埼玉県のクルド人排斥が激化 レイシストによるヘイトデモや暴行事件も

AI要約

川口市や蕨市で増加するクルド人へのヘイトスピーチと暴力行為についての懸念が高まっている。

ヘイトデモや差別煽動の問題が深刻化し、具体的な事件も発生している。

クルド人に対する差別や暴力に対して、法律での規制や地域の取り組みが求められている。

埼玉県のクルド人排斥が激化 レイシストによるヘイトデモや暴行事件も

 埼玉県南部の川口市、蕨市に多く暮らすクルド人への排斥が危険水域にまでエスカレートした。「強制送還せよ」と叫ぶヘイトデモが毎週のように行なわれ、差別を動機に物理的な暴力で危害を加えるヘイトクライムが相次ぐ。

 クルド人を攻撃するヘイトスピーチは昨年春、SNSで火が付いた。難民申請者を強制送還できるようにする入管法(出入国管理及び難民認定法)の改悪法案に反対する姿が差別者たちの目に留まった。「国家を持たない最大の民族」とされるクルド人はトルコやシリアなどで迫害にさらされてきた。庇護を求めて日本へ渡るも、国際基準からかけ離れた認定制度の下、難民認定されたのは裁判を経た1件のみ。在留資格が得られぬまま仮放免という無権利状態に置かれている人も少なくない。差別者にとっては最も立場が弱く、何をしても構わない格好のターゲットに映るのだろう。「全員殺せ」「射殺せよ」などジェノサイドの煽動までがネット上で横行する。

 これに便乗したレイシストグループが埼玉へ乗り込み、川口駅や蕨駅前でヘイトデモや差別煽動街宣を繰り返すようになった。4月はデモが2回、5月は12日から3週連続でデモと街宣があった。日の丸を掲げて「クルド人は日本から出ていけ」と叫ぶ差別主義者を数百人もの機動隊が警護するという醜悪な光景は、マイノリティを恐怖させるに十分な害悪をまき散らした。4月のデモではこの国で最悪のレイシスト、差別団体「在日特権を許さない市民の会」前会長の桜井誠氏までが姿を現し、デモ隊を先導している。

 事件が起きたのは、そうした最中の5月10日午後2時半ごろ。さいたま市内のクルド人解体業者の資材置き場に不審な乗用車が現れ、運転席の男が盗撮を始めた。居合わせたクルド人男性が誰何しようとすると、男は逃走。車で追跡した男性が赤信号で止まったところで車を降り、前方に回り込んで顔写真を撮影した。すると男は車を急発進させ、バンパーが男性の左膝に衝突したという。男性は全治1週間のけがを負った。男はそのまま逃げ去った。

 被害届を受理した埼玉県警岩槻署は道路交通法違反(ひき逃げ)で捜査を進めているが、クルド人男性は「私が前にいるのを分かっていながら車を発進させ、わざとぶつかった。これは交通事故ではない。殺人未遂だ」と訴える。

 クルド人に対しては差別のネタ探しのように盗撮行為が頻発する。解体現場や資材の運搬車の様子をネットでさらされたり、コンビニ店の前でたばこを吸っているだけでスマートフォンを向けられたりして、多くのクルド人が外出時、後ろを振り返りながら歩くようになっているという。

 事件はヘイトスピーチに煽られ、差別行為に同調した男が危害を加えようとアクセルを踏んだ可能性がある。車をぶつけられる直前、男性が「どうして逃げているの」と声をかけたところ、男は「外国人怖い」と差別意識をむき出しに言い放ったという。

 2日後の12日にはJR川口駅前でヘイト街宣が行なわれ、参加者のレイシストが抗議の声を上げた男性の顔を殴り、左目にけがを負わせる傷害事件も起きた。被害者はマジョリティの日本人だが、クルド人への敵意が根底にあり、差別を動機にした犯罪であるヘイトクライムに当たる。

 車にはねられた男性は「差別を禁止する法律、ヘイトスピーチを規制するルールが必要だ。なければ差別が大きくなる。子どもたちが誰かに差別で殴られたらどうしたらいい?」と不安を吐露する。支援に取り組む市民団体「在日クルド人と共に」の温井立央代表は「蕨市ではかつてフィリピン人や中国人を排斥するデモがあったが、クルド人に対する執拗さ、やり口は異様だ。後ろ盾のなさにつけ入る卑劣さが露骨に出ている。差別を許さないという行政の発信が重要で、川崎市のように罰則付きの条例を定め、地域の安定性を揺るがすヘイトスピーチを具体的に食い止めるべきだ」と話している。