「これで安心」原告の92歳男性が亡き妻に手話で報告、旧優生保護法訴訟 最高裁違憲判決

AI要約

旧優生保護法下で障害などを理由に国が強制した不妊手術を巡る訴訟で、最高裁が違憲判断を示し、被害者の救済が可能となった。

原告の一人小林宝二さんは、妻も天国でこの判決を喜んでいるだろうと述べ、妻とともに手話で提訴に踏み切った事実を振り返った。

夫妻は長い間子供を望み続けたが、強制された不妊手術により幸せな家族を築く機会を奪われた過去が明らかになった。

旧優生保護法下で障害などを理由に国が強制した不妊手術を巡る訴訟で最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)が3日、旧法を違憲とし、国の賠償責任を認める統一判断を初めて示した。旧法制定から70年あまり。判決により被害者の全面救済への道が開かれたが、長すぎる歳月により、この世を去った当事者もいる。原告らには喜びとともに、やるせなさも交錯する。

「妻も天国から喜んでいると思います」

判決後、手話でそう話した原告の一人の小林宝二(たかじ)さん(92)=兵庫県明石市=の傍らには、89歳で亡くなった妻の喜美子さんの遺影があった。この日の最高裁判決を迎えることなく、令和4年6月に亡くなった。

ともに聴覚障害を抱え、一緒に提訴に踏み切った妻。「この判決を待っていました」。宝二さんは判決後、手話で喜美子さんの思いを代弁した。

■「赤ちゃん、だめ」

兵庫県出身の2人は知人の紹介で知り合い、昭和35年に結婚した。間もなく、喜美子さんの妊娠が分かった。

「男の子かな、女の子かな」「どちらでもいいな」。職場で障害者差別を受けていたという宝二さんにとって、妻の妊娠は「跳び上がるほどうれしかった」。

だがある日、宝二さんが仕事から自宅に帰ると、喜美子さんの姿はなかった。10日ほどして戻った喜美子さんは、泣いていた。

「赤ちゃん、捨てた」。喜美子さんは多くを語らなかったが、腹には大きな傷痕があった。

宝二さんの母は喜美子さんの妊娠を喜んでおらず、母親が中絶手術をさせたと思った。激怒し、身ぶりで問いただすと、母親は「赤ちゃん、だめ」と答えるばかり。宝二さんは「あんたたちは耳が聞こえないから、子供なんて育てられない」と言われているように感じたという。

夫妻はその後も子供を望んだ。「子供がいたら、とてもかわいがるのに」と話したこともある。だが、子宝に恵まれないまま、長い歳月だけが過ぎていった。

■「元に戻して」