防音の個室・託児サービス備えた地方議会…子供連れ傍聴OKで「関心高めたい」

AI要約

福岡県議会では親子傍聴席を新設し、子育て世代に政治への関心を高める取り組みが進められている。

全国の市区議会でも乳幼児連れの傍聴者向けの取り組みが広がりつつあるが、利用が低いケースもある。

専用の設備やサービスの整備だけでなく、議員と市民のコミュニケーションが必要とされている。

 防音の個室に託児サービス、授乳スペース――。地方議会が、子ども連れでも傍聴しやすいよう設備や支援体制を整えている。子育て世代に政治への関心を高めてもらいたいとの思いがあるようだ。(南暁子)

 福岡県議会では昨年12月、傍聴スペースの一部を改修した「親子傍聴席」(約20平方メートル)が新設された。遮音性の高いガラス窓を設置した個室で、質疑は天井のスピーカーで聞くことができる。ベビーベッドとカーテンが備えられた授乳スペースもある。

 2019年に乳児を連れて傍聴に訪れた市民が、乳児が泣くたびに議場の外に出なければならなかったことから、各会派が「安心して傍聴してもらえる環境を作ろう」と設置を決めた。改修費は約770万円。今年5月までに6組が利用した。利用者からは「子どもが騒いでも退出せずに聞けてよかった」などの声が寄せられているという。

 県議の一人は「傍聴席に子どもがいるのを見ると、子育て世代のための政策を考えるのにもより力が入る」と話す。県議会総務課の安井慶子課長補佐は「気兼ねなく傍聴してもらうことで、子育て世代にも政治に参画してもらうことができる。その結果、投票率アップにもつながれば」と期待する。

 全国の815市区議会でつくる全国市議会議長会が22年12月、各議会に乳幼児連れの傍聴者のための取り組みを自由記述形式で初めて尋ねたところ、回答した134市区のうち横浜市や兵庫県伊丹市など61市区が、個室や専用席を備えていると答えた。託児サービスの提供を挙げたのは、大阪府吹田市や東京都杉並区など24市区だった。

 身体障害者が傍聴しやすいよう、傍聴席に車いす用のスペースやスロープを設けるなどした472市区(21年12月時点)と比べればまだ少ないが、子育て世代への配慮も、開かれた議会を目指す取り組みの一環と言える。

 設備やサービスは整えたものの、利用が低迷するケースもある。

 大阪府茨木市は06年6月、個室の傍聴席の一部を約40万円かけて改装し、ベビーベッドや長いすを置いて親子向けの「特別傍聴室」にした。しかし、少なくとも過去2年間の利用はゼロ。一般席と車いす席は計50席あるが、傍聴者数は昨年1年間で69人にとどまる。

 担当者は「市議会のSNSで傍聴を呼びかけてはいるが、自宅などでネット視聴をする人が多いのではないかと思う」と話す。吹田市の託児サービスも6年前から利用がないという。

 松本正生・埼玉大名誉教授(政治意識論)は「市民は議員の仕事ぶりを知る機会が乏しく、遠い存在ととらえがちだ。議会側が、若い世代に働きぶりを見せる努力をすることは評価できる」とした上で、「傍聴者を増やすには、議員が自ら地域でアピールしたり、いつ、どの会議で何を話し合うのか、『議会だより』やホームページでわかりやすく情報発信したりする必要がある」と指摘する。