罪人か英雄か 取材に協力し罪に問われた鑑定医…法廷で「後悔はない」 当時の院長「彼は思想的確信犯」【供述調書引用本『僕パパ』から17年・さまよう信念】

AI要約

少年の放火事件の際に精神鑑定を行った医師が秘密を漏らして罪に問われる事件の概要。

医師は少年のために行動し、取材協力したが、結果的に出版された本が問題視され、医師が逮捕起訴される。

医師は自らの信念を貫き、後悔はしていないと語っている。

罪人か英雄か 取材に協力し罪に問われた鑑定医…法廷で「後悔はない」 当時の院長「彼は思想的確信犯」【供述調書引用本『僕パパ』から17年・さまよう信念】

“赤の他人”である少年の将来を案じ、自身が罪に問われる大胆な行動に出た医師がいる。

秘密を漏らした“罪人”か、それとも、他人のために自分の身を投げ打った“英雄”か。 17年の月日を経た歴史の法廷で、あなたはこの医師をどう裁くだろうか。

始まりは、奈良県田原本町で母子3人が亡くなった2006年の放火事件。自宅を放火したのは、長男である少年(当時16歳)だった。少年の逮捕後、「少年には3人に対する殺意があった」との報道が相次いだ。

少年の精神鑑定を担当したのが、精神科医の崎濱盛三医師(当時49歳)だった。 犯行には少年の「広汎性発達障害」が影響しており、少年に「殺意は全くなく、再犯の可能性もない」と鑑定。家庭裁判所は、崎濱医師の鑑定書を信用できると判断した。 その結果、少年は刑務所行きを免れ、教育が目的の少年院送致となった。

鑑定医としての仕事を終えた崎濱医師は、さらに少年のために思い切った行動に出る。

「少年が社会復帰する時に備えて、『殺人鬼』であるとの世間の誤解を解いておきたい」

そう考えた崎濱医師は、少年事件と発達障害に詳しいジャーナリスト草薙厚子さんからの取材依頼に協力することにした。そして、少年の供述調書などを見せた。

しかし、事態は思わぬ方向に動いていく。草薙さんは、事件を題材にした本『僕はパパを殺すことに決めた』を出版。

この本は、大部分が供述調書をそのまま引用した内容で、すぐさま法務省が問題視。 出版から4カ月後、奈良地検が草薙さんや崎濱医師の自宅に強制捜査が入る。そして情報源だった崎濱医師が秘密を漏らした罪で逮捕起訴された。

取材に協力した鑑定医が秘密漏示罪に問われた初めての事件。当時『僕パパ』事件とも呼ばれ、大きく報じられた。

崎濱医師は、取材に協力して調書を見せたが、出版は事前に知らされていなかった。 自分のあずかり知らないところで出された本によって、罪に問われた。まさに想定外の事態だった。

調書を見せたことを後悔しているだろう…と誰しもが思うところだが、崎濱医師は法廷で次のように語っている。

崎濱盛三医師:結果がこういうことになってしまいましたけど、私の信念は信念でそのままありますので、後悔はしておりません。