をだまし取ったとして、詐欺容疑で3回逮捕された。

 会社役員は「金は受け取ったが、だましてはいない」と供述し、容疑を否認。いずれの事件も首謀者は別にいて、現金の受け取り役に過ぎないのは間違いない。逮捕された事件はもちろん、被害のごく一部でしかないだろう。