ヤン坊マー坊に大革命!批判も恐れずデザインリニューアルに踏み切ったヤンマーの想いとは?

AI要約

ヤン坊マー坊のデザインが2024年に大幅リニューアルされることになり、その背景には企業のパーパスを実現し、世界的な認知を拡大するための想いがあった。

リニューアルにあたっては一般投票が実施され、新デザインのヤン坊マー坊は「心を動かし、未来を動かす」キャラクターとして活躍することが目指された。

惜しむ声やネガティブな反応もある中、ヤンマーは新しいヤン坊マー坊を活用し、世界的な認知拡大や次世代層の関心を引く取り組みを進めている。

ヤン坊マー坊に大革命!批判も恐れずデザインリニューアルに踏み切ったヤンマーの想いとは?

「ぼくの名前はヤン坊、ぼくの名前はマー坊」というフレーズに馴染みがある人も多いだろう。1959年から2014まで放送されていた「ヤン坊マー坊天気予報」のテーマソングだ。そして、番組の顔として活躍していたのが双子のキャラクター「ヤン坊マー坊」。2人は発電機、農機、建機、小型船舶の製造販売を行うヤンマーの企業キャラクターとして長年親しまれてきた。ところが、この2人のデザインが2024年1月に大幅刷新し、SNSを中心に話題を呼んだ。企業の顔であるマスコットキャラクターやロゴを変更することは、賛否を生みやすい。ヤンマーはなぜこの決断に踏み切ったのか?ヤンマーホールディングス株式会社ブランド部コミュニケーション部PRグループの南口奈央さんに話を聞いた。

■時代に合わせてリニューアルを重ねたヤン坊マー坊のデザイン

そもそも、ヤンマーが長年、天気予報番組を制作していたのはなぜなのだろうか?

「1950年代、農業や漁業にとって、天気は重要な情報でした。ヤンマーが深く関わってきた農家・漁師のみなさまに役立つ情報を届けるため、天気予報を1959年から開始しました。番組を作るにあたって、堅い企業のイメージを払拭して、広く親しんでもらいたいという想いで、天気予報のキャラクターとしてヤン坊マー坊が誕生しました」

番組開始当初のヤン坊マー坊を見ると、等身が高くてスリム。多くの人がイメージするヤン坊マー坊よりも“お兄さん”な印象を受ける。その後、時代のトレンドに合わせてヤン坊マー坊のデザインは徐々に変化。等身は低く、子どもらしいはつらつとした表情が印象的なキャラクターになっていった。

「55年継続してきたCMは、ライフスタイルの変化や、天気予報などに求められるものが変わってきたため、2014年3月末で終了しました。一方、ヤン坊マー坊は、CM終了後も滋賀県長浜市にある『ヤンマーミュージアム』や、お客様向けのノベルティでも継続して活躍していました」

2019年にはヤン坊マー坊生誕60周年を記念し、CGを取り入れた立体的なデザインが“8代目”ヤン坊マー坊として登場している。しかし、短い黒髪のスタイル、少年らしい服装という基本コンセプトは初代から変わらず、人々が持つヤン坊マー坊のイメージは保たれていた。それをなぜ、このタイミングで大幅リニューアルへと踏み切ったのだろうか?

「当社は、人の可能性を信じる、人の挑戦を後押しする価値観のもと、世の中の声に耳を傾け、ともに“A SUSTAINABLE FUTURE”を創り出すことをパーパス(企業の社会的意義)に掲げています。これを実現すべく、ヤン坊マー坊をより幅広い層や国・地域において『心を動かし、未来を動かす』キャラクターとして活躍させるためにリニューアルを実施しました。日本において天気予報で親しまれてきたキャラクターであることを知らない世代や、ヤン坊マー坊を通じたグローバルでのヤンマーの認知拡大も目的のひとつです」

リニューアルにあたっては、3つのデザイン案を作成したうえで、一般投票で決定。9代目にして初の一般投票でのデザイン決定ということになる。

「2023年6月にヤンマーオリジナル商業アニメ『未ル』の制作を発表したのですが、このとき、国内外で大きな期待が寄せられるとともに、SNSを中心にヤン坊マー坊に改めて注目が集まりました。また、当社は世界各地に53の拠点を持っており、海外を中心とした社内においても、ヤン坊マー坊のさらなる活用についての期待と要望が高まってきていました。これら社内外での反響を受け、国や地域を問わず幅広い世代の声や想いを反映し、未来の可能性に一緒にチャレンジするキャラクターを目指し、一般投票という形でヤン坊マー坊のデザインリニューアルに至りました」

一般投票は2023年11月16日から12月7日に開催。結果、総得票数は7万6568票。そのうち4万9628票がB案に集まり、9代目ヤン坊マー坊の誕生に至った。

■惜しむ声は受け止めつつ、新たなチャレンジに向かう

一般投票のために作られた3つのデザイン案は、いずれも近未来的、SF的で2人のキャラクターカラーである赤と青が際立つものになっている。これには「“あきらめない”、“ワクワク感、つまり未来への期待感”、“チャレンジ精神”を表現していきたいという想いを込めた」と語る南口さん。

「リニューアル案は社外クリエイター陣と当社デザイン部が協力して制作しました。新デザインのヤン坊マー坊は、“A SUSTAINABLE FUTURE”の実現に向けて挑戦を重ねていく企業姿勢を表すキャラクターです。候補案のすべてにヤン坊マー坊のDNAが継承されており、『心を動かし、未来を動かす』という共通コンセプトを持っています。どのデザインが選ばれても、“ヤン坊マー坊らしさ”が残るように、ヤン坊マー坊の定義の再確認から、デザインの細部に至るまでディスカッションを重ね、絞り込みました」

デザイン面で大きな変更がありつつも、ヤン坊が兄、マー坊は弟という設定は健在だ。

「ヤン坊マー坊の従来からの子どもらしさや2人の関係性は残すことで、これまでのヤン坊マー坊に愛着を感じてくださっていたみなさまからも親しみを持ってもらいたいと考えています。また、今回のリニューアルにあたってキャラクター設定をより深掘りし、2人の子どもらしさや関係性がわかりやすくなるようにしています。たとえば、弟が兄を慕っている傾向から、ヤン坊には『しっかりもの』という性格設定を明記しました。マー坊は好きなこととして過去にテレビゲームやラジコン、スポーツなどがあったのですが、そこを現代風にeスポーツとすることで、トレンドに敏感で好奇心旺盛な性格を表現しています」

ヤンマーの強い想いを込めて新しく生まれ変わったヤン坊マー坊。しかし、これだけ大きな変化に対しては、少なからずネガティブな反応もあったはずだ。

「惜しむ声が出ていることについて、しっかりと受け止めております。一方で、世の中の流れや私たちを取り巻く環境が大きく変化する中で、これまでのみなさまの支えや応援に感謝しつつ、ヤンマー自身も新たなチャレンジをしていくことが大切だと考え、大きな決断をしました。今回、投票という形でアクションを起こしてくださったみなさまに心より感謝を申し上げたいです。一般投票という形で国や地域を問わず幅広い世代の声や想いを反映することで、未来にわたって愛されるキャラクターとして、さらに活用の場を広げていきたいと思います」

新しいヤン坊マー坊のノベルティはすでに展開中で、今後もラインナップを増やしていく予定だそう。

「各種イベント・展示会でも新デザインのヤン坊マー坊の活用を検討中です。ヤンマーミュージアムについては2024年度中を目途に順次切り替えていく予定にしており、多方面で活躍させていきたいと考えています」

ヤン坊マー坊起用の場としてすでに動いているのがヤンマーオリジナル商業アニメ「未ル」だ。

「『未ル』は企業ブランディングムービーではなく、ヤンマーが制作・プロデュースを手がけるオリジナル作品です。主人公が未来を変えるべく、仲間たちと力を合わせて努力し、ロボットと関わりながら成長していく物語です。アニメのストーリーに、持続可能な社会の実現に向けたヤンマーの想いを込めつつも、あえて『ヤンマー』を全面に出さない商業アニメとすることで、ストーリーを通してヤンマーの取り組みへの共感を増やすことを目的にしています。また、アニメが世界の共通言語となる中、海外での認知拡大の狙いもあり、アメリカ・ロサンゼルスで開催されたアニメイベント『Anime Expo 2023』への出展も行いました。ヤンマーオリジナルのアセットを制作し、中長期的なブランディングへの活用も見据えての取り組みです」

「あえて『ヤンマー』を全面に出さない」としつつも、メインビジュアルに登場する巨大ロボットの顔はヤンマーのロゴが潜み、ショベルカーのバケットが装備されるなど、デザイン面でもさりげなくヤンマーらしさが盛り込まれている。

「このロボットは当社デザイナーが原案を担当しています。デザイン部では、普段から製品の使われる場面やお客様をイメージし、人に寄り添う本質的なデザインを行っています。今回のロボットデザインも製品デザインと同様に、本質的な意味を込めたデザインを意識しました。あくまでロボットは人のためにあると考え、人に寄り添う有機的なフォルムと力強く機能的なアタッチメントを両立させるデザイン。対極的な組み合わせにより、独特の美意識を表現しています。ショベルカーも人の生活を支える産業機械であるように、この作品に登場するロボットは戦うための兵器ではなく、人に寄り添う存在として役割を果たすというのも特徴です」

「未ル」の公開時期や、ヤン坊マー坊がどのように登場するかは、決定したタイミングでリリースを発表していくそうだ。

ヤン坊マー坊のコンセプト「心を動かし、未来を動かす」、「未ル」のテーマから伝わってくるのは明るい未来に向かっていくというヤンマーの強い意志。ヤンマーでは、2024年1月に18歳から59歳を対象に未来に関する意識調査を実施している。

「この調査で、50%以上が自身や社会の未来に『不安を抱えている』と回答しました。一方で、このような状況の中でも未来を担う18歳から24歳の次世代層は、約60%が『やりたいことを見つけたい』と感じていることがわかりました。さらに次世代層の約70%がやりたいことを見つけるために体験機会が必要と考えていることも明らかになりました。今回、次世代層の『やりたいことを見つけたい』という想いや悩み、葛藤に着目し、このような秘めたエネルギーもまた、未来を動かす力だと考えています。今後ヤンマーは、次世代の気持ちに寄り添い、さまざまな体験機会を提供することにより、よりよい未来につながる心動かす瞬間をサポートしていきたいと考えています」

人々の心に寄り添い、ポジティブなエネルギーに変えていく。ヤンマーの想いをのせて新しいヤン坊マー坊が人々の先頭に立つ姿を見る日も近そうだ。

取材・文=西連寺くらら