賃金不払い、ハラスメント…不適切な雇用主に共通の「言い分」

AI要約

労働分野の取材を担当していると、勤務先で不当な扱いを受けた社員の声をよく聞く。解雇や賃金不払い、ハラスメントなどの事例を取り上げ、会社側の言い分を振り返る。

賃金未払いに関する取材では、オンラインで働く会社で元社員が不払いに遭ったが、会社側は個人の損害賠償の可能性を懸念し、支払いを保留する姿勢を見せる。

さらに別の事例では、セクハラの被害を受けて労災認定された女性社員が休職中に解雇され、労基法違反として撤回を求めるケースが紹介される。

賃金不払い、ハラスメント…不適切な雇用主に共通の「言い分」

 労働分野の取材を担当していると、勤務先で不当な扱いを受けた社員の声をよく聞く。解雇や賃金不払い、ハラスメントなど事情はさまざま。記事にする際は原則、雇い主にも話を聞く。なぜその対応をしたのか、適切と考えているのか-。取材ノートから会社側の言い分を振り返ってみた。

 仕事を全てオンラインで行う会社の元社員数人が、賃金の不払いに遭った。在職中も辞めた後も請求したが支給されない。退職後は、やがて社長と連絡が取れなくなった。(「完全オンラインの仕事」に落とし穴? 賃金未払い、連絡も途絶え=2024年1月西日本新聞掲載)

 この会社に取材を申し込んだところ、社長を名乗る人物がオンラインで応じた。先方は顔を映さず、やりとりは音声のみ。元社員5人に不払いがあり、このうち4人には退職後に数カ月遅れで支払ったと話す。

 残る1人は在職中、正社員か業務委託契約かで認識が食い違い、やりとりを通して「会社が損害を受けた」として、取材時点で支給を控えていた。別の4人への支払いが遅れたのも、大半がこの1人の味方をしたことなどが理由という。

 「働いた分の給料を求めるのは権利で正しいと思うけど、払うべきか悩ましい。会社対個人で損害賠償の訴訟になると、会社が勝っても個人から回収するのは難しいですよね。損害を回収できないのに給料だけ払うと損だから保留にした」と社長。

 労働基準法は雇い主に、賃金の全額を毎月1回以上、期日を定めて支払うよう義務付けている。違法の疑いを指摘すると、「法律の詳しい内容は知らない」「そういう話になるなら取材は終わりにしたい」。

 最後は、こう言い放った。「向こう(元社員)の言い分が正しいとは思わないけど、めんどくさいので払いますよ」。約2週間後、残る1人にも給料が振り込まれた。

 上司のセクハラでうつ病を患い、労災認定された福岡市の女性が休職中に解雇された。労基法は仕事で体調を崩した休職者の解雇を禁じる。女性の弁護士が法律違反として会社に撤回を求め、取り消された。(職場のセクハラで労災認定、休職中の女性を解雇 福岡市の会社が労基法違反か=24年4月西日本新聞掲載)

 このケースでは、取材を依頼すると約1週間後に社長から電話があった。社長は「女性には休職中も給料を出していたが、休んでから1年が過ぎ、支払い続けるのは難しかった。『ノーワークノーペイ』の原則もありますし」と解雇の理由を説明。女性の労災申請は認められないと予想しており、認定されたことは知らなかったと続ける。

 だが、そもそも労基法は、社員が仕事で体調を崩して休職した場合、労災認定がなくても解雇を禁じている。そのことを追及したところ、返答は「そのあたりは明るくなくて、社労士と協議して解雇を決めた」だった。

 加害者の男性社員はセクハラ行為がエスカレートし、女性への暴行罪で罰金の略式命令を受けた。社内処分に関して、社長は「本人には反省文というか、なぜ(セクハラが)起きたかなどを記した文書を提出させた」。社内に懲戒規定はなく、一時的に出勤停止とした後に復帰を認めた、と続けた。

 その後、女性の弁護士への取材で、会社は以前から就業規則で懲戒規定を定めていたことが明らかになった。