市民3人殺害の“凶悪ヤクザ”が自殺→日本中の矯正施設で「色鉛筆の使用」が禁止になったワケ

AI要約

法務省の改正訓令により、死刑囚の自室での色鉛筆および鉛筆削りの使用が禁止された。

元組長の矢野治死刑囚が刑の確定後に余罪を告白し、自殺するまでの事件の一部始終。

矢野は鉛筆削りから取り出した刃物で首を切るという手段で自死した。

市民3人殺害の“凶悪ヤクザ”が自殺→日本中の矯正施設で「色鉛筆の使用」が禁止になったワケ

〈「職員たちもピリついていた」何から何まで特例つづき…“カルロス・ゴーンの国外逃亡を手伝った親子”が日本の拘置所で見せた「驚きの態度」〉 から続く

 2022年10月には法務省によって訓令が改正され、死刑囚は自室での色鉛筆および鉛筆削りを使用することが正式に禁止された。その発端となる、ある凶悪ヤクザの死とはいったい…?

 死刑囚や重大犯罪被疑者など約1万人の理髪を担当をした、ガリ氏による初の著書『 死刑囚の理髪係 』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

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 刑が確定したあとに余罪を告白する死刑囚は、他にもいた。

 住吉会系の組織の元組長である矢野治死刑囚も、そのひとりだ。

 矢野は同業のヤクザも恐れをなすほどの冷酷な武闘派で、その手にかかり命を落とした関係者は数十人にものぼると言われている。群馬県前橋市で起きたスナックでの銃乱射事件を指揮したとして逮捕され、死刑判決が言い渡された。4人が死亡、そのうちの3人が無関係の一般人という、悲惨な事件だった。

 死刑の判決が出た後、矢野は別件での2人の殺人を告白した。真相はわからないが、捜査を長引かせることで刑の執行を長引かせようとしていたのかもしれない。

 2020年1月、矢野は東京拘置所内でその命を落とした。

 絞首刑によってではない。自殺だった。

 その日は朝から職員たちの様子がおかしく、何かトラブルがあったのだろうとは思っていたが、「矢野が自死した」という情報は昼の運動の時間には既に全員に知れ渡っていた。

 ニュースや新聞では「刃物を用いての自殺」としか報じられていなかったが、ではどのようにして、矢野は舎房の中に刃物を持ち込んだのか?

 私が施設の中で聞いた事件の真相は、こうだ。

 東京拘置所では、どの収容者も色鉛筆を購入することができる。

 長い懲役生活で蓄積された自己理解や鬱憤を創作活動に充てる囚人は、案外多いのだ。描かれた絵は、展示会などに出展されることもあった。

 そしてその色鉛筆に使用する鉛筆削りもまた、購入可能品のうちのひとつだった。手動タイプの小さなもので、文房具店などで見かける色鉛筆セットに付属しているものを想像してもらえるといいだろう。

 矢野が自殺に用いたのは、この小さな鉛筆削りだった。正確には、鉛筆削りに付いている小さな刃物だ。どうやってネジを緩めたのかはわからないが、分解した鉛筆削りから刃物だけを取り出し、自らの首を掻き切ったのである。

 施設内で毎日同じような生活を送っていると、日常の小さな変化にもよく気づくようになってくる。当たり前のように使用が許可され、誰もその危険性を疑うことのなかった鉛筆削り――その鉛筆削りの内側にきらりと光る鋭い刃物は、矢野にとって天からの救いに見えていたのだろうか。