「地震が起きたら机の下」で、ほんとうに良いのか

AI要約

熊本地震における地震動の特徴としては、前震も本震も木造建築物が損壊を起こしやすい1サイクル1~2秒周期の揺れが卓越し、耐震性の高い建物との差が顕著である。

木造建築物の建築時期によって建物被害の程度が大きく異なり、2000年基準以降の建築物は耐震性が高いことが証明されている。

地震時の行動は建築時期によって異なり、建物の耐震性や安全行動を事前に確認しておくことが重要である。

「地震が起きたら机の下」で、ほんとうに良いのか

 布田川断層帯が動いた活断層型地震である熊本地震は、2016年4月14日にM6.5の地震(前震)が、4月16日にM7.3の地震(本震)が発生し、いずれの地震でも最大震度7が記録された。4月14日以降の3日間で震度6弱以上の強い揺れをもたらす地震が7回発生している。熊本地震における地震動の特徴としては、前震も本震も木造建築物が損壊を起こしやすい1サイクル1~2秒周期の揺れが卓越し、阪神・淡路大震災の時にJR鷹取駅地点での応答スペクトル記録に類似していた。

 国土交通省国土技術政策総合研究所などにより取りまとめられ、2016年9月30日に発表された「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」の報告書には、地震時の行動を示唆する興味深い内容が記載されている。

 結論から言うと、木造建築物は建築時期によって建物被害の程度が大きく左右されるというものである。2016年熊本地震の前震・本震で震度6強~震度7の揺れが観測された益城町、西原村、南阿蘇村の木造建築物1955棟の現地調査・分析結果を見ると、それが顕著に表れている。

 1981年5月31日以前の「旧耐震基準」で建てられた木造建築物は、全壊・大破合計が45.7%。1981年6月1日~2000年5月31日までの「新耐震基準」で建てられた木造建築物でも全壊・大破が18.4%に上る。しかし、2000年6月1日以降の「2000年基準」で建てられた木造建築物は、全壊・大破は6%に過ぎなかった。

 2000年の主な耐震基準改正点は、「地盤に応じた基礎設計」、「基礎と柱との接合部にの金具取り付け」、「耐力壁のバランスと配置」などが強化された。その有効性が熊本地震で如実に証明されたのである。つまり、耐震性の高い鉄筋コンクリートの学校やマンションであれば「地震!  机の下」でも良いが、木造建築物では建築時期を地震時行動の一つの目安にする方法もある。

 阪神淡路大震災の時、震源に近い神戸市三宮のコンビニに設置されていた防犯カメラには、約5秒間の小さな揺れ「初期微動」のあと、10秒以上も大揺れ「主要動」が続く様子が映っていた。大揺れになると人は揺れに翻弄され立っていることさえできない状態に陥る。しかし、初期微動や緊急地震速報の時点では、まだ動ける可能性が高く、その数秒間の建築時期に合致した行動が極めて重要になる。

 例えば、2000年基準(2000年5月31日)以前に建てられた木造家屋の1階にいる時、小さな揺れを感じたり緊急地震速報が鳴ったりしたら、大揺れになる前に玄関に行ってドアを開け、靴を履く。倒壊の危険があると思ったら直ちに外へ脱出することだ。そのためにも事前に出入口の落下物対策が必要なる。2000年基準前の建物の2階にいたら、あわてて1階に降りない。経験則だと、2階にいた方がつぶれても隙間ができやすく助かる率が高いからだ。

 2000年基準以降の木造建築物だったら、倒壊の危険性は比較的低いので、すぐに外へ飛び出さない方がいい。ただ、ドアが変形し閉じ込められる恐れがあるので、できたら玄関ドアを開け、手を放しても閉まらないようストッパーなどをかい、命の通り道を確保しておく。もし、就寝中などの地震で移動する猶予がなければ、枕やクッションで頭を守り、近くの机の下やベッド横の隙間にうつ伏せになって揺れが収まるのを待つ。

 たとえそれが空振りだったとしても、地震の小さな揺れや緊急地震速報が鳴るたびに、大揺れ前の安全行動を習慣付けることが命を守る実践訓練になるのだ。

 このように、その時いる場所(建物)の耐震性や建築時期によって地震時の行動は違ってくる。しかし、いざ大地震になってから、建築時期を調べようとしても間に合わない。

 防災はイマジネーションが重要である。平時のうちに、自宅、職場、通勤経路、よく利用する店舗などの建築時期や耐震性を確認しておき、「今ここで大地震に襲われたら、どうなる」「安全ゾーンや一時退避場所はどこか」「どう行動して命を守るか」「揺れが収まってから、さらに安全な場所に避難するにはどうするか」などを繰り返しシミュレーションしておくことが実践的防災訓練になる。