硫黄島の収容遺骨1万610体、これが「極めて曖昧な数字」という厳しい現実

AI要約

硫黄島での日本兵1万人の行方や出来事についてのノンフィクションが話題となっている。

取材中に訪れた国会議事堂での体験を通じて、戦争の歴史に思いを馳せた。

参議院議長とのインタビューで、遺骨収集問題に対する深い思い入れが伺えた。

硫黄島の収容遺骨1万610体、これが「極めて曖昧な数字」という厳しい現実

 なぜ日本兵1万人が消えたままなのか、硫黄島で何が起きていたのか。

 民間人の上陸が原則禁止された硫黄島に4度上陸し、日米の機密文書も徹底調査したノンフィクション『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』が10刷決定と話題だ。

 ふだん本を読まない人にも届き、「イッキ読みした」「熱意に胸打たれた」「泣いた」という読者の声も多く寄せられている。

 2018年2月に東京支社に配属されて以来、国会議事堂には数え切れないほど足を運んだ。閣議後の大臣の会見や、重要法案の審議などの取材のためだ。しかし、戦争関連の取材で訪れるのはこれが初めてだった。そんなことを思いながら見上げた国会議事堂は、いつもと違って見えた。

 かつて帝国議会議事堂と呼ばれたこの建物が竣工したのは、1936年。軍部の政治的台頭をもたらした二・二六事件が起き、国際的孤立が進む中で日独防共協定が成立した年だ。国民を奈落の底に突き落とした政治の歴史が刻まれた「戦跡」だと思った。

 地下鉄の丸ノ内線国会議事堂前駅から地上に出て、西側の門から参議院へ。警備員に教わった経路を辿って議長室に辿り着いた。入り口に立つと、デスクワークをしていた職員3人が作業の手を止めて起立した。要人ばかりが訪れる部屋なので、そうするのが慣例なのだと僕は思った。そして、左手奥の部屋から、メールでやりとりしてきた秘書の女性が現れ、僕を中に導いてくれた。

 その部屋こそ、参議院議長が執務する部屋だった。高い天井、大きな窓。机や椅子などの調度品はクラシカルなデザイン。どれも歴史的なものに見えた。一般に、僕は要職にある公人のインタビューは最大30分としている。実際、先方から示される取材可能時間も30分の場合が多いという経験則に基づく。

 しかし、尾辻氏は1時間5分にわたり、話を聞かせてくれた。30分を超えたあたりから、僕は議長室の片隅にいる秘書にちらりと視線を送り、まだ続けてもいいですか、と目でサインした。秘書は、どうぞ、という目のサインを返してくれた。

 尾辻氏にとって、遺骨収集問題は、さまざまな社会的問題の中でも、思い入れの深いテーマなのだ、と僕は途中で気付いた。僕が質問を締めくくるまで、尾辻氏は応答を切り上げようとしなかったのが印象的だった。