27年目の夏山診療所へ準備 北アルプス・蝶ヶ岳

AI要約

名古屋市立大の学生や医師らが、夏山シーズンに北アルプス・蝶ヶ岳で体調不良の登山者らに対応するボランティア活動を続けている。

市立大の「蝶ヶ岳ボランティア診療班」は1998年から夏の約1か月間、山頂近くの山小屋に診療所を設け、医師や学生が無料で診察や治療にあたっている。

診療所での活動は社会貢献だけでなく、研究と教育の場にもなっており、今後も安全を第一に活動を継続していく意向。

 名古屋市立大の学生や医師らが、夏山シーズンに北アルプス・蝶ヶ岳(長野県、2677メートル)で体調不良の登山者らに対応するボランティア活動を続けている。近年はコロナ禍で規模を縮小していたが、27年目の今夏は約1か月活動する予定で、7月の開所に向けて準備を進めている。

 蝶ヶ岳は山頂から槍ヶ岳などが見渡せる人気の山で、例年5000人以上が訪れる。中高年の登山者も多く、登山中に体調を崩したり、けがをしたりしてしまう人もいる。

 市立大の「蝶ヶ岳ボランティア診療班」は1998年から夏の約1か月間、山頂近くの山小屋「蝶ヶ岳ヒュッテ」内に診療所を設け、医師や看護師、薬剤師らが交代で常駐し、無料で診察や治療などにあたる。学生は問診や診察を補助するほか、登山者に対して健康状態を確認するための声かけも行う。

 活動のきっかけは、山小屋オーナーの中村梢さんが市立大病院に入院したことにある。同時期に娘が入院していた同大元准教授の三浦裕さんが、当時オーナーだった中村さんの母親から、蝶ヶ岳での登山者の死亡事故について知らされ、大学などの協力を得て開設にこぎ着けた。

 これまでに対応した患者は3000人以上にのぼる。高山病や低体温症、熱中症、骨折など症状は様々で、「Zoom(ズーム)」で地上の専門医らにつないだり、消防や県警と連携してヘリコプターで患者を搬送したりしたケースもある。活動費や薬剤の購入費などは大学や医学部同窓会、長野県の支援などで賄われている。

 山上では活動に必要な物資や水などが限られる。学生時代から活動に関わる愛知県の一宮市立市民病院の医師畑中景さんは「物資や薬剤は常に吟味し、水も自分たちが使う分を荷上げしたこともある」と説明した。そのうえで「体力的な負担も大きいが、早くから患者と接した経験やOB、OGとのつながりは今に生きている」と語った。

 2020年と21年はコロナ禍で診療所を開所できず、22年から徐々に活動を再開してきた。今年は本格的に活動する予定で、今月2日に名古屋市内で壮行会が行われた。リーダーとして参加する医学部3年生の藤井祐宇さんは「患者としっかりコミュニケーションをとり、よりよい治療の手助けをしたい。診療班の使命や意義を再確認する機会にもしたい」と意気込む。

 診療班代表の酒々井真澄教授は「診療所での活動は社会貢献だけでなく、研究と教育の場にもなってきた。安全を第一に、活動を次世代に引き継いでいきたい」と話している。