「消滅可能性自治体」発表の是非 人口戦略会議と農村政策専門家に聞く

AI要約

人口戦略会議が消滅可能性自治体に関する推計を再度発表し、大都市と地方の人口格差を明らかにした。地方創生政策の評価や出生率向上策なども議論されている。

推計によると、若年女性の人口減少率が50%とされ、地域ごとの取り組みや連携が重要視されている。また、閉塞感を払拭し、多様な人が参加する地域づくりが求められている。

地域の個性を生かし、互いに補い合いながら将来に向けた取り組みを進めていくことが必要とされている。

「消滅可能性自治体」発表の是非 人口戦略会議と農村政策専門家に聞く

 4月に有識者らでつくる「人口戦略会議」が発表した消滅可能性自治体の波紋が広がる。同会議副議長で、10年前も同様の推計で中心人物だった増田寛也氏(日本郵政社長)に狙いや推計に関する批判への受け止めと、農村政策を専門とする明治大学農学部の小田切徳美教授に見解などを聞いた。(聞き手・尾原浩子)

 ――再度「消滅可能性自治体」の推計を発表した狙いは何ですか。

 地方から若年人口を呼び集める大都市側の問題を分かりやすく可視化したいと考えた。10年前の分析はいわゆる「消滅可能性都市」だけを浮き彫りにしたが、10年たち自然増が全く改善されていない都市側の実態を明らかにする必要があった。また、「自立持続可能性自治体」も提示した。この二つを特に伝えたかった。

 ――10年間の政府の地方創生政策をどう評価しますか。

 人口対策は自然減と社会減の両方ある。政府の地方創生の取り組みは社会増減が中心で、自然減は「子ども子育て本部」(こども家庭庁)に対策が移行した。出生率がずっと下がっていて、自然減対策は(地方創生の)効果がなかった。

 ――地方創生は失敗ということでしょうか。

 政府は合計特殊出生率の目標値を1・8とする。結果は出ていない。しかし、この対策は長い年月をかけるもの。失敗や成功と白黒つけるより、意思を結集した大きな司令塔の下で取り組んでほしい。

 出生数の減少にブレーキをかけるためには数十年の時間を要する。すぐには取り組みに効果が出ないので、対策をやり続ける強い意志が鍵だ。政府には地方創生のこの10年間の検証をして、これからに生かしてほしい。

 ――出生率向上の具体策は何ですか。

 いくつかある。出産、そして子どもが生まれた後の対策は、経済的な支援も含め以前に比べれば講じられている。ただ、女性の働く環境をこれからの時代に合ったものにしていく必要がある。それから婚姻数の減少対策。若い男女を取り巻く環境をどれだけ改善できるかが問われる。

 自治体は今の状況を分析し、地域住民で共通認識をしっかりと持つところから始めてほしい。例えば公共交通機関の衰退など本当に差し迫った問題がある時に対策を考えてきたが、全体の大きな(人口の)変化を地域ごとに捉えることからスタートしてほしい。

 ――全国の首長などから「危機感をあおる」「分断を生む」など批判が続出しています。

 人口減少の問題はよく「静かなる有事」といわれる。あまり意識しないうちに、ひたひたと進み、気が付いた時にはもう取り返しのつかない危機的な状況になっている。日本がそういう道を一番先頭で走っている状況だ。

 さまざまな受け止め、違う考え方が当然ある。ただ、データと問題提起が示された時、それに対してどういうふうにしていくか、自分たちなりに考えることが大切だ。

 10年前も推計に対しお叱りを頂いた。それでも、契機としていろいろなことに取り組んだ自治体がある。

 ――危機感をあおる「ショック療法」で諦める自治体もあるのではないですか。

 それぞれの受け止め方。自治体などは正面から向き合っていかなければいけない。10年たち、どういう数字になっているかは地域を考えるデータであり材料だ。人口減に向き合わないと問題は解決しない。

 私は20年以上前から、人口減少への問題意識を抱いてきた。現実をきちんと受け止めた上で、将来に向けてどうしていけばいいか、やり方は地域によっていろいろある。しっかりとデータに基づいた形で地域づくりを進めることが将来に生かされる。

 ――若年女性の人口減少率で、50%は消滅するとした理由は何ですか。

 どこかの数字で区分けしなければいけない。人口の将来推計は人口学的にきちんと成り立っている。

 若年女性をベースにしている違和感はあるのかもしれないが、男女だとずれが大きくなる。ただ、女性に出産の社会的なプレッシャーを与えてはならない。

 ――市町村合併や集住を促す考えはありますか。

 市町村が合併したら人口減に耐えられるかというのは、少し違う。合併は自治体の体力を削る。考えるべきなのは、自治体間で広域連携を取ること。足りない点は連携で補い合うことが重要だ。

 地域づくりは合意形成が根幹。時間がかかる。住民たちが「集住したい」という合意形成がされれば集住も選択肢だが、地域の意思を尊重することが重要で、地域ごとに考える話だ。

 ――自治体や農業関係者に期待することは何ですか。

 今後は、二地域居住や多地域居住がキーワードになる。関係人口や、地域の個性が生かされることが大切だ。農業に限らず、外から入ってきた人を拒まずに一緒に歩んでいくことが大事だ。

 地域に閉塞(へいそく)感を抱いている人たちがいる。閉塞感を分解するといろいろな側面が見えてくる。同質の決まったメンバーの中で物事を決めることへ若い世代は抵抗感を持ちがちだ。世代交代し、外部から多様な人が入ってくることをうまく受け入れて地域づくりを進めてほしい。